COPD患者のSpO2が顕著に低下。それでも酸素投与は控えるべき?
『いまさら聞けない!急変対応Q&A』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回はCOPD患者のSpO2が顕著に低下した際の酸素投与について解説します。
松橋詩織
JCHO東京高輪病院 診療部循環器内科 診療看護師
COPD患者のSpO2が顕著に低下。それでも酸素投与は控えるべき?
CO2ナルコーシスよりも、低酸素血症のほうが危険です。
SpO2が90%を切ったら低酸素血症のリスクを考え、すぐに医師に報告し、指示をあおぎましょう。
COPDの病態
COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、主にタバコ煙などの有害物質を長期に吸入曝露することで生じた肺の炎症性疾患です(図1)。呼吸機能検査では、不可逆的な気流閉塞を示します。
気流閉塞の原因は、以下の2タイプに分けられます。
①末梢気道病変:気道が線維化などで狭窄し、分泌物が増加して、気道が閉塞する場合
→二酸化炭素を吐き出せない
②気腫性病変:肺胞壁が破壊されることで、肺胞の牽引拡張作用(呼気時に肺胞が縮むとき、周囲の末梢気道を牽引して拡げるはたらき)が失われた場合
→酸素を取り込めない
この気流閉塞は、末梢気道病変と気腫性病変がさまざまな割合で複合的に作用することで生じ、徐々に進行していきます(単独で存在する場合も、両者が合併する場合もあります)。
現れる症状は、体動時に徐々に生じる呼吸困難や咳・痰などです。
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最も危険なのは低酸素血症
「COPD患者に高濃度の酸素を供給すると、CO2ナルコーシスになりやすい」という話を、皆さんも聞いたことがあると思います。なぜ、CO2ナルコーシスをきたしやすいのでしょうか?
1 COPD患者の換気を促すのは「血中二酸化炭素濃度」ではなく「血中酸素濃度」
前述したように、COPD患者は、「二酸化炭素を吐き出せない」だけでなく、「酸素を取り込めない」状態でもあります。これらの病変は、換気血流不均等を招き、肺胞低換気の原因となります。
また、COPDが重症化するにつれ、二酸化炭素を吐き出す換気能力が著しく低下し、血液中の二酸化炭素の量が上昇します。
このように、COPD患者は二酸化炭素が多い状態に慣れてしまい、換気を促す刺激(=血中二酸化炭素の増加)を感知する中枢化学受容器の活動性が低下します。そのため、COPD患者の場合、末梢化学受容器(頸動脈小体や大動脈小体)が、換気を促す刺激(低酸素血症=PaO2の低下)を感知することで換気がなされます。
では、低酸素血症が進行したCOPD患者に高濃度酸素を投与するとどうでしょう? PaO2が急激に上昇するため、末梢化学受容器の活動が弱まり、換気回数が減少します。その結果、二酸化炭素がさらに蓄積して高二酸化炭素血症を助長し、CO2ナルコーシスとなってしまうのです(図2)。
2 COPD患者でも、SpO2が90%を切ったら、すぐに医師に報告し、酸素投与を検討
COPD患者で問題となるのは「動脈血中二酸化炭素分圧(PaCO2)が上昇しすぎること」です。しかし、呼吸不全に陥っている場合は、躊躇せず酸素投与を行い、CO2ナルコーシスに陥るリスクを念頭に置きながら低酸素血症を是正する必要があります。すみやかに医師に報告し、酸素投与を開始します。可能であれば、包括的指示をあらかじめ受けておきましょう(くわしくは「医師指示なしで、看護師が行える急変対応の範囲は?酸素投与?12誘導心電図?」)。
酸素療法は、PaO2 60Torr未満あるいはSpO2 90%未満が適応となり、PaO2 60Torr以上あるいはSpO2 90%以上を目標として行います。動脈血ガス値やSpO2値、呼吸状態、チアノーゼの有無、意識レベルの変化を確認してください。
PaCO2が45Torrを超え、かつpH7.35未満の場合には、換気補助療法(第一選択はNPPV)の適応を医師に検討してもらってください。
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引用・参考文献
1)日本呼吸器学会COPDガイドライン第4版作成委員会 編:COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第5版.メディカルレビュー社,東京,2013.
2)日本呼吸器学会NPPVガイドライン作成委員会 編:NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)ガイドライン改訂第2版.南江堂,東京,2015.
3)金子正博:SpO2が低下している場合の鑑別診断は?.レジデントノート2015;17(8):166.
4)相馬一亥:酸素療法.3学会合同呼吸療法認定士認定委員会 編,3学会合同呼吸療法認定士認定講習会テキスト,東京,2010:237-246.
5)落合慈之 監修,石原照夫 編:呼吸器疾患ビジュアルブック.学研メディカル秀潤社,東京,2011:20.
本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『いまさら聞けない!急変対応Q&A』 編著/道又元裕ほか/2018年9月刊行/ 照林社