ピンカッター|整形外科手術器械(1)
手術室にある医療器械について、元手術室勤務のナースが解説します。
今回は、整形外科の手術で使用される『ピンカッター』についてのお話です。
なお、医療器械の歴史や取り扱い方についてはさまざまな説があるため、内容の一部については、筆者の経験などに基づいて解説しています。
黒須美由紀
〈目次〉
ピンカッターは手術中に鋼線(ワイヤー)を切断するための専用器械
鋭い切断面でワイヤーを切断
ピンカッターは、キルシュナー鋼線®(キルシュナーピン、またはKワイヤー)や、軟鋼線を切断するための専用の器械です。切断面が非常に鋭利にできていて、グリップ部分を握ると先端が閉じ、ワイヤーを切断する仕組みです。
memo端部が加工されている手術用銅線(キルシュナー鋼線®)
整形外科用のキルシュナー鋼線®は、サージカルステンレスでできており、ワイヤーの一端、または両端が鋭く加工されています。なかには、先端部分がドリル状に加工されているものもあります。
ワイヤーをよく使用する整形外科の手術中に活躍
手術中にワイヤーを使用することが多い科として、骨折部を整復し、骨を固定する必要がある整形外科が代表例として挙げられます。そのため、整形外科の手術では、ワイヤーを切断するためにピンカッターも多用されます。
骨折部位を固定するためには、金属で加工されたプレートやスクリューも使用しますが、骨折部の状態や固定の方法によっては、さまざまなサイズ(太さ、長さ)のワイヤーが使用されます。
ピンカッターの誕生秘話
整形外科手術の発展とともにピンカッターが開発された?
ピンカッターが、いつ、誰によって、どのように開発されたものなのかをはっきり示す資料はありません。しかし、ピンカッターの用途は明確です。キルシュナー鋼線®や軟鋼線などのワイヤー類を切断する際に使用します。そのため、ワイヤーを使う手術(特に整形外科)で術式の発展とともに開発されたのではないかと筆者は推測します。
新しい素材でできた器械の誕生とともに発展してきた骨折治療
骨折に対する治療は、以前までは、ギプス包帯固定が主流でした。しかし、防腐法やX線検査の普及により、骨折に対して、プレートとスクリューで固定する外科手術が発展してきました。
鉄製のプレートとスクリューは、1892年頃、イギリスの外科医によって開発されたと言われています。しかし、鉄で製造されたプレートとスクリューは、金属の腐食と体内で感染を起こす問題がありました。このため、炎症や感染が起こったときに簡単に抜去できる「創外固定法」と呼ばれる手技が誕生しました。
また、1930年頃には、腐食に強い金属の開発が進み、現在使用されているサージカルステンレスが、ワイヤーやネジに利用されるようになりました。サージカルステンレスが使用されるようになり、「内固定法」と呼ばれる手技が発展してきました。
ただ切断するための器械から、細かい操作を行える器械へと進化
内固定法が、整形外科領域で発展していくとともに、使用されるワイヤーも多様化されていきました。その際、「(人体からはみ出した)ワイヤーを切断する」という目的で、ピンカッターのような専用の器械が必要になったと考えられます。
牽引治療がメインだった時代は、ワイヤーをただ切断するだけで良かったのですが、ときの流れとともに、ワイヤーの細かな調整が必要になり、ピンカッターが開発されたと筆者は推測します。
memoさまざまな種類がある整形外科用のワイヤー
整形外科手術で使用されるワイヤーには、キルシュナー鋼線®(Kワイヤー)のように硬いものだけではなく、術者の指で形を変えられる(輪にする、ねじるなど)、やわらかいワイヤー(軟鋼線)もあります。
ピンカッターの特徴
サイズ
ピンカッターのサイズは、大きいもので全長23cm~25cm、小さいもので17cm~18cmのサイズがあります。メーカーによってさまざまですが、なかには30㎝を超えるサイズのものもあります。
また、それぞれのピンカッターは、切断可能なワイヤーの径が決まっています。
形状
形状は、工具のペンチに似ています。グリップ部分があり、ここを握ると先端部分が閉じて挟んだワイヤーを切断する仕組みです。
なかには、先端にT/C加工が施されたものもあります(図1)。
図1先端部がT/C加工されたピンカッター
memoさまざまな器械で利用されている高硬度のT/C加工
T/C加工とは、タングステンカーバイド(T)とコバルト(C)を混合して焼き付けた超硬加工のことです。T/C加工は、硬度が高く摩耗に強いため、ピンカッターだけでなく持針器や剪刀類などさまざまな器械の先端部分の加工に利用されています。
*参考:『ダイヤモンド鑷子|鑷子(5)』
また、ピンカッターの先端部分は、刃物状になっています。剪刀類ほど鋭利ではありませんが、大きいピンカッターであれば、子どもの小指程度であれば切れてしまう可能性があります(図2)。
図2鋭利なピンカッターの先端部
材質
ピンカッターは、ほかの鋼製小物と同様に、ステンレス製です。
製造工程
ピンカッターが製造される工程は、ほかの鋼製小物と同様に、素材を型押し、余分な部分を取り除き、各種加工と熱処理を行い、最終調整を行います。
価格
ピンカッターの価格は、メーカーやサイズによって異なりますが、ワイヤーの対応径が2.5mmまでのもので、40,000円~80,000円程度です。先端部の加工の有無によっても、価格は変わってきます。
寿命
ピンカッターの寿命は、特に明確ではありません。しかし、ピンカッターは、ワイヤーを切断する刃物のため、先端の刃の状態がポイントになります。術中の使用方法や、日常のメンテナンスなどに注意しましょう。また、対応外の径の大きさのワイヤーには使用しないようにしましょう。
