硬膜外カテーテルが留置されていたら痛みは感じない?
『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「硬膜外カテーテル」に関するQ&Aです。
辛木吏恵
大阪市立総合医療センター看護部(中央手術部)
奥谷 龍
大阪市立総合医療センター麻酔科
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長
硬膜外カテーテルが留置されていたら痛みは感じない?
クモ膜下麻酔に比べると麻酔効果は弱いですが、知覚神経の遮断効果はあります。
〈目次〉
硬膜外麻酔は長時間の鎮痛が可能で知覚神経の遮断効果も十分
硬膜外麻酔は手術に対する麻酔だけでなく、術後痛管理やペインクリニックにおける慢性疼痛管理にも広く応用されています。
局所麻酔薬を硬膜外腔に1回注入する方法では、薬剤の麻酔作用時間が限られていますが、硬膜外カテーテルを用いることで持続的に局所麻酔薬を注入することができ、麻酔作用時間に依存せずに長時間の鎮痛が可能となります。
神経遮断効果はクモ膜下麻酔に比べると弱くなりますが、知覚神経の遮断効果は十分にあるといわれています。
硬膜外麻酔の留置中は、中枢神経症状の有無などの観察が必須
硬膜外麻酔は、クモ膜下麻酔に比べて神経遮断効果が弱いものの、局所麻酔薬の量は多く使用し、硬膜外腔には血管が豊富に分布しているため、中枢神経などに影響が見られることがあります。主な副作用と合併症には図1、表1が挙げられます。
硬膜穿刺 | |
クモ膜下腔迷入 | |
局所麻酔薬中毒 |
|
硬膜外血腫 |
|
硬膜外感染 |
|
また、硬膜外カテーテルを留置することでさまざまな弊害が出てくるため、以下のような観察が必要になります。
1.疼痛コントロール
疼痛の閾値は患者によって異なり、使用している薬剤やその濃度なども影響するため、鎮痛効果が得られているのか判断しなければなりません。
2.循環器系・呼吸器系への影響
上胸部以上で硬膜外麻酔を行うときに影響が出やすいため、硬膜外カテーテルがどの位置に挿入されているのか確認しておきましょう。
まれに硬膜外カテーテルが迷入し、すべての脊髄神経が遮断される全脊髄クモ膜下麻酔(図2)が起こることがあります。大変危険な状態ですので、もし起こってしまった場合は、緊急カートや輸液、昇圧薬などの準備をし、急変時の対応をしてください。
3.鎮痛効果の判断
患者の訴えやペインスケールを用いたり、鎮痛薬の使用頻度からアセスメントします。
また、局所麻酔薬が確実に注入されていることを確認してください。接続部からの漏れや、硬膜外カテーテルの屈曲や圧迫により硬膜外腔へ注入されていないこともあります。
4.硬膜外カテーテル管理
まれに硬膜外カテーテルが抜去したり、切れることがあります。抜去しないように硬膜外カテーテルを寝衣に固定するところもありますが、患者は寝衣に固定していることを知らず着替えたり、硬膜外カテーテル自体がどのようなものかわからないため、引っ張ったりして抜去することがあります。
そうなる前に、患者にどのようなものが挿入されているのかを説明し、固定位置などを共有しておくとよいでしょう。
コラム硬膜外麻酔の作用
硬膜外腔は、脂肪結合組織などで満たされており、その中に血管やリンパ管や、硬膜の続きである硬膜鞘に包まれた神経根が存在しています。
硬膜外腔に注入された局所麻酔薬は、主に硬膜鞘に包まれた神経根に作用します。硬膜外麻酔の効果は交感神経線維遮断に始まり、冷覚、温覚、痛覚、運動、触覚の順に遮断されます。
知覚神経の遮断効果は十分にあるといわれていますが、硬膜外麻酔は神経に作用する前にいくつかの経路を経て作用するため、神経遮断効果はクモ膜下麻酔に比べると弱くなります。
⇒〔術前・術後ケア〕記事一覧を見る
[文献]
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社