「小学校の健診で上半身裸」で炎上!医学的には? |おると先生の気になるニュース(3)

 

今回は「神奈川県横浜市の小学校における内科検診で児童が全員上半身裸にされた」というポストがXで拡散され、炎上したニュースについて考えてみようと思います。

 

 

この騒動は、冒頭の投稿に対し

 

・女子に対する配慮が足りない
・服を着たまま健診をすべきである
・裸を見たいとか変態か

 

などという意見がポツポツ出はじめ、ついには学校や健診を担当したクリニックや医師まで特定し晒しあげるポストまで散見されました。

 

実にX(旧Twitter)らしいですね!(もちろん褒めていません!)

 

医療職以外の方から見るとそう感じてしまうこともあるのかと思いますが、では医学的目線から見るとどうでしょうか?

 

脱衣で健診を行う医学的に妥当な理由

この問題について、筆者は

 

プライバシーや心情に対する配慮は最大限すべきである
・服を着たままの健診は、疾患によっては見逃しのリスクが上昇する

 

と考えます。

 

「女子に対する配慮が!!」という意見に対しては、男子にも配慮すべきであると考えます。
また、「裸を見たいとか変態か」という意見に対しては、変態医師がいる可能性については、過去に盗撮による逮捕者も何人かいるため全否定はできませんが、大多数の医師は使命感を持って健診に臨んでいると考えます。

 

筆者も過去に、わずかな昼休みを潰し、かつ無給で股関節検診などに医師として行っていました。これはひとえに「地域の子どもの股関節を守りたい」という気持ちが強かったと記憶しています。

 

さて話を戻しますが、学校健診に関しては2024年1月に文部科学省の依頼で日本医師会が通知を出しています。

 

この通知には、

 

1、検査・診察に当たっては、児童生徒等のプライバシーや心情に配慮した対応を行う。
・男女別に検査・診察を行う。
・検査・診察時に身体が周囲から見えないよう、囲いやカーテン等により、個別の検査・診察スペースを用意する。
・養護教諭を除き、原則、児童生徒等と同性の教職員が立ち会う
・検査・診察の会場内では、待機人数を最小限にした上で、他の児童生徒等に結果等が知られたりすることがないよう注意する。
・着替える場所を用意したり、待機時には体操服やタオル等で身体を隠せるようにしたりするなどの工夫を行う。

2、検査・診察時の服装については、正確な検査・診察に支障のない範囲で、原則、体操服や下着等の着衣、又はタオル等により身体を覆い、児童生徒等のプライバシーや心情に配慮する。

また、検査・診察の場面においては、正確な検査・診察のため、必要に応じて衣類や下着、タオル等をめくって視触診したり、聴診器を入れたりする場合があることについて、児童生徒等や保護者に対して事前に説明を行う。

「児童生徒等のプライバシーや心情に配慮した健康診断実施のための環境整備について(通知)」より抜粋

 

と書かれています。
さらに、この通知の中で「特に留意が筆頭な検査項目について」として、

 

① 脊柱の疾病及び異常の有無
② 胸郭の疾病及び異常の有無
皮膚疾患の有無(外傷含む)
心臓の疾病及び異常の有無

 

が挙げられてます。これらに関しては、このような対応をしないと逆に発見率が低下する恐れがあるということは、なんとなく察することはできるでしょう。

 

つまり「配慮は最大限行うが、発見率に関わる部分はやむを得ず視診や触診を行うことになる」わけです。

 

筆者の診療科である整形外科においても、日本側彎症学会からの「学校健康診断における側弯症検診に関する見解」の中で、可能な限り精度が高い健診を実施するためには、「背中と腰を露出した状態での評価」が医学的には必要であることや、実施には児童生徒、保護者の皆様の理解と承諾を得た上で、児童生徒個人のプライバシー、心情を十分に尊重した環境のもとで実施すべきであることなどが書かれています。

 

なお、現状では、子どもたちや保護者などから理解が得られるよう説明することなどは、事前に学校側に求められています。

 

心情に配慮しつつも事前にきちんとした説明を

今回の騒動のポイントは、学校や保護者から「健診に対する医学的妥当性についてしっかり理解を得られていないこと」がSNSで露呈しただけではなく、いわゆる「お気持ち」と揶揄されるナラティブな勢いにのまれ、医学の正当性が失われつつあることではないかと筆者は考えます。

 

こういったことはHPVやコロナといったワクチンなどに対して同様の現象が起きたことは、皆さんも記憶に新しいのではないでしょうか。

 

看護の領域であれば、認知機能の低下により危険行動が目立つ患者に対し同意の上で拘束などを実施した医学的妥当性に対し、「虐待だ!!」と騒ぐナラティブな勢いにのまれた、と例えるとわかりやすいでしょう。

 

近年、医療に関する裁判も増えてきているため、いつ誰がこのようなトラブルに巻き込まれるかわかりません。

 

医学的妥当性はしっかりおさえつつ、医療を受ける側の心情にできるだけ配慮する姿勢を持つことが、今後の医療にはより求められることでしょう。

 

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執筆

おると🦴整形外科医📚

日本整形外科学会専門医/ 認定医複数/ フリーランス/ 雑誌・W E B連載複数あり、正しくわかりやすく医療や医療系ニュースの解説をしています。Xブログ

 

編集:林 美紀(看護roo!編集部)

 

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