副伝導路|PQ間隔が短い心電図(1)
看護師のための心電図の解説書『モニター心電図なんて恐くない』より。
[前回の内容]
今回は、副伝導路について解説します。
田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長
副伝導路
PQ間隔の正常下限は、0.12秒(3コマ)でしたね。0.11秒以下はPQ間隔が短いということになります。
そもそも、PQ間隔つまり心房興奮と心室興奮の時間差は、心房の興奮波が房室結節でペースダウンしてゆっくり進むために見られます。
そのPQ間隔が短縮するのは、房室伝導速度が増して心室に素早く伝導されたか、房室間に別の高速ルートをもっているかどちらかです。
アドレナリンや交感神経の亢進で、房室結節の通過スピードが速くなれば、PQ間隔は短くなりますが、それでも0.12秒(3コマ)までと考えましょう。
3コマ未満まで短縮したものは、房室結節・ヒス束の房室接合部以外の房室間ルートがあると思ってください。心房と心室の間にある、房室接合部以外の伝導路を副伝導路といいます。
図1の心電図を見てみましょう。
全体を見てみると……規則正しいようです。
では、P波はⅠ誘導、Ⅱ誘導、aVFで陽性、PP間隔は規則正しく、約20コマ心拍数は1500÷20=75回/分で、心房は洞リズムですね。
PQ間隔はどうでしょうか。P波の始まりからQRS波の始まりまでを測ってみると、Ⅱ誘導では2.5コマくらいですね。
QRS波は、幅が広く、P波に連なるように緩やかな傾斜がありますね。
このPQ間隔の短縮と、幅広QRS波は、ケント束という心房・心室間の副伝導路によるものです。
図2のように洞結節から心房興奮までは正常ですが、房室接合部以外に房室間の伝導路であるケント束があるため、心房の興奮は房室結節に進入するとともに、ケント束からも心室に伝導されます。
ケント束は房室結節と違って、ゆっくり進むという特殊な性質はなく、素通りともいえる速度で心室に伝導されます。
このため、心房興奮に引き続き心室興奮が始まる、つまりP波に連なってQRS波が見られるというわけです。心室はケント束の心室側の付着部から興奮が始まります。
ところで、房室結節からの興奮は通常どおりヒス束から脚に伝導しています。
つまり、心室はケント束から入ってきた興奮と、ヒス束から入ってきた興奮の両方からの興奮が伝導していきます。心室に伝導するルートが2つあるわけです。
ケント束ルートはヒス束を通らないので、心室の興奮開始タイミングこそ早いものの心室内ではヒス束・脚を通らないことで、ゆっくり伝導しますから、緩やかな傾斜をつくります。一方、ヒス束からの興奮は鋭い幅の狭い興奮波をつくります。両方の波の合成がこのQRS波形なのです。
この、興奮がケント束から心室に流入してできる緩い傾斜の部分をデルタ波といいます(図2)。デルタはギリシャ文字のデルタで“⊿”です。緩やかな立ち上がりですよね。ですから、正確にいえば、PQ間隔ではなく、P⊿間隔(P波の開始からデルタ波の立ち上がりまで)が短縮しています。
また、ケント束は房室結節に比較して不応期が短いという特徴があります。これは、より高頻度の心房興奮をも心室に伝導してしまうということを意味します。
WPW症候群で心房細動をきたすと、ケント束の不応期が短いために、より高頻度に心室に興奮が伝導して、心室の心拍数が通常の心房細動よりも速くなります。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 モニター心電図なんて恐くない』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版