肺血栓塞栓症(PTE)
『本当に大切なことが1冊でわかる循環器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は肺血栓塞栓症(PTE)について解説します。
〈目次〉
肺血栓塞栓症(PTE)はどんな疾患?
肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism;PTE)は、おもに下肢静脈にできた塞栓子が血流にのって肺動脈を閉塞し、肺循環障害をきたすことによって起こります。それにより、さまざまな症状が起こります(図1)。
血栓がある程度大きければ、肺血流を遮断してガス交換に影響を及ぼします。血栓が肺動脈に詰まると、肺動脈圧と右心圧の上昇をきたします。
患者さんはどんな状態?
肺血栓塞栓症のおもな身体所見は、息苦しさです。ほかには、突然の呼吸困難、吸気時の胸痛、頻脈、過呼吸が生じます(図2)。重症化すると、失神、ショック、心停止に至ります。まれに、血痰、咳嗽が出現するときもあります。
どんな検査をして診断する?
呼吸状態の悪化が症状として出はじめたら、造影CTを行い、血液検査、心エコーを行って確定診断することが大切になります(表1)。
どんな治療を行う?
確定診断にこだわらず、本症の疑いが強ければ積極的に治療を開始します(図3)。
治療は、酸素投与、抗凝固療法になります。必要に応じて血栓溶解療法を行います。
抗凝固療法(ヘパリン投与)
ヘパリンの24時間持続投与を行い、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)をモニターしながら投与前の1.5~2倍程度になるようにコントロールを行います。一般的には初期投与の7日後から、内服の抗凝固薬であるワルファリンへ切り替えます。ワルファリンは、PT-INR※12.0~3.0を目標にコントロールを行います。
その他の治療
重症化例の場合には、血栓溶解療法(t-PA、ウロキナーゼ)を行います(図4)。また、カテーテルによる血栓破壊、経皮的心肺補助装置(PCPS)、外科的血栓摘除術などが検討されます。
看護師は何に注意する?
多くの患者さんは無症状のため、異常の早期発見が重要です(表2)。
症状を呈する患者さんには、苦痛を軽減するかかわりが大切になります。呼吸状態や全身状態、バイタルサインをていねいに観察しましょう。
血液を固まりにくくする抗凝固薬や、血栓を溶かす血栓溶解薬が用いられます。いずれも出血しやすくなるので患者さんは出血傾向となります。
患者さんは、日常生活でも出血しないよう気を使わなければいけません。また、抗凝固薬(ワルファリン)を服用する場合は、納豆・クロレラ・青汁など、ビタミンKを多く含む食品は、作用を弱めるので食べたり飲んだりできません。
肺血栓塞栓症の死亡率は10~30%と報告されています。治療が功を奏すれば予後は良好です。
再発の恐れもあるので抗凝固薬は内服し続けなければなりません。
[memo]
- ※1 PT-INR(上へ戻る↑)
プロトロンビン時間。ワルファリンによるモニタリング検査に用いられるデータ。
文献
- 1)リンパ管疾患情報ステーション:リンパ管とは?.(2019.09.01アクセス)
- 2)大八木秀和:まるごと図解 循環器疾患.照林社,東京,2013.
- 3)黒澤博身総監修:全部見える 循環器疾患.成美堂出版,東京,2012.
- 4)医療情報科学研究所編:病気がみえる vol.2循環器 第4版.メディックメディア,東京,2017.
本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 循環器 第2版』 編集/新東京病院看護部/2020年2月刊行/ 照林社