清潔援助を行うのはなぜ?

 

『看護技術のなぜ?ガイドブック』より転載。

 

今回は清潔援助に関するQ&Aです。

 

大川美千代
群馬県立県民健康科学大学看護学部准教授

 

清潔援助を行うのはなぜ?

体を清潔に保つことは、生理学的にも日常生活習慣においても欠かすことができません。しかし、手術後や治療上の安静の必要から、患者は自分自身で自由に清潔にできなかったり、疾患や障害のために体を清潔に保つことができない場合があります。

 

こういった患者に対して清潔援助を行う目的は、皮膚や粘膜、毛髪などの汚れを取り除き、患者に気持ちよいと感じてもらうことです。また、清潔に保つことによって皮膚や粘膜の機能と関連のある器官を正常に保ち、感染を予防することにもつながります。さらに、筋肉を温めたりマッサージすることにより、運動効果を得ることもできます。

 

ナイチンゲールは、『看護覚え書』で、「多くの重篤(じゅうとく)な疾患の場合、排泄はほとんど全面的に皮膚を通して行われる」と述べています。看護師が患者を不潔なまま放置すれば、「健康をもたらす自然の過程(働き)を妨げて、患者に害を加えること」になるのです。体の働きを整え、患者の自然治癒力を発揮させるためにも、清潔援助は欠くことのできない重要な看護なのです。

 

また、清潔援助は、患者の全身の観察をするよい機会になります。皮膚の状態を観察し、健康上の問題がないかどうか確認します。患者とのスキンシップを図ることにより、コミュニケーションを深めることにもつながります。

 

清潔援助には、入浴、シャワー浴、特殊浴、部分浴、全身清拭、部分清拭などがあります。患者に合ったケアを選ぶことが重要です。

 

MEMO皮膚の生理作用

皮膚を正常に保つには、皮膚が持っている生理機能の理解が欠かせません。主な生理機能には次のようなものがあります。
①保護作用
以下の様々な刺激が、深部組織にまで影響を及ぼさないように保護する作用があります。

 

  • 機械的外力……強靭さと弾力によって、衝撃や摩擦などの物理的刺激を緩和します。
  • 化学的刺激……角質層は水や化学物質を透過させにくいため、酸やアルカリから体を保護します。
  • 細菌感染……皮膚表面は、汗や皮脂によって弱酸性に保たれており、細菌の増殖が抑えられます。また、皮膚表面に常住する免疫細胞が異物や病原菌を貪食し、体内への侵入を防いでいます。
  • 紫外線……メラニン細胞でメラニン色素を産生し、細胞に損傷を与える紫外線が皮膚内部に到達するのを防ぎます。
  • 温熱・寒冷……皮膚の感覚受容器が温熱・寒冷・痛みなどの情報を神経系に伝えることで、刺激を避けるように働きます。
  • 乾燥……水や化学物質を透過させにくい角質層の働きにより、体内の水分が失われないように保護します。

②体温調節作用
皮膚血管の拡張や収縮により、体温の恒常性を維持します。外界の温度が高い場合や体熱の生産が増えた場合には、毛細血管の拡張と汗の分泌により、熱の放散を行います。反対に外界の温度が低い場合には、毛細血管を収縮させて血液の流入を抑制し、体温の放散を抑制します。
③知覚作用
皮膚表面に分布している触覚、温覚、冷覚、痛覚の受容器により、刺激をに伝えます。
④排泄作用
尿素、尿酸などの体内の不要物を、汗とともに排泄します。不感蒸泄によっても排泄が行われます。
⑤呼吸作用
呼吸の1%程度ですが、皮膚には呼吸作用があります。
⑥吸収作用
油脂類を吸収します。角質層には水や化学物質を透過させにくい働きがありますが、皮膚表面の脂肪分を取り除くことで角質層の酸性度が低くなり、油脂類の吸収がよくなります。
⑦合成作用
コレステロール誘導体からビタミンDを合成します。

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護技術のなぜ?ガイドブック』 (監修)大川美千代/2016年3月刊行/ サイオ出版

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