腎臓の酸分泌機構|尿の生成と排泄
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、腎臓の酸分泌機構。について解説します。
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
Summary
- 1. 生体は、ATPを産生する過程で酸性物質をつくる。
- 2. 揮発性の酸性物質(CO2)は肺から排泄する。
- 3. 不揮発性の酸性物質(H+)は腎臓で尿中に排泄する。
- 4. 腎臓のH+排泄機構には3つある。
- 5. 代謝性アシドーシスは、アニオンギャップが正常な場合と増加する場合に分けられる。
〈目次〉
はじめに
生体は栄養素(高分子化合物)を酸化することにより、栄養素がもつ結合エネルギー(bond energy)をATPという形で獲得する。これが消化および代謝過程で、一般的には異化反応(catabolic reaction)とよばれる。
この酸化過程で必然的に酸性物質が副産物としてできるので、生体はアシドーシスになる危険性をもっている。生体内でつくられる酸性物質には表1の2種類がある。
表1生体内でつくられる酸性物質
腎臓でのH+を排泄する反応(中和反応)は、一般的に下記のようになる。
A-+H+→ HA
ここで、A-は塩基(base)、HA は塩(salt)である。H+はHAとなって尿中に排泄される。腎臓ではこの反応は表2の3種の塩基を用いて行われている。
表2H+を排泄する際に使われる塩基
H2CO3は、炭酸脱水酵素 carbonic anhydrate による水和反応で、CO2とH2O になり、CO2が肺から排泄される(「pHの維持」参照)。
代謝性アシド-シス〔 metabolic acidosis 〕
腎臓のH+排泄機能に異常があると代謝性アシドーシスになる。代謝性アシドーシスでは増加したH+を中和するために HCO3-が使われる。その結果、代謝性アシドーシスでは、血中HCO3-濃度が低下する。
アニオンギャップ〔 aniongap 〕
代謝性アシドーシスは、アニオンギャップ(AG、陽イオン濃度と陰イオン濃度の差)が正常な場合と増加する場合に分けられる(表3)。AG は以下のように定義される。
表3代謝性アシドーシスとアニオンギャップ
AG =[Na+]-{[HCO3-]+[Cl-]}
ここで、〔Na+〕、〔HCO3-〕および〔Cl-〕は、それぞれ Na+、HCO3-および Cl-の血漿中濃度である。AGの基準値は12mEq/L で、基準範囲は8~16mEq/L である。代謝性アシドーシスではHCO3-は必ず減少するため、AGが基準値を維持する代謝性アシドーシスはCl-が増加する(高クロール血症性代謝性アシドーシス〔hyperchloremic acidosis〕)。
NursingEye
グルコースなどのように水に溶けたときイオン化しない物質の濃度はmmol/Lで表してよいが、イオン化する物質の濃度はmEq/Lで表すのが正しい。mEq/Lは、milliequivaent(ミリ当量)per liter のことでメックとよばれる。
※編集部注※
当記事は、2016年12月23日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
[次回]
排尿の神経支配|尿の生成と排泄
⇒〔ワンポイント生理学〕記事一覧を見る
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『図解ワンポイント 生理学 第2版』 (著者)片野由美、内田勝雄/2024年7月刊行/ サイオ出版