陽圧換気は、生体に、どんな影響を及ぼすの?|人工呼吸中の合併症
『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「陽圧換気の生体への影響」に関するQ&Aです。
塚原大輔
日本看護協会看護研修学校認定看護師教育課程特定行為研修担当教員
陽圧換気は、生体に、どんな影響を及ぼすの?
〈目次〉
血液循環器系
クリティカルケア領域の患者は、循環血液量が減少していること、平均気道内圧が高くなることにより、容易に心拍出量が減少する。
1右心系への影響
前負荷の減少
機械的陽圧換気により、胸腔内圧が上昇し、静脈還流が減少して、右室へ充満する血液量が減少する。
吸気時間を延長する設定では、より静脈還流が減少する。これは、機械的陽圧呼吸では吸気時に胸腔内圧が上昇し静脈還流が減少するためである。
後負荷の増大
PEEP(ピープ:呼気終末陽圧)*により肺胞内圧が上昇し、肺血管抵抗は増大する。肺血管抵抗の増大は、左室への血液の充満を阻害し、心拍出量を減少させる。
右室の後負荷の上昇は、右室肥大をもたらし、心臓の壁運動を低下させる。
2左心系への影響
後負荷の減少
機械的陽圧換気により胸腔内圧が上昇し、全身へ血液が駆出されやすい状態となる。
しかし、後負荷の減少は血圧の低下を意味するため、肝・腎など重要臓器への血流が減少する。
腎臓
人工呼吸療法中は、心拍出量の低下によって、腎血流量の減少・静脈還流の低下する。その結果、血漿抗利尿ホルモンの上昇と心房性ナトリウム利尿ペプチドの低下が生じ、尿量が減少する。
脳神経系
胸腔内圧の上昇に伴い、静脈還流が低下する。それにより頭蓋内の血液量が増加し、頭蓋内圧が上昇する。
実際には、頭蓋内圧が亢進している症例を除いて、特に問題にならないといわれている。
肝臓
胸腔内圧上昇に伴う心拍出量低下は、門脈血流を低下させ、肝機能低下をもたらす。
精神面
陽圧換気により、生体は、少なからずストレスを受ける。
ストレス障害は、疾患に伴う侵襲に加えて、睡眠障害、人工呼吸器とのファイティングなどが原因となって生じる二次的障害である。
この二次的障害に着目し、生活環境を整えることや適切な鎮静・鎮痛が行われているか評価することが重要となる。
- PEEP(positive end expiratory pressure ventilation):呼気終末陽圧
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社