乳癌手術後ドレナージ | ドレーン・カテーテル・チューブ管理

ドレーンカテーテル・チューブ管理完全ガイド』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。

 

今回は乳癌手術後ドレナージについて説明します。

 

馬場紀行
国家公務員共済組合連合会東京共済病院乳腺科がん登録室長
初道智子
元 東京共済病院看護部手術室看護師長
雀地洋平
KKR札幌医療センター循環器センター看護師長

 

《乳癌手術後ドレナージについて》

 

主な適応
乳癌の手術で腋窩リンパ節郭清を行った場合、乳房切除を行った場合、組織拡張器による再建を行った場合
目的
術後貯留するリンパ液・滲出液、血液などの排出、出血・感染などの観察など
合併症
リンパ液貯留、出血、感染など
抜去のめやす
排液量がおよそ30mL/日以下のとき
観察ポイント
患者の移動や体動により、ドレーン留置位置が移動していないか観察する。
排液の量・色・性状を観察し、出血などの合併症の早期発見・対処に努める。
ケアのポイント
閉塞予防 : ドレーンの屈曲や吸引装置の不具合がないか確認し、必要に応じて触診やミルキングを実施する
固定部 : 発赤腫脹時は感染を疑いただちに抜去するほか、固定によるスキントラブルなどに注意する

 

 

〈目次〉

 

近年の乳癌治療は薬物療法が中心に

近年、乳癌治療は外科的治療より薬物療法が主となり、手術は縮小化が著しく進んでいる。

 

かつて主体であった「乳房切除+腋窩リンパ節郭清」という術式は、相対的に全手術の50%以下に減少し、乳房温存手術の占める割合が多くなっている。

 

腋窩リンパ節の処置についても、腋窩リンパ節郭清が施行される割合は減少し、転移頻度が最も大きいと考えられているセンチネルリンパ節(見張りリンパ節)を数個生検し、迅速診断にて転移がなければ郭清を行わない方法が標準化されている。

 

上記の結果、ドレーンが必要な症例は少なくなり、入院期間が術後数日と短縮されたことも関係し、以前ほど厳密なドレーン管理やドレーントラブルは減少している。

 

本稿では、乳腺の術式別にドレナージの必要性、管理の要点について述べる。

 

乳癌の組織学的分類

1非浸潤癌

「非浸潤性乳管癌」と「非浸潤性小葉癌」がある。

 

リンパ管や血管内に癌が及ぶことはなく、リンパ節や遠隔臓器に転移を起こさない。

 

通常、リンパ節は無処置である。

 

2浸潤癌

「浸潤性乳管癌」と「浸潤性小葉癌」がある。

 

リンパ節転移や遠隔転移を起こしうる。

 

ホルモンレセプターの有無、HER2遺伝子の増幅の有無、Ki67(増殖期の腫瘍内に発現するタンパク)陽性の腫瘍細胞が15%以内か、それ以上か、組織学的悪性度(1~3)により予後が左右される。

 

当然ながら、悪性度の高い浸潤癌ほど転移を生じやすいといえる。

 

乳癌の診断法

一般的な乳癌の診断法を以下に示す。

 

  1. 問診・視触診
    乳癌の診断の第一歩は、患者の自覚症状、特に腫瘤乳頭からの異常分泌(血性のことが多い)があるかないかである。これらを問診してから視触診を行う。症例によっては腫瘤、リンパ節転移を触知できる。
  2. 画像診断
    マンモグラフィ検査、超音波検査を行う。腫瘤やリンパ節転移、乳腺内の広がりをある程度把握することが可能である。
  3. 確定診断
    針生検による病理学的診断が必要である。ホルモンレセプター、HER2遺伝子タンパクの発現状況、Ki67に関する情報が得られる。
  4. 造影MRI・CT検査
    術式を決めるためには乳癌の広がりや、多発病変の有無についての情報が必須であり、造影MRI、造影CTが多用される。これらの検査で乳房温存手術が可能か、腋窩リンパ節転移の有無について予測することが可能である。
  5. 核医学検査(PET-CT)
    遠隔転移の有無については核医学検査、特にPET-CTが有望視されている。この検査でリンパ節転移、骨転移、臓器転移について知ることができる。

 

乳癌の術式と適応、ドレナージの必要性の有無

乳癌の術式とその適応、ドレナージの必要性を表1に示す。

 

表1乳癌の術式と適応、ドレナージの必要性

乳癌の術式と適応、ドレナージの必要性

 

ドレーンの挿入法

現在、乳癌手術でドレナージが必要になる場合は以下の3つである。

 

1腋窩リンパ節郭清を行った場合

郭清の程度にもよるが、通常のレベル1、2の郭清では、術後しばらくリンパ液漏出がつづくため、腋窩にドレーンを挿入する。

 

出血の監視にも有用である。

 

2乳房切除を行った場合

切除面が広いため、滲出液がたまりやすい。

 

特に太った患者では、滲出が長期間つづくことが多い。

 

胸壁にドレーンを挿入する。

 

3組織拡張器による再建を行った場合

組織拡張器(ティッシュ・エキスパンダー)は大胸筋下を剥離して挿入するため、出血を監視するためにも胸筋間にドレーンを1本挿入する必要がある。

 

ドレーンの挿入法の実際

乳房切除、リンパ節郭清、組織拡張器による再建手術を行った症例におけるドレーンの挿入法を以下に示す。

 

乳房切除を行った場合の胸壁のドレーンは、図1のように挿入する。滲出液は手術野の下方に貯留しやすいため、ドレーンから有効に排液できるように皮下の位置に留意する必要がある。

