サーモグラフィー|皮膚科の検査
『看護に生かす検査マニュアル』より転載。
今回は、サーモグラフィーについて解説します。
高木 康
昭和大学医学部教授
〈目次〉
サーモグラフィーとはどんな検査か
サーモグラフィーとは、体表から放出される赤外線の量を、赤外線放射線温度カメラで感知し、皮膚表面の温度分布を測定して画像表示するものである。
体表面温度は放出される赤外線量に比例することを利用している。部位にもよるが、所要時間は撮影が10~30分で検査前の安静時間を入れると約1時間程度である。
サーモグラフィーの目的
生体の皮膚温度を測定し、その分布や変化から疾患の補助診断および治療効果の判定を行う。
- 乳がんなどの表在性腫瘍の診断。
- 閉塞性動脈硬化、バージャー病などの末梢循環障害の診断、治療効果の判定など。
サーモグラフィーの実際
基準値と異常の原因(図1)
- 皮下脂肪の多い部分の温度は低く、皮下脂肪の比較的薄い筋肉質の部分では温度が高い。
- 手指・足趾先端は、血管運動が他の部分に比べて高度であるため、温度変化が大きい。
- 四肢の場合、左右対称で、左右差が0.6℃以下が正常とされている。
図1基準値と異常
負荷サーモグラフィー
冷却負荷
冷水負荷後の皮膚温度回復曲線から動静脈シャント血流の評価をする。
温熱負荷
皮膚音を上昇させた後の皮膚温低下のパターンから、中枢神経障害による自律神経障害の評価をする。
薬物負荷
血管拡張薬を用い、最大血管拡張能(予備力)を評価する。
反応性充血
計測部位の中枢側を血圧測定用のカフで3分間圧迫し、血流を遮断した後、開放後の皮膚温を経時的に測定することにより、動脈閉鎖の評価をする。
交感神経ブロック
交感神経をブロックすると末梢血管が拡張することを利用し、末梢血管の拡張不全の原因を診断する。
運動負荷
歩行などの運動負荷による皮膚温の変化、回復過程から、動脈閉塞症などの閉鎖程度の評価をする。
サーモグラフィー前後の看護の手順
- ①患者に検査の説明を行う。
- ②専用の検査着に更衣する。
- ③検査前に10~20分程度安静にする。
- ④検査室に案内し、カメラの前の椅子に座って撮影を開始する。
サーモグラフィーで注意すべきこと(表1)
- 検査に際し、室内環境を一定に保つ(室温26±1℃、湿度60%)。
- 対象部位の化粧およびアクセサリー、湿布などの皮膚温度に影響するものは除去する。
- 平常の体温に戻すために、検査前に10~20程度の安静時間を設ける。
- 検査結果の評価につなげるため、疾病の有無と程度、末梢循環障害の随伴症状の有無と程度(しびれ感、冷感、疼痛など)、末梢部の動脈触知の有無、外傷、感染の有無と程度、治療内容とその効果、といった必要な情報を収集する。
1)無風に保つ(エアコンは一時切る)。
2)高温の赤外線を計測部位から遮蔽する(スチーム等と患者の間に衝立などを置く)。
3)室温は25℃以上に保つ。撮影の都度、室温と湿度を記録しておく。
4)冬季は室温訓化時間を20分以上おく。
5)検査前4時間は禁煙。
6)温湿布や冷湿布、ジアテルミー等の理学療法は検査当日は休止する。
7)EMGや動脈造影、ミエログラムはサーモグラフィー検査の前24時間は実施しない。針刺入式のEMG検査とは72時間あける。できれば、サーモグラフィー検査を先行させる。
8)患者関連情報として、次の項目は必ず病歴に記載する。
氏名、性別、年齢、主訴、喫煙習慣、飲酒習慣、利き腕、疼痛のある部位、冷感や温熱感、感覚異常のある部位、既往歴、現病歴、治療の有無と方法、臨床診断、体温、撮影日時間、室温、湿度、壁温
9)画像の再現性と経時的変化を確認するために、最初に撮影した画像と同一部位を最後にもう一度撮影するとよい。
サーモグラフィーに関する患者との問答例
これからサーモグラフィーの検査をします。
どのような検査ですか。
皮膚の表面から出ている赤外線を感知して、皮膚の表面温度の写真を撮る検査です。
何か、身体に影響はないのですか。
大丈夫です。身体に害はありませんよ。心配なさらないでください。
そうですか。それで、どうすればよいのですか。
その台の上に手を(またはベッドに横になって足を)出してくださるだけでいいんですよ。部屋の温度に慣れるために15~20分ほどリラックスしていてください。
分かりました。
検査が終わりました。お疲れさまです。いかがでしたか。身体のほうは、何か変化がありましたか。
いいえ。特に何ともありませんでした。簡単な検査ですね。ありがとうございました。
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 看護に生かす検査マニュアル 第2版』 (編著)高木康/2015年3月刊行/ サイオ出版