呼吸数の急な増加。指示どおり、酸素を10Lに上げたがSpO2が上がらない…。
『いまさら聞けない!急変対応Q&A』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は患者の呼吸数の急な増加に対処したが、SpO2が上がらない際の対応について解説します。
松橋詩織
JCHO東京高輪病院 診療部循環器内科 診療看護師
呼吸数の急な増加。指示どおり、酸素を10Lに上げたがSpO2が上がらない…。
SpO2が正しく測れているか確認し、身体的・環境因子を確認して医師に報告します。そのうえで高流量システムに変更し、酸素化改善の有無を観察してもよいでしょう。
SpO2<90%は緊急対応
最初に、緊急に「ドクターコールが必要か」のアセスメントが必要です。
まずは、バイタルサインや、呼吸徴候など呼吸パターンに異常がないか、確認します(表1)。
また、発症の状況・経過の速度も重要です。突然の発症(発症時間が特定できる)か、徐々に悪化したかを把握し、医師への報告内容に加えると、呼吸状態変化の誘因鑑別につながります。
加えて、SpO2の測定値に影響を及ぼす因子があるので、きちんと測定できているかの確認も必要です(表2)。
正常であればSpO2は96%以上です。ヘモグロビン酸素解離曲線(図1)からも、SpO2が90%を下回るようなら呼吸不全と考え、発症が急であれば緊急な処置が必要となります。
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デバイスの変更も考慮
酸素供給の方法には、低流量システム(表3)と高流量システム(ベンチュリマスク、ネブライザ付ベンチュリ装置、ネーザルハイフロー)の2種類があります。
10Lまで酸素投与をしても酸素化が改善しない場合、酸素マスクからリザーバマスクやネーザルハイフローに変更し、酸素化改善の有無を観察する方法もあります。
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「SpO2上昇=安心」ではない
酸素濃度を上げて一時的にSpO2が上昇しても、高濃度酸素を必要とする原因が解決した訳ではありません。
原因検索を行いながら、NPPV(非侵襲的陽圧換気)を含めた人工呼吸管理の必要性をきちんとアセスメントし、人工呼吸器へ移行するタイミングを遅らせないようにします。
酸素濃度を上げて経過をみているうちに、病態悪化を招くことのないよう、注意しなければなりません。
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SpO2低下は、身体的な要因だけでなく、処置やケアなどの影響や機器トラブルなど、外的な要因によっても生じます。
やみくもに酸素流量を上げるのではなく、状況をアセスメントし、まず、身体的・環境因子を確認し、医師へ報告するようにしましょう。
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引用・参考文献
1)日本呼吸器学会COPDガイドライン第4版作成委員会 編:COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第5版.メディカルレビュー社,東京,2013.
2)日本呼吸器学会NPPVガイドライン作成委員会 編:NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)ガイドライン改訂第2版.南江堂,東京,2015.
3)金子正博:SpO2が低下している場合の鑑別診断は?.レジデントノート2015;17(8):166.
4)相馬一亥:酸素療法.3学会合同呼吸療法認定士認定委員会 編,3学会合同呼吸療法認定士認定講習会テキスト,東京,2010:237-246.
5)落合慈之 監修,石原照夫 編:呼吸器疾患ビジュアルブック.学研メディカル秀潤社,東京,2011:20.
本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『いまさら聞けない!急変対応Q&A』 編著/道又元裕ほか/2018年9月刊行/ 照林社