 

図1乳房切除後における胸壁ドレーンの挿入

乳房切除後における胸壁ドレーンの挿入

 

腋窩郭清を行った場合のドレーンは、図2のように先端が郭清部位に達するように挿入する。神経や血管などを吸引しないように注意する。

 

図2腋窩リンパ節郭清術後のドレーン留置

腋窩リンパ節郭清術後のドレーン留置

 

組織拡張器による再建を行った場合は、大胸筋と小胸筋の間にドレーンを挿入する(図3)。組織拡張器と交錯しないように注意する。

 

図3組織拡張器による再建術後のドレーン挿入位置

組織拡張器による再建術後のドレーン挿入位置

 

通常は、3mm前後の細いドレーンを入れる。細いドレーンほどドレーン抜去後の傷跡が目立たないが、細いドレーンは出血などで詰まりやすいため注意する。

 

ドレーンの材質はシリコン製の組織刺激性の少ないものを使用する。

 

乳癌手術後ドレナージの合併症

乳癌術後ドレナージの注意すべき合併症として、「リンパ液貯留」「出血」「感染」などが挙げられる。これらの合併症は、ドレーン管理と関係してくるため、『ケアのポイント』部分で後述する。

 

まれではあるが、腋窩ドレーンがリンパ節郭清で露出された神経などと干渉して、疼痛などの原因となることがある。疼痛は、術後のリハビリの支障となりうる。

 

これからのドレーン管理について

多くの病院は、入院患者の医療費が包括化された診断群分類別包括評価(diagnosis procedure combination:DPC)にて算定している。入院期間が長期化すると赤字となるように設定されているので、クリニカルパスを採用し、術後の処置についてはおおよそ1週間の日程で定型化されていることが多く、ドレーン管理の様相も変わりつつある。

 

治療のほとんどが標準化され、ガイドラインがつくられている乳癌ではなおさらである。

 

今後ともこのような傾向は進むと思われる。排液量でドレーンの抜去を決めるのではなく、術後決まった日程で抜去することが主流となる。

 

万一、腋窩リンパ液の貯留が生じても、多くは外来にて穿刺すれば処置可能である。時代とともに乳癌の治療法は変わり、ドレーン管理も以前ほど個別化されることはなくなっていくものと考えられる。

 

乳癌手術後ドレナージのケアのポイント

1ドレーン挿入位置の確認

乳房切除術+腋窩リンパ節郭清のように複数のドレーンが挿入されている場合は、その先端の位置について手術室からの正確な申し送りと確認が重要である。

 

腋窩ドレーンがトラブルを起こすとリンパ液貯留などの深刻な合併症を起こす。 そのため、特に腋窩の位置は十分確認しておくべきである。

 

ドレーン挿入の際、挿入部の近くに指標となる黒い丸(マーカー部)がチューブ上に見えるようになっているが(図1)、ドレーンが抜けてくるとこの印が挿入部から離れた位置に移動する。術後翌日から患者は自由に動くことができるため、挿入位置のずれの確認は要注意である。

 

2排液の観察

乳癌術後ドレナージでは、術後の排液量、排液の色や性状に注意して観察する。

 

手術室から帰室したら、排液の色、性状(濃さ)について観察し、その後の変化の基準としてとらえておく

 

①正常時

術直後では「血性」であるが、経過とともに「淡血性」となり、その後「漿液性」となる。排液量も経過とともに減少する。

 

排液量を毎日測定する。順調であれば、抜去のめやすは、およそ30mL/日以下である。

 

②異常時

淡血性へと変化せず血性の排液が継続する、量が急激に増加する、膿性の排液がみられるときなどである。

 

「血性」で濃いようであれば、後出血の可能性がある。吸引が十分でないと創部に血腫が形成されることが多く、ときに再開創する必要がある。

 

術式などにもよるが、皮下脂肪の広域な切除や大胸筋、小胸筋の切除などは出血のリスクがある。

 

排液の色のほか、臭気にも注意する。万一、感染が起こると排液は濁り、異臭がすることがある。この場合、ただちに抜去する必要がある。

 

3ドレーン閉塞の予防・対処

ドレーンの材質はやわらかいため、患者の移動や帰室後の体動で強く屈曲してしまい、陰圧がかからなくなることがある。放置するとドレーン内外で滲出液が凝固してしまい、ドレーンが詰まってしまう。

 

血性の排液が色調の変化がないまま流出が止まった場合にも、ドレーンの閉塞が考えられる。

 

ドレーン挿入部位の触診による排液貯留の有無の確認や、必要に応じてミルキングを実施する必要がある。

 

4ドレナージ方法の理解

ドレナージには、吸引器付きのドレナージキットが使用される。

 

ドレナージを正しく行うためには、ドレナージのしくみを理解する必要がある。特に吸引圧をかけるための吸引バルーンの管理は重要であり、吸引圧が不十分などの場合には、ドレナージされなくなるため注意する(→『ドレナージ吸引装置の使い方』各コラム参照)。

 

5固定部のケア

術後は、皮膚弁を生着させるため、バストバンドや弾性包帯を使用して、圧迫固定が行われる。そのため、ドレーン刺入部や創部の観察が困難な場合がある。

 

固定によるスキントラブルや排液を排出する際の逆行性感染のリスクがあるため、感染徴候(挿入部は発赤腫脹していることが多い)には十分に注意する。

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社

 

[出典] 『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド第一版』 (編著)窪田敬一/2015年7月刊行/ 株式会社照林社

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