なぜ抗精神病薬は高齢者に使いにくいのか|せん妄を鎮めるくすり
『せん妄のスタンダードケア Q&A100』より転載。
今回は、抗精神病薬は高齢者に使いにくい理由について解説します。
なぜ抗精神病薬は高齢者に使いにくいのか
高齢者では腎臓や心臓などの内臓機能の予備能力が,若い人に比べて低下してきているので,腎不全や心不全を起こさないように注意しながらくすりを調整します.
同様に高齢者ではドパミン神経予備能が少ないので,ドパミン神経機能不全を起こさないよう,抗精神病薬を使用したい場面でも極力控えるか,使用しても極少量にとどめる必要があります.
ドパミン神経細胞は,運動を制御する中脳黒質から線条体に投射され,ある一定限度(若年健常者の50〜70%)まで減らないと,寡動や筋強剛などの錐体外路症状が出現しないとされています1).このドパミン神経は,健常者でも成人後,加齢とともに10年で5〜10%ずつ減少していくことが画像研究などから明らかになっています2, 3).
したがって,ドパミン受容体を遮断する抗精神病薬を同じ用量で使用しても,加齢に伴って錐体外路症状が出現しやすくなるのです.
[文献]
- 1)Cheng HC et al : Clinical progression in Parkinson disease and the neurobiology of axons. Ann Neurol 67(6) : 715-725, 2010
- 2)Kazumata K et al : Dopamine transporter imaging with fluorine-18-FPCIT and PET. J Nucl Med 39(9) : 1521-1530, 1998
- 3)Troiano AR et al : Dopamine transporter PET in normal aging : dopamine transporter decline and its possible role in preservation of motor function. Synapse 64(2) : 146-151, 2010
[Profile]
平野 成樹 (ひらの しげき)
千葉大学医学部附属病院神経内科
*所属は掲載時のものです。
本記事は株式会社南江堂の提供により掲載しています。
[出典]『“どうすればよいか?”に答える せん妄のスタンダードケア Q&A100』(編集)酒井郁子、渡邉博幸/2014年3月刊行