転倒後、外傷がなければ、毎日服用している睡眠薬を、そのまま投与しても大丈夫?
『いまさら聞けない!急変対応Q&A』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は転倒後の睡眠薬の投与について解説します。
及川真奈
日本医科大学多摩永山病院 救命救急センター/救急看護認定看護師
転倒後、外傷がなければ、毎日服用している睡眠薬を、そのまま投与しても大丈夫?
睡眠薬の作用によって、意識状態を正しく把握できず、緊急性のある病態を見逃してしまう可能性があるため、服用は避けたほうがよいでしょう。
転倒の背後には、緊急性の高い病態が潜在している可能性があります。そのため「なぜ転倒したのか」を考えることが重要です。
患者が転倒する原因は大きく分類すると、外的因子(照明が暗い・段差があるなど、環境に関する因子)と、内的因子(患者自身の問題)があります。
転倒の「理由」が重要
転倒の理由があいまいな場合や、まったく防御の姿勢をとらずに転倒した場合は、失神やけいれん(てんかん)などで、意識を失っていた可能性があります。この場合、意識消失の原因を検索することが大切です。
同時に、表面上は外傷がなくても、防御の姿勢をとらずに転倒しているため、局所性脳損傷(急性硬膜下血腫や脳挫傷・脳内血腫など)や外傷性くも膜下出血の可能性を考える必要があります。
特に高齢者は、交通事故よりも転倒・転落による頭部外傷が多いです。比較的軽度な外力でも頭部外傷が発生することを、知っておきましょう。
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意識状態は継続的にみる
頭部外傷の70~80%は軽症とされますが、まったく重症化しないわけではありません(表1)。
特に、抗血小板薬やDOAC(直接経口抗凝固薬)などを服用している患者が頭蓋骨骨折を起こした場合は、十分な注意が必要です。少なくとも12~24時間は、神経学的所見を継続的に観察する必要があります。
意識レベルの観察で使用されるGCS(グラスゴーコーマスケール)は、低い値であればそれだけで意味をなします。しかし、高い値の場合は、繰り返し確認して経過を追うことが重要です。GCSが2以上低下する場合は、要注意サインです。
患者の意識消失や健忘は気づきやすいですが、「なんとなくおかしい、同じことを繰り返し言う」なども意識障害の1つであり、見逃さないようにしなければなりません。そのため、催眠作用のある睡眠薬の服用は推奨されません。
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引用・参考文献
1)日本脳神経外科学会,日本脳神経外傷学会 監修,重症頭部外傷治療・菅理のガイドライン作成委員会 編:重症頭部外傷治療・管理のガイドライン第3版.医学書院,東京,2013:85‐94,150‐165.
2)岩田充永:高齢者救急 急変予防 & 対応ガイドマップ.医学書院,東京,2010:34‐41.
3)日本救急医学会 監修:改訂第4版 救急診療指針.へるす出版,東京,2011:432‐453.
本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『いまさら聞けない!急変対応Q&A』 編著/道又元裕ほか/2018年9月刊行/ 照林社