気管支拡張症患者さんの聴診音

 

この【実践編】では、呼吸器内科専門医の筆者が、疾患の解説と、聴診音をもとに聴診のポイントを解説していきます。
ここで紹介する聴診音は、筆者が臨床現場で録音したものです。眼と耳で理解できる解説になっているので、必見・必聴です!
より深い知識を習得したい方は、本文内の「目指せ! エキスパートナース」まで読み込んで下さい。
初学者の方は、聴診の基本を解説した【基礎編】からスタートすると良いでしょう。

 

[前回の内容]

気管支拡張症の疾患解説

 

今回は、感染性呼吸器疾患である「気管支拡張症患者さんの聴診音」について解説します。

 

皿谷 健
(杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授)

 

これから私が実際に担当した気管支拡張症の患者さんの聴診音を聴いていただきますが、気管支拡張症の患者さんの聴診音にはどんな特徴があるかわかりますか?

 

基礎編にあった解説だと、気管支拡張症は水泡音が聴こえるのが特徴だったはずです。
水泡音ということは、低い音ですね。

 

勉強してますね、その通りです。
気管支拡張症の患者さんでは、主に水泡音が聴こえます。
他にも、キュンというスクウォークや、いびき音が聴こえることもあります。
ここでは、3人の気管支拡張症の患者さんの症例をもとに、聴診音を紹介します。

 

〈目次〉

症例①:陳旧性肺結核と気管支拡張症を合併した患者さん

まずは、陳旧性肺結核と気管支拡張症を合併した患者さんの症例について簡単に解説します。自分が担当する患者さんだと思って、イメージしてみてください。その後、実際の聴診音を聴いてみてください。

 

【81歳、女性】

 

主訴:数週間前から続く微熱、膿性痰、咳嗽

 

既往歴:20代の頃に肺結核の既往がある。

 

画像所見:胸部X線(図1A)では、右中肺野で気管支拡張の所見(黄矢印)を認める。また、陳旧性肺結核の影響で右上肺野に容積減少があり、上肺野と中肺野の境界(minor fissure;黒矢頭)の拳上を認める。

 

胸部CT(図1B)では、右中肺野の気管支壁の肥厚と、気管支拡張の所見(黄矢印)を認める。

 

図1陳旧性肺結核と気管支拡張症の患者さんの画像所見

 

陳旧性肺結核と気管支拡張症の患者さんの画像所見

 

A:右中肺野で気管支拡張がみられます(黄矢印)。右上肺野ではminor fissureの拳上がみられます(黒矢頭)。
B:右中肺野で気管支壁の肥厚と気管支拡張がみられます(黄矢印)。

 

身体所見:体格は小柄で痩せている。副鼻腔炎はない。

 

バイタルサイン:問題なし。

 

memo容積減少

肺が炎症を繰り返すことで、肺の容量が減少すること。

 

聴診音:代表的な気管支拡張症のラ音

 

ココを聴こう!

1秒手前・4秒・7秒後:「ゴロゴロ」という音。

 

  • 本症例では、低い音の水泡音が聴こえることが特徴です。これは、気管支拡張症の患者さんによく聴こえる副雑音ラ音)です。気管支拡張症の患者さんを聴診する際には、この音を覚えておきましょう。
  • この音は、吸気の初期に強く、中期には消失しています。早期~中期の水泡音にあたります。

 

症例②:気管支拡張症による喀血のある患者さん

次に、気管支拡張症による喀血のある患者さんの症例について簡単に解説します。自分が担当する患者さんだと思って、イメージしてみてください。その後、実際の聴診音を聴いてみてください。

 

【60歳、女性】

 

主訴:突然のコップ1杯程度の喀血により入院。

 

既往歴、家族歴:特記すべき事象はなし。

 

画像診断:胸部X線では、気管支の拡張を認める。胸部CT(図2)では、両側中下肺野で右肺優位な網状影が広がっている。右中肺野の出血が下肺野へ吸い込まれたことが原因。

 

図2気管支拡張症による喀血患者さんの画像所見

 

気管支拡張症による喀血患者さんの画像所見

 

両側中下肺野に網状影が広がっています(青ライン)。特に右肺で優位です。

 

身体所見、バイタルサイン:37.2℃の微熱以外は問題なし。

 

聴診音①:右下肺野背側で聴こえる水泡音(1)

 

ココを聴こう!

