心室性期外収縮|幅広QRS波の心電図(1)

 

看護師のための心電図の解説書『モニター心電図なんて恐くない』より。

 

[前回の内容]

LGL症候群|PQ間隔が短い心電図(3)

 

今回は、心室性期外収縮について解説します。

 

田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長

 

〈目次〉

 

幅広QRS波を解析する

不整脈を解読する場合、まず全体を見て、P波を探して洞性P波かどうか判断して、PP間隔、PQ間隔をチェックして、QRS波の幅を確認しますね。

 

心室の興奮波であるQRS波は、ヒス束~脚~プルキンエ線維を正常に伝導すれば、素早く興奮が心室に伝導するため、QRS波の幅は狭いはずです。

 

つまり、QRS波の幅が広いということは、心室に興奮が伝導するのに時間がかかっているということを意味します。

 

この幅の広いQRS波、ここでは3コマ以上のQRS波としますと、2つに分けましょう。

 

1つは、心房からの興奮が心室に伝導されていて、なんらかの原因で心室の興奮に時間がかかる場合、つまり上室起源の幅広QRS波。

 

もう1つは、心室から発生した興奮で、ヒス束~脚~プルキンエ線維を通らなかったため、時間がかかり幅広QRS波になる場合、つまり心室起源の幅広QRS波。上室起源の場合は、心房波のP波との関連がありますが、心室起源の場合はP波とは無関係の幅広QRS波、つまり房室解離がみられるという特徴があります(図1)。

 

図1幅広QRS波の解析手順

幅広QRS波の解析手順

 

 

心室性期外収縮

あなたがモニター心電図の近くにいると、けたたましいアラームの音ともに図2の心電図に見られるような波形が出現しました。記録紙もカタカタ音を立てて出てきます。

 

図2心室性期外収縮の心電図①

心室性期外収縮の心電図①

 

さあ解析しましょう。

 

PP間隔は3拍目までは規則正しく一定、1拍目と2拍目のPP間隔は(はい、声を出して言ってみましょう)300、150、100、75と60の間で心拍数も正常、PQ間隔は一定で3コマ、QRS間隔も2コマで、3拍目までは正常ですね。ところが、3拍目のQRS波の後に態度のでかいQRS波が登場して、5拍目からまた正常P波-QRS波になっています。

 

こいつの正体はなんでしょう。

 

どう見てもQRS波なので心室の興奮には違いないでしょうが、形が違います。また幅が広くて(4コマもあります)恰幅がいいですね。幅が広いということは、心臓の収縮完了に時間がかかっているということです。つまり、正常の電気の通り道を通っていないということなのです。

 

さて、さらにこのQRS波の前にはP波が見あたりません。よく見ますとP波はこの態度のでかいヤツに関係なく、本来、出るべきタイミングでちゃんと出ていますので、心房の収縮は洞結節からの信号で規則正しく行われていることになります(図3参照)。

 

図3心室性期外収縮の心電図②

心室性期外収縮の心電図②

 

つまり、このQRS波は心房の興奮とは関係なく勝手に心室から出たもので、房室結節の関所を通っていないので、高速道路(刺激伝導系)には乗せてもらえず、一般道を通ったために時間がかかって、幅が広くなったのです。

 

世の中にも規律を乱す人がいるように、心室筋にも勝手にファイヤーしちゃうヤツがいるんです。その電気は命令には逆らわない他の仲間を巻き込んで、心室全体に伝わってしまうのです。

 

これが心室性期外収縮(premature ventricular contraction:PVCまたはventricular premature contraction:VPC)の正体です。

 

心室から始まるので“心室性”、タイミングが違うので“期外”収縮。英語ではいろいろな言い方がありますが、premature ventricular contraction(PVC)というのが多いようです。先輩ナースなどはこのVをとって“ブイ、ブイ”ということもあります。ブイブイ言わせるところも態度がでかい1つの理由です。

 

*****

 

新聞配達にたとえますと、朝、洞結節宗谷岬からの新聞が配達されたにもかかわらず、翌日の新聞を待たずに、名古屋あたりで勝手に新聞を発行して心室本州以南に配ってしまいます。でも高速道路が使えないので、配達には時間がかかってしまうのです。

 

*****

 

