病棟での急変時、腹部エコーを行う理由は?
画像検査のなかでも、エコー(超音波)検査は、侵襲度が低く、簡便に行える検査です。
外来や病棟で、看護師が目にすることの多いエコー検査について、コツやポイントを消化器内科医が解説します。
今回は、病棟でエコー検査を行う場合の理由と注意点を解説する「病棟での急変時、腹部エコーを行う理由は?」についてのお話です。
加藤真吾
(横浜市立大学附属病院がんゲノム診断科)
看護師さんとして働いていると、病棟で患者さんが急変する場合に、何度か出会うと思います。
このような場合、医師が腹部エコーを行うことがありますが、それはどんな場合か、わかりますか?
そういえば・・・この前、急変の患者さんに腹部エコーをしていましたね。
CTが撮れない場合とかですか?
良い答えですね!
正解と言えますが、実は、特定の病態を疑う場合にエコーを使うことが多いんです。
特定の病態ですか? なんだろう?
CTが撮れないということは、動けない場合とかかなぁ?
答えは、本文のなかにあるので、ゆっくり読み進めてみてください。
〈目次〉
病棟にいる患者さんが急変した場合はエコー検査を行う場合がある
エコー検査は、病棟や外来での患者さんの急変時に行われる場合があります。今回は、病棟で行う場合の代表的な症例を紹介しますので、一緒に見ていきましょう。
夜間のラウンド(見回り)中に、肝臓手術後の患者さんがの意識レベルの低下に気づきました。バイタルサインを確認した結果、意識は呼び掛けにはなんとか応答するレベルで、血圧低下・頻脈が認められました。
すぐに多くの医師が部屋に到着し、患者さんの個室は医療従事者でいっぱいになりました。医師の対応で、血液検査を行ったり、輸液を変えたりしていきます。
すると、ある医師から「エコーを行おう」という声が上がりました。間もなくして、ポータブルのエコーが病室に運ばれ、医師は右肋間からエコーを当てていきます。
意識レベルの低下した患者さんを最初に発見したあなたがまずすべきことは、バイタルサインの確認です。そして、重症度に応じて、医師への連絡をします。これは必ず行って下さい。
それでは、上記の場面で行うエコーは、何を目的としているのでしょうか? また、この際、看護師さんは何に注意しなければならないでしょうか?
CTの前にエコーで迅速な診断(FAST)を行う
病棟内で、患者さんの急変時に腹部エコーを当てる代表的な例は、腹腔内出血を疑う場合です。
腹腔内出血は、CTが撮影可能であれば、より確実な診断を行えますが、CTを撮るためには患者さんのバイタルサインが落ち着いていることが条件です。上記の症例では、腹部臓器(肝臓)の手術後のため、血圧が急に下がるとすれば、腹腔内で出血したのではないか、と医師は考えました。
この場合、外傷に用いるFASTの一部を応用することができます。肝臓の手術後であれば、モリソン窩に液体貯留を認めることが多いため、ポータブルエコーを用いてその鑑別を行った、ということになります。
*参考:『FASTで外傷患者の緊急処置の必要性を判断』
緊急時はポータブルエコーの取り扱いに要注意
このように、ポータブルエコーは、急変時の迅速な診断に用いることがあります。
急変時は、限られたスペースで多くの医療従事者が動いているので、コード類の多いポータブルエコーの扱いには特に注意が必要です(図1、図2)。普段より、さらに丁寧に声を掛け合って、特に注意して動くことが大切です。
図1急変した患者さんの病室の様子
図2誤った救急カートや心電図モニターの配置場所
Check Point
- CT検査が行えない患者さんの場合、エコー検査を行います。
- 緊急時は、ポータブルエコーを使用します。
- ポータブルエコーはコード類が多いため、機器の配置や、コード類に注意しましょう。
[執筆者]
加藤真吾
横浜市立大学附属病院がんゲノム診断科
Illustration:田中博志