1秒前後、4.5~5.5秒目、9秒目:「ゴロゴロ」という音。

 

  • 本症例では、水泡音が聴こえることが特徴です。

 

聴診音②:右下肺野背側で聴こえる水泡音(2)

 

ココを聴こう!

1秒直前:「キュン」という音。

 

  • 本症例では、吸気全般に「ゴロゴロ」という水泡音が聴こえますが、水泡音と一緒に「キュン」というスクウォークも聴こえることが特徴です。
  • 吸気時に、粘液で閉塞していた細気管支壁が開放されたため、スクウォークが聴こえています。

 

症例③:進行した気管支拡張症の患者さん

最後に、気管支拡張症が進行している患者さんの症例について簡単に解説します。自分が担当する患者さんだと思って、イメージしてみてください。その後、実際の聴診音を聴いてみてください。

 

【89歳、女性】

 

主訴:発熱と湿性咳嗽

 

既往歴:気管支拡張症に伴うI型呼吸不全で、1年前に在宅酸素導入(安静時 1L/min, 労作時 3L/min)。

 

画像診断:胸部X線(図3)では、全体的に網状陰影と左中下肺野の容積減少が認められる。また、気管支の拡張および気管支壁の肥厚を疑う部位が目立つ(黒矢印)。

 

図3進行した気管支拡張症の患者さんのX線画像

 

進行した気管支拡張症の患者さんのX線画像

 

全体的に網状陰影と左中下肺野の容積減少がみられます。また、気管支の拡張と気管壁の肥厚の疑いもみられます(黒矢印)。

 

胸部CT(図4)では、気管分岐部レベル(A)や右中葉枝レベル(B)、下葉レベル(C)の気管支は、円筒状や紡錘状、または嚢状に拡張している(黒矢頭)。また、左下肺野の含気は縮小し、右肺が代償性に拡張している。肺動脈径が大きく(D)、二次性の肺高血圧症が疑われる。

 

図4進行した気管支拡張症の患者さんのCT画像

 

進行した気管支拡張症の患者さんのCT画像

 

A:気管分岐部レベル(黒矢頭)。
B:右中葉枝レベル(黒矢頭)。
C:下葉レベルの気管支で拡張がみられます(黒矢頭)。
D:肺動脈の拡張あり。大動脈(a)。
BC青ラインで異常音が聴こえます。

 

聴診音:右下肺野背側で聴こえるラ音

 

ココを聴こう!

全般:「ゴロゴロ」という音。

 

4.5秒、6.5秒、8.5秒:「グーグー」という音。

 

  • 本症例では、水泡音と、呼気時にいびき音が聴こえることが特徴です。
  • 図4BC青ライン付近で、これらの副雑音が聴こえます。
  • 基本的に、吸気初期に強く聴こえる早期~中期水泡音に近い音です。しかし、よく聴くと、吸気全般に水泡音が聴こえるため、気管支拡張症がかなり進行した症例です。

 

目指せ! エキスパートナース気管支拡張症の水泡音は肺炎などの疾患とは違うもの

水泡音に代表される疾患は、肺炎や肺胞出血、心不全など肺胞腔内に炎症を引き起こすものです。聴診では、気管支内腔で発生する水泡音を聴いています。これらの患者さんでは、全吸気時に水泡音が聴取できます。

 

これに対して、気管支拡張症の患者さんで聴こえる水泡音は、吸気初期から中期にかけて聴取できることが多いと考えられます。

 

ナースへのワンポイントアドバイス

気管支拡張症の患者さんでは、水泡音(早期~中期)が聴こえることが多くあります。病変が進行すると、全吸気で水泡音が聴こえることもありますが、これは気管支内や肺胞腔内で水泡が破裂する音が聴こえるためです。

 

Check Point

  • 気管支拡張症の患者さんでは、主にゴロゴロという水泡音が聴こえる。
  • まれに、水泡音と一緒に、キュンというスクウォークが聴こえたり、グーグーといういびき音が聴こえることもある。

 

[関連記事]

 

*聴診音は、筆者が実際の症例で収録したものです。そのため、一部で雑音も入っています。

 


 

[執筆者]
皿谷 健
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授

 

[監 修](50音順)
喜舎場朝雄
沖縄県立中部病院呼吸器内科部長
工藤翔二
公益財団法人結核予防会理事長、日本医科大学名誉教授、肺音(呼吸音)研究会会長
滝澤 始
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科教授

 


協力:株式会社JVCケンウッド


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