さて、この心電図にはある謎が隠されています。それに気づいた人には、筆者から心電図3級を授けます。

 

その謎とは、図3で矢印に示したP波、つまり心房の興奮がなぜ心室に伝わってQRS波をつくらなかったかということです。

 

そう、人も心臓も仕事をした直後は疲れて仕事ができない時期(不応期)があるのです。つまり、この心室性期外収縮が心室筋を興奮させて、房室結節まで入り込んでしまったので、心房から興奮が届いても房室結節がお休みをきめこんで興奮の通過を拒否したのです。世間では“パス”といいます。

 

*****

 

新聞配達の例によれば、名古屋の新聞が房室接合部青函トンネルまで届いたので、翌日の洞結節宗谷岬からの新聞を青函トンネルゲートのオジさんがパスしたわけです。でも、心房北海道には名古屋からの新聞が届いていないので、毎朝の洞結節宗谷岬からの新聞を心安らかに読んで、いつものリズムでいつもの小さな興奮をしたと考えてください。心臓のなかで最も休みたがるのが房室接合部青函トンネルゲートのオジさんなのです。

 

*****

 

さあ、では図4の心電図はどうでしょうか。

 

図4心室性期外収縮の心電図③

心室性期外収縮の心電図③

 

やはり2拍目に形の違う幅の広いQRS波が、通常より早いタイミングで出ていますね。しかもQRS波の前にP波が見あたりませんので、心室性期外収縮ということになります。P波はどこだろうと探すと、2拍目の態度のでかいヤツのT波の後に、いつものタイミングでちゃんと出ていて、しかも正常のQRS波を従えていますね。

 

でも、よく見てみましょう。そのP波の後のPQ間隔はほかのPQ間隔より長くなっています。

 

なぜなのでしょうか。

 

これを考えるためには“相対不応期”のことを知る必要があります(原則11)。先ほどの例の心室性期外収縮後のP波、つまり心房の興奮は、心室まで届かず房室接合部のなかで消滅してしまいました。

 

でも、この例の心房興奮の電気は、時間はかかったけれど、なんとか房室結節のトンネルを抜けることができたのです。

 

青函トンネルのオジさんは、しぶしぶ、もたもたと宗谷岬発行の新聞を通してくれたのです。

 

まとめ

  • QRSの幅が広い(普通は3コマ以上)→正常伝導路を通っていないため心室の興奮終了に時間がかかる。
  • 先行するP波がない→心房からの興奮が伝わったわけではないため

 

それでは、超難問である図5の心電図を見てみましょう。

 

図5心室性期外収縮の心電図④

心室性期外収縮の心電図④

 

これが理解できれば、著者から心電図初段を授けます。

 

いきなり1拍目から幅の広いQRS波が出現しています。

 

3拍目、4拍目も1拍目と同じく、幅広のQRS波が出ています。それらの前にはP波がありませんので、正体は心室性期外収縮ということになります(ここまでできると心電図4級です)。

 

問題は心室性期外収縮のQRS波の直後に見えるとがったヤツです。心電図にはよくまわりからノイズが入り、基線が揺れることがありますが、3つのQRS波のすべてにあるので、偶然とはいえません。

 

実はこれは逆行性P波といわれるもので、心室性期外収縮の興奮の波が、房室結節のトンネルを心室から心房へ逆側から入り込み、心房を普段と逆順で下から上に向かって興奮させたのです。

 

ヒトの房室結節の約半分は、心房側から心室側にだけ興奮を伝える一方通行ですが、残りの半分は両方向性の交通ができます。ただし、普通は1車線しかないので、片方が通行しているときは、反対側からの波は途中でぶつかり、両方とも消滅してしまいます。

 

東京で勝手に発行された新聞(心室性期外収縮)が、房室接合部青函トンネルを心室本州側から入り、心房北海道に配達されます。もし、洞結節宗谷岬の新聞が房室接合部青函トンネルに入っていれば、東京の新聞(心室性期外収縮)とトンネル内で鉢合わせして共倒れします。

 

でも、宗谷新聞が発行前なら、東京の新聞が北海道の人を興奮させ(逆行性P波)、その新聞が洞結節宗谷岬の発行所まで届きます。東京の新聞が届くと、リセットがかかり、その時点からいつもの周期で次の新聞を発行し、心房北海道を興奮させます。これが心室性期外収縮後のはじめの正常P波なのです。

