トラスツズマブ療法(化学療法のポイント)/乳がん
この連載では、抗がん剤のポイントや注意点について解説します。
今回は、乳がん(乳癌)の患者さんに使用する抗がん剤「トラスツズマブ療法」について、レジメンや副作用、治療成績について紹介します。
第2話:『トラスツズマブ療法(看護・ケアのポイント)/乳がん』
元木崇之
(岡山大学病院 乳腺・内分泌外科)
〈目次〉
- トラスツズマブ療法は乳がんの患者さんに行う抗がん剤治療
- トラスツズマブ療法で使用する薬剤
- トラスツズマブ療法のレジメン
- トラスツズマブ療法で使用する薬剤の投与方法
- トラスツズマブ療法の代表的な副作用
- トラスツズマブ療法の治療成績
トラスツズマブ療法は乳がんの患者さんに行う抗がん剤治療
トラスツズマブ療法は、乳がんの患者さんのなかでがん細胞にHER2蛋白が発現している症例にのみ有効な薬剤です。
トラスツズマブ療法を行う際には、投与時にアレルギー反応が生じる場合があるので、初回投与時はモニター管理が必要です。また、投与後晩期に起こる心不全が主な副作用ですので、患者さんの状態をチェックしましょう。
トラスツズマブ療法で使用する薬剤
トラスツズマブ療法で使用する薬剤は、表1のとおりです。
表1トラスツズマブ療法で使用する薬剤
トラスツズマブ療法のレジメン
再発時のトラスツズマブ療法のレジメン
再発時のトラスツズマブ療法では、トラスツズマブ(ハーセプチン)を、1日目(Day 1)に投与し、2~7日目は休薬します(表2)。
表2再発時のトラスツズマブ療法のレジメン
術前・術後のトラスツズマブ療法のレジメン
術前・術後のトラスツズマブ療法では、トラスツズマブ(ハーセプチン)を、1日目に投与し、2~21日目は休薬します(表3)。
表3術前・術後のトラスツズマブ療法のレジメン
トラスツズマブ療法で使用する薬剤の投与方法
再発時のトラスツズマブ療法の投与方法(表4)
表4再発時のトラスツズマブ療法の投与方法
上記を1コースとし、効果が認められる間は投与を継続します。つまり、8日目に2コース目が開始となります。
術前・術後のトラスツズマブ療法の投与方法(表5)
表5術前・術後のトラスツズマブ療法の投与方法
上記を1コースとし、一般的に17コース(1年間)投与します。つまり、22日目に2コース目が開始となります。
トラスツズマブ療法の代表的な副作用
トラスツズマブ療法の代表的な副作用は、初回投与時のinfusion reaction、晩期に発症する心機能障害などがあります。
infusion reactionは、投与中および投与当日に出現し、一般的には38℃以上の発熱などが出現しますが、解熱剤の投与で速やかに改善します。ごくまれに重篤なアレルギー反応が出現する場合もありますので、初回投与時にはモニター監視が必要です。症状出現時は、直ちに緊急対応が必要となります。
遅れて出てくる副作用として、心機能障害が出現します。長期間続く場合もありますので、症状の継続的な観察が必要となります。
memoinfusion reactionはアレルギー反応に似た合併症
infusion reaction(インフュージョン リアクション)とは、抗がん剤を使用する際に起こる合併症の一つです。発生する症状は、アレルギー反応に似ています。
トラスツズマブ療法のポイントA
- 患者さんが感じる副作用には、infusion reactionがあります。初回投与時は、心電図モニターやパルスオキシメーター(SpO2モニター)を装着し、患者さんの状態を確認しよう。
トラスツズマブ療法のポイントB
- 初回投与時のinfusion reactionとして、38℃以上の発熱が出現する場合があるので、患者さんに説明しよう。
トラスツズマブ療法のポイントC
- 可逆性の心機能障害があるので、動悸・息切れなどの心不全症状に注意しよう。
トラスツズマブ療法の治療成績
術後化学療法でトラスツズマブ(ハーセプチン)を6ヶ月以上投与すると、無病生存期間、全生存期間、いずれも30%以上の改善を示しました2)。
また、術前化学療法で使用すると、手術標本でがんが消失する病理学的完全奏効(pCR)の確率が17%上昇しました3)。
memoがんの治療成績でよくみる奏効率とは?
奏効率とは、治療によってすべての腫瘍が消失する「完全奏効(CR;complete response)」と、ある一定の割合以上に縮小する「部分奏効(PR;partial response)」の確率を合わせたものです。つまり、「奏効率=CR+PR」です。
例えば、奏効率80%の治療というのは、「80%の確率で腫瘍が縮小、もしくは消失する治療」ということになります。
また、最近、「病勢コントロール率」という言葉をよく耳にします。これは、奏効率に腫瘍が増大しない「不変(SD;stable disease)」の確率を合わせたものです。つまり、「病勢コントロール率=CR+PR+SD」です。
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[文 献]
- (1)日本乳癌学会. 乳癌診療ガイドライン 薬物療法. (2017/5/16アクセス)
- (2)Moja L, Tagliabue L, Balduzzi S, et al. Trastuzumab containing regimens for early breast cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2012; (4): CD006243. (2017/5/16アクセス)
- (3)Valachis A, Mauri D, Polyzos NP, et al. Trastuzumab combined to neoadjuvant chemotherapy in patients with HER2-positive breast cancer: a systematic review and meta-analysis. Breast 2011; 20(6): 485-90. (2017/5/16アクセス)
[監 修]
齋藤信也
岡山大学大学院保健学研究科 教授
[編 集]
西森久和
岡山大学病院 血液・腫瘍内科
[執 筆]
元木崇之
岡山大学病院 乳腺・内分泌外科
*本連載では、薬剤の厳密な指示・副作用・投与スケジュールなどについて記載されていますが、これらは2017年5月時点のもので、変更される可能性がございます。薬剤の使用にあたっては、製品に添付されている最新の情報を十分にご参照ください。
*本連載では、登録商標マーク®の記載はすべて省略しています。