ピンカッターの使い方
使用方法
ピンカッターには、さまざまなサイズがあるため、使用するワイヤーの径によって使い分けが必要となります。
ピンカッターが使用される場面は、鋼線締結法(テンションバンド)という術式のときです(図3)。この術式は、整形外科の手術の一つである観血的整復固定術(皮膚を切開して骨折面を露出して行う)として行われます。
図3ワイヤーを固定する鋼線締結法(テンションバンド)
また、小児の肘関節の骨折や手関節の骨折、指の骨の骨折など、場合によっては非観血的整復固定術でピンニング(キルシュナー鋼線®のみで固定)を行うこともあります。
memoピンカッターを使用する際のコツ
ピンカッターを使用してワイヤーを切断する場合、切断したワイヤーの端が飛んでしまう危険性があります。そのため、切断するワイヤーの端をあらかじめ保持しておきましょう(図4)。
図4ワイヤー切断時はワイヤーの端を持つ
なお、助手(ドクター)によって基準はまちまちですが、ワイヤーが太く(例えば、径2.0mm以上など)なると、切断時の衝撃から自身の手指を守るため、ワイヤーをガーゼなどで保護しながら持つ、あるいはペンチで挟んで持つことがあります。手袋の損傷にも、十分な注意が必要です。
類似器械との使い分け
ピンカッターの類似器械には、ペンチやワイヤーカッターなどがあります。これらもワイヤーを切断するために使用される器械のため、ピンカッターと使い分ける必要があります。使い分けのポイントは、対応しているワイヤー径の大きさです(表1)。
表1対応可能なワイヤー径と用途の違い
器械の種類 | 対応する鋼線の種類 | 切断以外の用途 |
---|---|---|
ピンカッター
|
軟鋼線 キルシュナー鋼線®(Kワイヤー) |
なし |
ペンチ
|
軟鋼線 キルシュナー鋼線®(Kワイヤー) |
ワイヤーの把持・折り曲げ |
ワイヤーカッター
|
径0.5mm以下の軟鋼線 | なし |
禁忌
対応している径以上のワイヤーに使用すると、刃こぼれなどが起こり危険です。必ず対応径のワイヤーにのみ使用しましょう。
ナースへのワンポイントアドバイス
ワイヤー径が対応しているかどうかを確認
使用用途や外観から、ほかの器械と取り間違えることはあまり考えにくいですが、対応しているワイヤーは必ず確認し、準備しましょう。対応可能なワイヤー径の範囲を超えて使用すると、使用者(術者や助手)に危険が及ぶだけでなく、患者さんにも危険が及びます。
使用前はココを確認
まずは手術で使用するワイヤーの径の大きさを確認します。そのワイヤーの径に対応したピンカッターの準備をしましょう。
次に、先端部分の刃こぼれや噛み合わせ、スムーズに可動するかどうかなど、ピンカッター自体に不具合がないかを確認します。
術中はココがポイント
ピンカッターの先端部分は非常に鋭利です。器械出しの際はグリップ部分をドクターに渡しましょう。器械出しの看護師は全長の真ん中あたりを持ち、ドクターが手のひら全体でグリップ部分を握れるように渡します(図5)。
図5ピンカッターの手渡し方例
また、ピンカッターは、大きさによっては重量がかなりあるため、落下させてしまわないように気を付けましょう。
memoピンカッターは鋭利な器械! 手渡し時は特に気を付けよう
ピンカッターの先端部分をドクターに向けて渡してはいけません。もし、先端部をドクターに向けて手渡すと、ドクターの手が先端部に引っかかり、手袋を破ってしまったり、手指を傷つけてしまうことにもつながります。ピンカッターは、刃物の一種であることを意識しましょう。
使用後はココを注意
ドクターからピンカッターが戻ってきたら、使用前に確認した不具合の確認を再度行います。
ピンカッターは、ワイヤーを使用する際には、必ず対になって使用する器械です。そのため、ワイヤーを使用する手技の場合は、すぐに次の指示に応えられるように準備しておきましょう。
片付け時はココを注意
洗浄方法
下記(1)~(3)までの手順は、ほかの器械類の洗浄方法の手順と同じです。
(1)手術終了後は、必ず器械カウントと形状の確認を行う
(2)洗浄機にかける前に、先端部に付着した血液などの付着物を、あらかじめ落としておく
(3)感染症の患者さんに使用後、消毒液に一定時間浸ける場合は、必ず付着物を落としておく
(4)洗浄用ケース(カゴ)に並べるときは先端の溝が引っかからない場所に置く
ピンカッターはほかの鋼製小物よりも重量があり、先端が刃物状になっているため、ほかの器械から離して置きましょう。また、ほかの器械とは別の洗浄カゴに入れて、洗浄すると良いでしょう。
滅菌方法
ほかの器械類と同様に、高圧蒸気滅菌が最も有効的です。しかし、滅菌完了直後は非常に高温なため、ヤケドをしないように注意しましょう。
また、滅菌用のパックに入れる際は、先端部分だけ2重にするなどの工夫も必要です。
[参考文献]
- (1)高砂医科工業 整形外科手術器械(カタログ).
- (2)石橋まゆみ, 昭和大学病院中央手術室 (編). 手術室の器械・器具―伝えたい! 先輩ナースのチエとワザ (オペナーシング 08年春季増刊). 大阪: メディカ出版; 2008.
- (3)岡﨑裕司. 一般整形外科・労災医療とリハビリテーション医学の進歩. 季刊・社会保障研究 2011: 47; 134-46.
[執筆者]
黒須美由紀(くろすみゆき)
元 総合病院手術室看護師。埼玉県内の総合病院・東京都内の総合病院で8年間の手術室勤務を経験
Illustration:田中博志
Photo:kuma*
協力:高砂医科工業株式会社