 

*****

 

どうでしょう。理解できたでしょうか。ここまでが完全に理解できれば、後は流れるように進行し、気がついたら心電図の免許皆伝となるはずです。

 

心室性期外収縮の原因

心室性期外収縮と判明しても、その対応ができなければ何にもなりません。物事にはたいてい原因があるもので、まずその原因を考え、取り除けるものは取り除きましょう。

 

まず、心臓自体に病気(基礎心疾患)があるかないかに分けます。なぜ、基礎心疾患があるかないかを分けるかというと、同じ心室性期外収縮でも心臓に病気があると、病気がない場合よりも不幸な結果をまねくことが多いからです。

 

心臓自体に病気がある(基礎心疾患がある)場合は、ほとんどの心臓病でこの不整脈が出現すると考えておいてください。狭心症心筋梗塞などの冠動脈疾患、弁膜症、心筋症、先天性心疾患などなど。

 

では、心臓自体に病気がない場合はどうでしょうか。

 

実は全くの健康人でも1日に数発から数百発、多い人では1万発ぐらいの心室性期外収縮が出ます。何発出たら異常で、何発までは正常とはなかなか決められません。

 

しかし、心室性期外収縮が出現しやすい状態にあり、心臓がそういう環境にさらされればこの不整脈は増え、ときには重大な不整脈に移行してしまいます。

 

興奮状態や精神的ストレスは、心臓をいじめるホルモンアドレナリン)の分泌が多くなり、コーヒーやタバコなどもよくないようです。さらに、心臓の治療薬や心臓以外の薬物の中にも心室性期外収縮を増やすものがありますし、電解質カリウムマグネシウムが体内でバランスを崩していると誘因になります。そのほかにも、甲状腺ホルモンなどのホルモン異常も同様にあげられます。

 

ですから、治療の根本は原因となる基礎心疾患があれば、これを治すことであり、また同時に、心臓の環境を改善してあげるということにつきます。

 

心室性期外収縮の対処

基本的には、この不整脈を発見したら患者さんのもとへ走ってください。何か変化がないか、よく見て、よく話を聞いて、バイタルサインをチェックしてください。可能であれば、標準12誘導心電図をとりましょう。

 

先輩ナースや医師には、以下の場合は必ず相談しましょう。なぜなら、これらの出現は、心臓やそれを取り巻く環境に悪い変化が起こっている可能性があり、心臓が電気的に不安定になっていて、致死性不整脈〈心室頻拍・心室細動〉の前兆の場合も考えられるからです。

 

*****

 

心室性期外収縮には、次のようなものがあります。

 

  1. 心室性期外収縮の数が増えた(いままでなかったのが出始めたものも含めます)。
  2. 形の違う心室性期外収縮が出た(多源性)……図6-a。
  3. 心室性期外収縮が2拍以上連続した(連発)……図6-b。
  4. 前の心拍のT波の上に出た(RonT:心室性期外収縮のR波が前のT波の上に出現)……図6-c。

図6心室性期外収縮の心電図の種類

心室性期外収縮の心電図の種類

 

新聞配達にたとえてみましょう。①の場合は、東京のインチキ新聞発行所が新聞の部数を増やしている状態です。②は東京も名古屋も新聞を出している状態です。③は東京が1日に2部も3部も新聞を発行してしまいます。④は読者の興奮が冷めやらず、疲れているところ(受攻期)に無理やり新聞を出して興奮させようとしている状態のことです。

 

これらの状態では心室本州以南の人々(心室)は新聞報道におどらされ、暴動(心室頻拍・心室細動)を起こしやすいのです。これを鎮圧するために、治安部隊(抗不整脈薬)が出動することもやむをえません。

 

「増えた(増加)・変わった(多源性)・続いた(連発)・乗り上げた(RonT)」と覚えましょう。

 

さあ、もう一度声に出して「増えた・変わった・続いた・乗り上げた

 

[次回]

心室頻拍と心室細動|幅広QRS波の心電図(2)

 

⇒〔モニター心電図なんて恐くない〕記事一覧を見る

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 モニター心電図なんて恐くない』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版

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