破傷風|震災時に起こりやすい健康問題と予防法[3]

本人でさえ気付かないような小さな傷が原因で感染することもある破傷風。実は、子どものころにワクチンを受けたことがある人でも、20代以降は抗体が切れている可能性が高いのです。
災害にかかわる医療従事者ならぜひ知っておいてほしい破傷風について分かりやすくまとめました。

勝見 敦
(武蔵野赤十字病院救命救急センター部長・日本赤十字社災害医療コーディネーター)

 

震災時に起こりやすい健康問題と予防法[3]

破傷風

[目次]
破傷風とは
どういう症状が出現するか
どうやって治療・予防するか

 

破傷風とは

ほとんどの土壌に存在する常在菌である「破傷風菌」によって引き起こされる感染症です。
傷口から感染した破傷風菌が増殖し、強力な神経毒(破傷風毒素、テタノスバスミン)と溶血毒(テタノリジン)を産生することにより、3~21日の潜伏期間を経て症状が現れます。

 

東日本大震災(2011年)や関東・東北豪雨(2015年)では、倒壊した自宅などのガレキの撤去作業を行っていた被災者やボランティアの方々に破傷風の感染が確認されています。
震災後のガレキなどの片付け時に「古い釘を踏み抜いた」「ガラスで手を深く切った」という明らかな傷だけでなく本人でさえ気付かないような小さな傷が原因になることもあります。

 

破傷風は5類感染症(全数報告対象)のため、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出なければなりません。
近年の報告によると、致命率は約30%で、患者の95%が30歳以上となっています。
なお、基本的に土壌から傷口への感染のため、破傷風の患者からの直接感染はありません

 

どういう症状が出現するか

破傷風は、通常3 ~21 日の潜伏期を経て症状が出現します。出現する症状は以下の4段階に分けられます。

 

(1)第一期

潜伏期の後、口を開けにくくなり、が噛み合わされた状態(開口障害)になるため、食事をするのが難しくなったり、食べ物が飲み込みにくくなります。また、首筋が張り、寝汗、歯ぎしりなどの症状も出てきます。

 

(2)第二期

次第に開口障害が強くなってきます。
さらに、顔面筋の緊張、硬直により前額に「しわ」を生じ、 口唇は横に広がって少し開き、その間に歯牙を露出し、あたかも苦笑するような「痙笑」(ひきつり笑い)といわれる表情が見られるようになります。このような顔貌を「破傷風顔貌」といいます。

 

(3)第三期

頚部筋肉の緊張によって頚部硬直を起こし、次第に背筋にも緊張や強直を起こして破傷風に特有の後弓反張(こうきゅうはんちょう)が見られます。また、腱反射亢進、バビンスキーなどの病的反射、クローヌスなどがこの時期に出現します。

 

(4)第四期

全身性の痙攣は見られませんが、筋の強直、腱反射亢進は残っています。諸症状は次第に軽快していきます。

 

破傷風では初期症状(一般に第一期の開口障害)から、全身性痙攣(第三期)が始まるまでの時間を「オンセットタイム」といいます。これが48 時間以内である場合、予後は不良であることが多いです。

 

どうやって治療・予防するか

基本的に、けがをしたら傷口を水でよく洗い消毒するように指導します。
もし、顔や首の筋肉のこわばりや開口障害などを訴える方がいたら、早急に医療機関を受診するように勧めましょう。

 

破傷風は本人が気付かない小さな傷口からも感染します。そのため、本人に特にけがをしたという認識がない場合でも、上記のような症状が見られたら、破傷風を疑い、医師の診察を受けるように勧めてください。

 

破傷風の予防はワクチンの接種により可能です。
日本では1953年から破傷風ワクチンの任意接種が開始され、1968年からはジフテリア、破傷風、百日咳三種混合ワクチン(DPTワクチン)として定期予防接種が義務付けられています(2012年11月からは四種混合ワクチン)。
1968年以降に生まれた方は子どものころに予防接種を受けた方がほとんどだと思われます。

 

しかし、個人差はあるものの、このワクチンの効果は約10年ほどです。そのため、20代以降に破傷風トキソイドワクチンを接種していなければ、抗体はすでにないものと考えられます。
もし被災地でけがをするような可能性のある活動する予定がある方には、医療機関にてワクチンの接種をするよう勧めましょう。

 

 

[参考
1)破傷風とは:国立感染症研究所 
2)厚生省保健医療局結核感染症課監修.改訂・感染症マニュアル.マイガイア、1999、751p.. 
3)国立感染症研究所 2012年第45号<速報>東日本大震災に関連した破傷風 (2)
4)厚生労働省:破傷風についてのお知らせ

 

 

【勝見 敦 (かつみあつし) 】

経歴
1985年3月  岩手医科大学医学部卒業
1999年4月  日本赤十字社東京都支部武蔵野赤十字病院救命救急センター 副部長
2011年10月 日本赤十字社東京都支部武蔵野赤十字病院第二救急部長

 

東京医科歯科大学医学部臨床教授
岩手医科大学非常勤講師
放送大学講師 科目「災害看護学・国際看護学」

 

災害医療に関する資格

日本赤十字社医療コーディネーター
日本DMATインストラクター、東京DMAT講師、日赤DMATスタッフ
MIMMSインストラクター など
 

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