病院ナース、これから2年「訪問看護」やってみます!|病院ナースの訪問看護(1)
病院で働く看護師が、訪問看護ステーションで研修する――。
在宅ケアが重視される中、そんな機会が増えてきています。
でも、多くの病院ナースにとっては「訪問看護師って、なんだか全然別のジャンル…」という感じもありますよね。
ちょっぴり高く感じられる「病院」と「在宅」の垣根。そこを飛び越えてチャレンジしてみるナースたちを取材しました。
(4回連載で紹介します)
訪看ステーション出向中!2年限定の訪問看護師
取材の日は雨、自転車で移動する訪問看護師にはツライ天気…。完全防備で出発する秋山さん
「カッパ、買ったんですよ~」
自転車でめぐる訪問看護師の必須アイテムを身に着け、秋山愛さんは「んふふ」と笑います。
秋山さんは、がん研有明病院(東京)に勤める看護師。
と同時に、現在は「訪問看護師」でもあります。
がん研有明病院では、看護師のキャリアアップを応援するため、病院に在籍したままで、ほかの病院・施設に出向できる制度があるそう。これを利用して2019年4月から2年間、ケアプロ訪問看護ステーション東京に出向中なのです。
この日1件目の訪問。
玄関先で丁寧にしずくを払った後、秋山さんは「おはようございまーす!」と、明るく中に入っていきます。
利用者の安田さん(仮名、70代)は多発性硬化症の患者さん。一緒に暮らしていた母親は数年前に他界し、住み慣れた自宅でひとり暮らしです。
「嫌な天気が続いてるけど、体調はどうですか?」
「うん、だるいわけじゃないんだけど、異様に眠くてね。こないだも朝ごはん食べてる途中で寝ちゃって…」
秋山さんは収納棚からタオルを取り出したり、車椅子をセットしたりしながら、会話の中で情報を収集。続いて、摘便や褥瘡の処置、リフトを使っての車椅子への移乗と、流れるようにケアしていきます。
ケアの間、2人の話題は、終戦から間もなかった安田さんの幼いころの話に移り、盛り上がっていました。
「自宅がね、いいんですよ。テレビ見て、パソコンやって、本読んで、自由にね」
安田さんは、訪問看護を利用するようになった経緯を記者に説明してくれた後、こうゆったりとつぶやきました。
安田さんが1日のほとんどの時間を過ごす部屋には、家族の写真やお母さんが大切にしていた茶器、以前の仕事に関するドイツ哲学の本――。
「そうですよね」
秋山さんがふとケアの手を止めて、うなずきました。
自宅に帰したい、でも帰せないジレンマ
「病院に来てもらうんじゃなく、こちらから行くことで看護の感覚が変わった」という秋山さん
出向制度があるがん研有明病院でも、訪問看護ステーションへの出向は、秋山さんが初めてのケースだそう。
秋山さんは、どうして訪問看護を?
「別の病院の救急外来で働いていたとき、ターミナルのがん患者さんもよく搬送されてきたんです。おそらく在宅で看取る方針だったのが、ご家族が慌てて救急車を呼んじゃったのかな、というケースも多くて…」
心臓マッサージを受けて、挿管されて、亡くなった後は異状死として警察が介入して――。
「これって、たぶん望んだ最期じゃなかったんだろうな…」
そう思わざるを得ないケースをたびたび経験して、「病院と在宅をつなぐ人」の必要性を感じるようになった秋山さん。がん医療で名高いがん研有明病院に来てから、さらにその思いは強くなりました。
「状態が落ち着いて、痛みもコントロールできていて、予後のことを考えたら『家に帰れるのは今しかない!』という場合でも、なかなかうまくいかないんです。本人が病院から出るのを不安がったり、医療依存度の高い患者さんを受け入れられる訪看ステーションが見つからなかったり…」
自宅に帰したい、でも帰せない。
このジレンマはどうしたらいい?
「病院と在宅をつなぐ人」に自分がなるには?
これが、秋山さんが在宅の現場を肌で知りたいと思った理由でした。
「大丈夫、家に帰れるよ」って言えるんだな
朝夕は、スタッフ同士の情報交換や事務作業の時間
訪問看護の現場に飛び込んでまもなく、ある利用者さんと出会って、秋山さんは衝撃を受けました。
「ターミナルのがん患者さんで、CVポートで医療用麻薬の持続注射があって、PTCD(経皮経肝胆管ドレナージ)と腸瘻とストーマもあって。
…すごくないですか!?
この患者さんを受け入れられる訪問看護ステーションがあるなんて、病院にいたとき、わたしは思いもしなかった。本当にびっくりしたんですよ!」
がん研は医療依存度の高い入院患者が多いだけに、「うちのステーションでは看られない」と言われてしまうパターンも少なくなかったという秋山さん。
出向前までは「医療依存度が高い患者さんの行き先」のイメージがなかなか持てませんでした。
「でも、そんな患者さんも自宅に帰れるんだと、初めて実感できました。こういう心強いステーションが地域にあれば、病院でも『大丈夫、家に帰れるよ』って患者さんに言えるんだなと」
在宅の“勘所”がある
ずっと急性期でやってきた秋山さんは今、訪問看護の現場で「壁にぶつかってます(苦笑)」。
緊急性の判断やフィジカルアセスメントはこれまでの経験が生きている一方、1年2年かけてゆっくりと状態が変化していく慢性期の在宅患者さんにどうアプローチすればいいか、まだ感覚がつかめないと話します。
そんなに急ぎではないけど、このへんでいったん、ご家族に状況を説明するべきなのかな?
この状況はドクターに共有したほうがいいのかな?
今すぐどうこうというレベルじゃないけど、先月よりも呼吸状態が悪くなっているのは誰に、いつ、どんな温度感で伝えたら?
「そういう在宅の“勘所”みたいなものがあるなと。
病棟では、近くに医師もいて師長もいて、気になる患者さんがいたら、さっと様子を見に行くこともできますけど、在宅では1回1時間の訪問で、1人で判断して、他職種と連携しなくちゃいけない。鍛えられているな、という感じがあります」
その一方、若手の多いこのステーションに、秋山さんは、病院で鍛えたSOAPの書き方や中堅ならではのコミュニケーションスキルを還元しています。
2年後、病院に持って帰るもの
訪問看護師を経験して、秋山さんは、病院に何を持って帰るのでしょうか。
「訪問看護師を始めて数カ月。まだ在宅の浅い部分しかわかってない」と率直に話したうえで、秋山さんは、
「この2年で得られるものは、きっと、すごく大きい」
と期待しています。
「2年後には『病院と在宅をつなぐのは、こんな人』『急性期病院にこんな看護師がいたらいい』という像ももう少しはっきりつかめていて、病院に戻って提案できる何かも見えている…かなって思ってます」
秋山さんは「んふふ」と笑いました。
***
第2回:わがままで怒鳴る「困った患者」は、普通の気のいいおじさんだった|病院ナースの訪問看護(2)
第3回:訪問看護に興味はある…でも「見学させてください」は迷惑?|病院ナースの訪問看護(3)
第4回:「3年後は訪問看護師」が約束された病棟ナースたち|病院ナースの訪問看護(4)
看護roo!編集部 烏美紀子(@karasumikiko)
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