ストレッチャーからの患者さんの移乗、なんかおかしい?

当連載では、毎回、臨床現場でよく見る光景の写真を1枚提示します。
その写真を見て、どのような危険があるか(考えられるか)を考え、そしてその危険をなくすためにどうしたらいいか、自分なりに考え、解説と照らし合わせてみましょう。
この連載を通して、ぜひあなたの「危険感受性」を磨いてください。

 

細川京子
(川﨑医療福祉大学医療福祉学部保健看護学科講師

 

熊田恵介
(岐阜大学医学部附属病院医療安全管理室副室長

 

 

 

問題

 

 

 

 

CT検査を行うために、ストレッチャーから患者さんを移乗したところです。

脳梗塞にて入院し、薬剤治療を実施した70歳代の女性です。
脳梗塞による半身麻痺と構音障害がありましたが、治療により改善傾向にあります。
本日、経過を確認する目的でCT検査に来ました。ストレッチャーからCT室の検査台に移乗したところです。

 

上の写真から、「あぶない」と思う所を3カ所とその理由について考えてみましょう。

 

 

 

 

 

答え・解説

 

 

 

 

①医療者のポケットから物があふれそうになっている

患者を移乗する際の医療者の準備について考えてみましょう。
この写真では、4名で患者さんを水平移動しています。患者さんを引き寄せる側の医療者(写真右手奥)の胸ポケットに注目してください。
ポケットは医療用電話など多くの物でかなり膨らんでますね。もしもそこから物が落下した場合、患者さんに当たる可能性があります。特に、顔まわりに落ちた場合、とても危険です。
極力胸ポケットには物を入れないようにするか、患者さんを移乗する前にはポケットの物を出しておくなどの配慮が必要です。

 

 

 

また、医療用電話のストラップもたるんだ状態で首にかけたままです。
ストラップのたるみは、患者さんが掴むこともあり、医療者にとっても患者さんにとっても危険です。外すか、腰ポケットに入れるなどの工夫をしましょう。
ほかにも、輸液やコード類なども患者さんの目の前にこないように注意しましょう。

 

 

 

さらに、写真の左手手前の医療者の手首に注目してください。腕時計をしていますね。この腕時計にも注意が必要です。
腕時計を付けたまま患者さんの移動や移譲などを行うと、腕時計の金具などで患者さんの皮膚を傷つける可能性があります。
特に高齢者や低栄養状態の患者では、少々のことでも皮膚損傷を起こしやすいため、医療者は常に自分の身の回りの物品や身に付けている物などに注意を払いましょう。

 

 

 

②持続導尿中の蓄尿バッグの位置

この患者さんは持続道尿中のため、蓄尿バッグが装着されています。
この蓄尿バッグは、患者さんの体の上に置くと尿が逆流する可能性があります。尿バッグは膀胱より下げて管理しましょう。

 

検査などで、一時的に体の上に置かなければならない場合には、検査前に蓄尿バッグを空にするだけでなく、蓄尿バッグと留置カテーテルの途中を一時的にクランプしておくことで逆行性感染を防止できます。

 

 

 

また、クランプした場合、検査後は忘れずにクランプを開放しましょう。
「尿が出ていない!」と大騒ぎになり、実はクランプされていただけだった、ということもあります。

 

 

 

③患者の上肢の位置

ストレッチャーからCTの検査台へ移乗する際の四肢の保持について考えてみしょう。
写真では患者さんは手を体の横側に置いています。できれば、手は患者さんの体の前で組むようにしましょう。

 

 

 

特にこの患者さんのように、麻痺がある患者さんの場合、麻痺側が移乗についていくことができず、手を挟んだり、脱臼したとの事例もあり、とても危険です。
麻痺がある患者さんの場合は、健側の手で患側を保持し、体の上に乗せるようにしましょう。

 

 

 

また、今回移乗用シートを使用していますが、どのように移乗するのかを移乗前に説明しておくと患者さんも安心します。

 

 

 

ここにも注目!

検査中は酸素ボンベではなく、中央配管から酸素を!

酸素療法をしている患者さんの場合は、検査中も継続して酸素投与が行えるようにすることが重要です。

 

 

 

検査室への移動などでは、酸素ボンベを使用しますが、検査室では中央配管からの酸素を投与するようにしましょう。
酸素ボンベのまま検査を行い、検査中に酸素ボンベが空となり酸素飽和度が低下したという事例も報告されています。安全かつ確実に酸素療法が行える環境を整えるように気を付けましょう。

 

 

 

また、病棟に帰室後は必ず酸素ボンベの残量を確認しましょう。
患者さんに使用可能な十分な酸素残量が残っている場合は、残量を確認し定位置に戻します。
残量が50 kg /cm2を切るような場合は、次回の使用時には注意が必要です。

 

 

 

ここで、酸素ボンベの残量について確認してみましょう。
一般的に酸素ボンベは、液体酸素を気化させて降圧で充填したものです。容量は150~700Lまであり、病棟では主に500 Lのボンベが使用されています。
酸素ボンベを使用する際に最も気を付けたいことは、途中で酸素がなくなってしまうことです。あらかじめ、設定使用量から使用可能時間を計算しておきましょう。

 

 

 

往復および待合室での時間なども考慮して、必要な酸素量が確保できるボンベを選択しましょう。

 

 

 

memo酸素ボンベの使用可能時間の計算方法

10×残気圧(kg/cm2)÷3÷酸素流量(L/分)

 

 

 

たとえば、500 Lボンベの残気圧が90 kg/cm2。酸素流量3L/分で投与する場合
10×90(kg/cm2)÷3÷3(L/分)=100 
使用可能な時間は、100分となります。

 

 

 

頸椎に注意!

意識障害を伴う患者の場合などでは、移動時に頸椎保護が必要な場合があります。
特に、外傷患者などで頸椎(頸髄)損傷が疑われるときなどは、移動は慎重に行いましょう。

 

頭頸部を保護する頸椎カラーなどで保護するか、用手固定を行い、頭頸部保持者の掛け声により移動を開始します。
頭頸部が固定されていないと、頸椎(頸髄)の損傷につながるからです。

 

 

 

医療者の立ち位置に注意!

患者さんの移動の際の医療者の立ち位置も考えましょう。
患者さんが仰臥位の場合、全体にかかる体重の割合は、背部3割弱、臀部4割弱、下肢2割といわれています。
患者さんをしっかり支えるためには、体幹部に重心があることを理解し、しっかり保持できる人が患者の腰部~臀部を支えるようにしましょう。

 

 

 


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