チームプレーが「案外」苦手な日本人
日本人は「案外」チームプレーが苦手だと思っています。
え?逆じゃない?
皆さんは不可解にお考えかもしれません。
日本人はむしろチームワークに優れ、チームプレーを得意としているのではないか?
一般的にはむしろ、そう考えられているきらいがあるからです。
例えば団体スポーツなどでは、欧米の選手に比べて身体能力に劣る日本人が個々人の力ではなく、チームプレーでそのハンディキャップを克服…なんて言われます。
では、なぜ僕はそのような「逆張り」な話をするのか。
根拠をこれから申し上げます。
チームの能力が最大化されない、日本の「チームワーク」
日本ではチームワークを「波風を立てないこと、周りに迷惑をかけないこと」だと考えがちです。
たしかに、波風を立てず、周りに迷惑をかけないことは大事ですし、それはチーム内の安寧をもたらします。
しかし、何事も程度問題でして、波風を立てないこと、周りに迷惑をかけないことが強い目的に転じてしまうと、チームは弱体化します。
成長、改善のチャンスが阻害されるからです。
日本では問題点を指摘し、改善策を提案するとチームからハブられたりします。
つまり、チームの成長、改善よりも「チームメイトの居心地が良いこと」が優先されるのです。これは内向きの論理であり、外的には通用しない論理です。
むしろ、誰もが自由に意見を言い合うことができ、「かつ」建設的な意見や議論がチームの雰囲気を損ねたり、人間関係を壊したりしないことこそが大事なのです。
海外で仕事をするとよく理解できるのですが、異なる意見を出すのは成長のためにとても大事なのです。ときには激論すら必要になります。
そうやっていろいろな意見がでることによりチームは成長し、より良いチームになるチャンスが増します。
このような状態を担保するのが「チームワーク」「チームプレー」なのです。
日本における「チームワーク」「チームプレー」は、同調圧力による「場が静まっていること」であり、チームの能力が最大化されているわけではないのです。
場合によっては低きに流れて、チームの能力がだだ下がりの状態が許容されていたりすることもあります。
目立った人間の足を引っ張る「出る杭は打たれる」ことが日本ではとても多いからです。これでは、全体のパフォーマンスはむしろ下がってしまいます。
誤りを指摘されないことで、「老害」が生まれる
特に問題なのが、日本の「目上の人には物を言えない」悪習です。
はっきり申し上げておきますが、これは「悪習」以外の何物でもありません。
日本では、年長者に年少者が意見するのを好まないチームが多いです。儒教の影響もあるのでしょうか。
職名に「格上な職名」と「格下な職名」があり、下が上に意見するのもはばかられます。女性が男性に意見するのを嫌がるチームも、まだまだ多いですね。
こういうチームは「弱い」のです。
僕は「論語」はわりと好きなのですが、儒教のこういう差別主義的なところは大嫌いです。
そうそう、「老害」って言葉があるじゃないですか。加齢に伴う心身機能の低下は誰にだって起きます。
現在、53歳のぼくにも老いによるあれやこれやの劣化が絶賛進行中です。
加齢に伴う心身機能の低下は世界中で起きている現象なのに、他の国で「老害」に相当する単語をぼくは寡聞にして知りません。あれって日本ならではの現象だと思っています。
あれは単なる生理現象以上のもので、構造的な問題であり、システムの失敗が「老害」を生むのです。
年齢が上の人が間違っていても、文句を言わない、言えない。
だから、この人物は自分の間違いに気づかない。
そして周りの若手は影で文句をいい、陰口を言い、このシニアの人物をあざ笑うのです。
なんと残酷なことでしょう。
シニアの人物であっても「それはおかしいです」「現在では、これは通用しません」と耳に痛い意見も自由に伝えられる雰囲気があれば、シニアも「そうか、俺が間違っていた」と訂正することができるのです。
それができないから、間違いが補正されず、どんどん「老害」が進行していきます。
老害の問題は、老人の問題というよりも若い人の冷酷さの問題なんですよ。
ちゃんと親切心があれば、相手の間違いを指摘し、老害というダークサイドに落ちてしまう人物を助けてあげなければならないのです。
このように、日本社会では年長者、男性、医者とかが間違いをやらかしても、だれも訂正しようというインセンティブが起きません。よって、間違いが加速され、修正が効かなくなる傾向にあります。
ちゃんと年少者、女性、医者以外の医療従事者が「ここがおかしい」「そこが間違っている」と言い続けることが大事です。
そして、そのような意見を言ったことがペナルティーとならないことも大事です。
強いチームは、他者を受け入れ、同じ方向を向ける
「仲間を作る」というのは、同時に「仲間はずれを作る」という意味です。
仲間という空間を作ることによって、その空間の外にいる人を締め出しているのですから。
このことの意味を多くの医療者はちゃんと理解していません。
チームに間違いがあったとき、「そこがおかしい」と意見する人物を、日本社会は排除しがちです。
排除してしまえば、そこは静かで異論が出ない(出にくい)ので、一見平和な社会が成立します。
しかし、こうやって間違いを無視、看過し続けることで、チームは確実に劣化していくのです。
日本人がチームプレーが苦手、と申し上げた意味がおわかりいただけたでしょうか。
本当に強いチームは多様性、異質性を内包します。
他者を恐れず、また阻害したり排除したりしないチームです。
自分と同じ価値観を共有した集団は「仲良し集団」ですが、チームとしては弱いです。
「自分とは意見が全然合わない」異質な集団が、それでも同じミッションの下で同じ方向を向いて頑張るのが、本当に強いチームです。
皆さんの所属するチームは、弱くて狭量な仲良し集団でしょうか。
それとも他者を受け入れる成熟した、強いチームでしょうか。
ぜひ一度、考えてみてください。
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神戸大学医学部附属病院感染症内科 教授岩田健太郎
1997年 島根医科大学(現・島根大学)卒、1997年 沖縄県立中部病院(研修医)、1998年 コロンビア大学セントクルース・ルーズベルト病院内科(研修医)、2001年 アルバートアインシュタイン大学 ベスイスラエル・メディカルセンター(感染症フェロー)、2003年 北京インターナショナルSOSクリニック(家庭医、内科医、感染症科医)、2004年 亀田総合病院(感染内科部長、同総合診療・感染症科部長歴任)、2008年神戸大学大学院医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野教授 神戸大学都市安全研究センター感染症リスク・コミュニケーション研究分野 教授 神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長・国際診療部長(現職)
編集:宮本諒介(看護roo!編集部)
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