染色体検査|血液・造血器系の検査

『看護に生かす検査マニュアル』より転載。
今回は、染色体検査について解説します。

 

高木 康
昭和大学医学部教授

 

〈目次〉

染色体検査とはどんな検査か

染色体の異常には、染色体数の異常(増減)、構造の異常(転座、欠失など)があり、血液、羊水、骨髄血などを採取して培養し、細胞分裂させて解析する。

 

染色体検査の目的

①先天異常、②出生前診断、③悪性腫瘍に関する検査などを目的として行われる。

 

染色体検査の適応

染色体検査の適応は、造血器腫瘍および固形腫瘍、先天異常、生殖障害、出生前診断などで、現在では、造血器腫瘍の白血病悪性リンパ腫の診断が全染色体検査件数の約60%を占めている。

 

染色体検査の概要

  • 検査の概要は、主に分裂中期の培養リンパ球内に形成される染色体を展開し、スライドガラス上に固定、ギムザ染色などの分染法を施して顕微鏡下で観察し核型分析を行う。
  • 検査材料としては、末梢血リンパ球にリンパ球幼若化剤であるフィトヘマグルチニン(PHA)を添加し培養して用いることが多いが、骨髄血、固形腫瘍細胞、羊水細胞、絨毛組織などが目的に応じて対象になる。

 

核型記載法

1971年にヒト細胞遺伝学標準化会議がパリで開かれ、分染法に基づいた標準核型命名法が提示された。ヒト染色体は86の領域と321のバンドに細分化され、染色体番号、短腕(p)・長腕(q)の区別、領域、バンド番号で記載する(図1)。

 

最近では、高精度分染法が可能になり、より詳細なバンド番号標記がとられる(ISCN、1995)。

 

図1核型記載法

核型記載法

 

1)染色体数の異常

染色体異常は、染色体数の増減と染色体の構成が変化する構造異常に分けられる。染色体数の増減の場合は、増減している染色体番号を記載しその前に(+)あるいは(?)の記号を付けて表す。例えば、21番染色体が3本あるトリソミー男児のときには、染色体総数は47本になるので、47,XY,+21となる。

 

2)構造異常

構造異常の場合は、異常の種類を表す記号(表1)のあとに、異常を起こしている染色体番号とその位置を記す。

 

表1主な染色体構造異常と標記記号

主な染色体構造異常と標記記号

 

例えば、第9番染色体の長腕34領域と第22番染色体長腕11領域の相互転座のときは、46,XY,t(9;22)(q34;q11)という記載になる。

 

染色体異常と疾患

常染色体トリソミー症候群・部分モノソミー症候群

1)ダウン症候群

95%は染色体不分離に起因した21番染色体のトリソミーであり、残りの5%ではロバートソン転座などの転座型トリソミーがある。出生頻度は1/1000と高く、母年齢に依存し高年齢にともなって増加する。

 

2)13-トリソミー症候群

眼球形成不全、口唇・口蓋裂、介変形など表現型に幅があり、重症なので多くは早期に死亡する。出生頻度は1/5000〜6000。染色体異常と疾患

 

3)18-トリソミー症候群

顕著な発育障害と重度の先天異常を伴い、生後まもなく死亡、1年以上の生存はまれである。出生頻度は1/4000〜7000。

 

4)5pモノソミー(ねこなき)症候群

子猫様の泣き声が特徴で、出生頻度は1/10000。

 

5)4pモノソミー症候群

出生頻度は1/25000。

 

性染色体異常

1)クラインフェルター症候群

表現型は男性。染色体所見は47,XXY、48,XXXY、46,XY/47,XXYなどがみられ、出生頻度は1/1000。

 

2)ターナー症候群

多彩なX染色体構造異常がみられる。表現型は女性。染色体所見では45,X、46,X,del(Xp)、46,X、i(Xq)、45,X/46,XXなどが知られている。出生頻度は1/3000〜5000。

 

3)XXX女性

47,XXX。出生頻度は1/1000。

 

4)XYY男性

47,XYY。出生頻度は1/1000。

 

5)脆弱X症候群

男性の精神遅延と巨大睾丸などいくつかの身体症状を呈する。X染色体の一部に脆弱部位が検出される。46,fra(X),Y。出生頻度は1/2000〜2500。

 

造血器腫瘍の染色体異常

  • 造血器腫瘍の染色体検査は、固形腫瘍と異なり腫瘍化細胞が独立しているため取り扱いやすく、染色体解析が進んだ。現在、白血病における染色体異常は50〜80%に認められている。
  • 造血器腫瘍の染色体異常は、1960年に慢性骨髄性白血病(CML)患者から、9番、22番染色体の相互転座t(9;22)(q34;q11)で生じるフィラデルフィア染色体(Ph)が発見されたことから始まった(図2)。

図2 慢性骨髄性白血病でみられるフィラデルフィア(Ph)染色体

慢性骨髄性白血病でみられる   フィラデルフィア(Ph)染色体

 

  • 白血病はFAB分類が1976年に提唱され、M2のt(8;21)、M3のt(15;17)などの病型特異的な異常が発見された。急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)や悪性リンパ腫における代表的な染色体異常を表2に示した。

表2造血器腫瘍でみられる染色体異常

造血器腫瘍でみられる染色体異常

 

白血病・悪性リンパ腫関連検査の対象となる染色体異常、SRL総合検査案内2013、p.135  
http://www.medic-grp.co.jp/images/sikkanbt/09a.pdf 造血器腫瘍にみられる代表的な染色体異常と遺伝子 参照

 

  • 相互転座型では正常では認められない異常なキメラ型融合遺伝子(たとえばPh染色体ではbcrabl遺伝子)が形成され、細胞腫瘍化の直接的病因となる。

 

染色体検査に関するQ&A

Q.染色体ってどんなもの?

A.DNAと蛋白の複合体で、細胞分裂の際に認められるものです。ヒトの染色体数が2n=46(常染色体22対44個、性染色体XY型;男性、XX型;女性の各1対2個)であることは、1956年にTjioとLevanによって初めて明らかになりました。

 

その後、細胞培養、染色体標本作製、染色体分染法などの技術的進歩により、臨床検査としての染色体解析が検査室でできるようになりました。ヒト染色体の分類と命名法は1960年に標準化され、核型記載法が国際標準規約(An international system for human cytogenetic nomenclature:ISCN)により定められています。

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 看護に生かす検査マニュアル 第2版』 (編著)高木康/2015年3月刊行/ サイオ出版

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