転倒後、バイタルサインや意識レベル、神経症状の異常がなければ、すぐ動かして大丈夫?

『いまさら聞けない!急変対応Q&A』(照林社)より転載。一部改変。
今回は転倒後の動かしてよいかの判断や移送方法について解説します。

 

望月由貴子
杏林大学医学部付属病院 高度救命救急センター/小児救急看護認定看護師

 

転倒後、バイタルサインや意識レベル、神経症状の異常がなければ、すぐ動かして大丈夫?

 

異常所見がなくても、完全に脊椎・脊髄損傷を否定することはできません。すぐに動かさず、損傷の可能性を念頭において、脊椎運動制限を行いましょう。

 

 

脊髄は、人体において、きわめて重要で、非常に繊細な組織です。

 

脊椎・脊髄損傷は、生命予後に加えて、長期間にわたる機能予後に重篤な問題を生じます。特に、頸椎は、脊髄のなかで最も可動性に富み、損傷を受けやすいのが特徴です。そのため、頸椎保護(ネックカラーなど)が非常に重要です。

 

二次損傷こそハイリスク

骨粗鬆症などで骨が弱っている高齢者は、尻もちをつくなど、軽度の外傷が原因でも胸~腰の圧迫骨折を生じやすいため、注意が必要です。

 

また、頸椎の退行変性や脊柱管狭窄を有する中高年者が転倒した場合には、骨損傷を伴わない脊髄損傷が生じることもあります。

 

脊髄損傷の後遺症の大半は、受傷時の損傷ではなく、その後の二次損傷によるものが多いといわれています。神経学的症候に明らかな異常がなくても、診断が確定するまでは、脊椎運動制限を行い、脊椎を側屈や回旋がない正中中間位で安定化させることに努めましょう。

 

 

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安全な移送の方法

安全に移送するためには、患者の協力が不可欠です。
患者に声をかけ、首を振るなど動かさず、なるべく顔を正面に向けた姿勢を保つように依頼しましょう。

 

移送にあたっては、ネックカラーを装着します。その際、患者の鼻筋と体幹の正中線を一直線に合わせ、頭部の両側を左右からボールを持つように両手でしっかりと保持(徒手的正中中間位固定法)することが大切です(図1)。

 

その後、頭部保持者の合図で全員がタイミングを合わせ、脊椎の回旋・側弯が起こらないように注意して移送します。

 

図1 徒手的正中中間位固定法

徒手的正中中間位固定法

 

 

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引用・参考文献

1)日本外傷学会,日本救急医学会 監修,日本外傷学会外傷初期診療ガイドライン改訂第5版編集委員会 編:改訂第5版 外傷初期診療ガイドライン.へるす出版,東京,2016:157-171.

2)日本救急看護学会 監修,日本臨床救急医学会 編集協力:改訂第3版 外傷初期看護ガイドライン.へるす出版,東京,2014:227-229.


 

本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『いまさら聞けない!急変対応Q&A』 編著/道又元裕ほか/2018年9月刊行/ 照林社

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