サードスペース|“コレ何だっけ?”な医療コトバ
『エキスパートナース』2015年4月号(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
サードスペースについて解説します。
島 惇
自治医科大学医学部麻酔科学・集中治療医学講座(集中治療医学部門)
布宮 伸
自治医科大学医学部麻酔科学・集中治療医学講座(集中治療医学部門) 教授
サードスペースとは・・・
- 術後、重症感染症、外傷でよく聞くコトバ
- 水分の血管外漏出を示す概念。解剖学的には存在しない
〈目次〉
サードスペース(third space)とは?
最近では「サードスペース」といわれる空間は解剖学的には存在しないと考えられており、徐々にサードスペースという言葉は使われなくなってきています。
本項では、水分の血管外漏出を表す概念としてわかりやすく説明するために、あえてサードスペースという言葉を用います。
どんなとき起こる?
サードスペースは、生体侵襲により生じる概念です。生体侵襲とは生体を傷害するあらゆる事象を指しますが、ここでは臨床的な管理のうえで問題となるような大きな侵襲、例えば、開胸手術や開腹手術などの大手術、重症感染症、外傷などに着目します。
なぜ起こる?(メカニズム)
手術や感染症などの侵襲が生体に加わると、炎症により血管の透過性が亢進し、血管内から血管外(サードスペース)へ水分が漏れ出します。
その結果、全身の浮腫や胸水・腹水の貯留が起こります(図1-A)。
どんな症状?
循環血液量の減少により頻脈や低血圧、尿量減少などの症状を引き起こします。重篤な場合、循環血液量減少性ショックとなり、ショックの5Pと呼ばれる「脈拍減弱」「冷汗」「皮膚の蒼白」「呼吸不全」「虚脱」といった症状が出現することもあります。
サードスペースのポイント
サードスペースの存在を意識して対応しよう
侵襲により、多かれ少なかれサードスペースは生じます。 サードスペースの容量はさまざまな要因によって変化しますが、体重1kgあたり5~20mLとも言われており、これを輸液で適切に補わなければ、循環血液量減少による症状が出現します。
サードスペースの容量を変化させる要因としては、手術の大きさや感染の程度など侵襲の大きさという外的要因と、年齢や基礎疾患などの患者側の要因が挙げられます。これらの要因を頭に入れたうえでバイタルサインを注意深く観察することが、侵襲が加わった直後の患者では特に大切になってきます。
半日~1週間程度でリフィリングが始まる
これらの侵襲が加わってから半日、長くて1週間程度で、炎症は落ち着いてきます。炎症が落ち着くことで血管透過性の亢進は改善し、サードスペースに逃げていた水分が血管内に戻る時期があります。
この時期を「利尿期」と呼んだり、「リフィリング(refilling)に入った」などと言ったりします(図1-B)。利尿期に入れば循環動態は安定し、尿量も増加し、ひとまず安心できる時期になったと言えるでしょう。
サードスペースにどう対応する?
漏出を補うための輸液療法
サードスペースに漏出した水分を補う際に使用する輸液を列挙します。
①細胞外液補充液
サードスペース分の水分を補う際には、まず細胞外液補充液を使用します。細胞外液補充液には、乳酸リンゲル液や酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液などがあります。
②人工膠質液
ヒドロキシエチルデンプン(HES)製剤、デキストラン製剤のことを指し、主に手術中に出血等を補う目的で使用さ
③血液製剤
著しい血管透過性の亢進のため細胞外液補充液のみでは循環血液量の維持が困難な場合、血管外へ漏出しにくいアルブミン製剤などの輸注を行うことがあります。
例えば肝不全患者などで血清アルブミン値が低値の場合、侵襲による血管透過性の亢進は助長されるため、血液製剤の投与が有効なことがしばしば認められます。
[引用文献]
- 1.日本麻酔科学会・周術期管理チームプロジェクト 編:周術期管理チームテキスト(第 2版).日本麻酔科学会,東京,2011:396.
- 2.弓削孟文 監修:標準麻酔科学(第6版).医学書院,東京,2011:158.
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P.38~39「サードスペース」
[出典] 『エキスパートナース』 2015年4月号/ 照林社