がん終末期では体が欲する食事量を尊重すべし|平方眞の「看取りの技術」
【日経メディカルAナーシング Pick up!】
平方 眞(愛和病院)
本連載では、書籍『看取りの技術』の内容の一部を、加筆修正してご紹介します。
前回(※記事全文をご覧いただくためには「日経メディカル」の会員としてのログインが必要です〉)に続いて、がん患者さんの食欲不振への対応法について述べます。
本人が食べたいものを食べたい量だけ
人生の大半はきちんと食事を摂るのが普通ですから、食欲不振は異常な出来事と捉えられ、家族の気持ちに大きな影響を与えます。
「食べないから元気になれない」とか「少しでも多く食べれば、それだけ元気になれる」「食べないと死んでしまう」と考える家族は多く、「もう少し食べたら?」と患者さんに勧めている姿をよく見かけます。
しかしそれは、本人にとっては逆につらい場合が少なくありません。
若い人が風邪で寝込んだ後などでは、栄養をしっかり摂ることで体力が戻って元気になりますが、がんなどで終末期を迎えた場合はそれとは違います。
がん患者さんは、実際の年齢よりも何十歳も余分に年を取ったような状態になっており、体力が低下し、栄養や水分を受け止める力も減少しています。
食べられなくて体力が低下してくるのではなく、がんで体力が低下し食べられなくなっているのであり、栄養や水分を補給すれば元気になるというものではありません。
体が受け止められる量が減っているわけですから、無理に食事を摂ると、受け止められなかった分は逆に体の負担となり、苦しむ原因になります。
苦しませないためには、たとえそれがわずかな量であっても、その人のそのときの体が受け止められるだけの量を補給することが大切です。
がんで体力が非常に少なくなってきた高齢の女性患者さんで、1日にヤクルト2本を飲むだけの人がいました。
とてもしっかりしていて、「元気をつけようと思って、たくさん食べようとしてみたこともあったけど、今の私にはこれくらいがちょうどいい」と言い、それ以外は何も摂らずに、3~4週間、ヤクルト2本で安定して過ごしていました。
その後徐々に体力が低下して、最期は本当に静かに亡くなりました。今の自分に一番合っている食事量を、自身で探り当てたわけです。
食事量が「毎食スプーン数杯」という別のある患者さんがいました。
家族は少しでも余分に栄養が摂れるようにと「もう一口食べて」と口に運んでいましたが、本人だけのときに「毎食ご家族が手伝ってくれて、いいですね」と声をかけると、その人は「嬉しいんだけどね、でも毎食大食い大会させられている気分だよ」と苦笑いしながら答えました。
体が受け止められる量がどのくらいかは、その人の体格や状態によって全く違います。
これまでの経験から一言で言うと、本人が「食べたい」と思うものを「これくらいだったらおいしく食べられた」という量にしておくのが一番良いようです。
私はこう説明している
「どうすればもうちょっと食べてくれるか?」と心配する家族へ―
「病気のせいで、体力がかなり少ない状態になっています。余分に年を取ったような変化なので、栄養を入れればそれだけ元気になるというわけではありません。
体力が少なくなると、体が受け止められる栄養や水分の量も減ってきます。体力が減ってきたときには、太く生きていては体力を早く使い切ってしまうので、『細く長く』生きるように体が変化します。
ほとんど食べなくなったのはその変化に成功したからで、ここで無理に食べさせると『太く短く』にしてしまう可能性があります。体が受け止められる以上に栄養を摂ると、体の負担になって苦しい思いをします。
経験上、ご本人が食べたいものを、それがうんと少量でも『おいしい』と思える量だけ食べるのが一番良いように思います」
「食べられないなら点滴してほしい」と訴える家族へ―
「食べたものを消化し吸収するのにもエネルギーが必要です。
今の体力では、口から食べて消化吸収するよりも、脂肪や筋肉、肝臓にあるグリコーゲンなど、体に蓄えてあるエネルギー源を取り崩して生きていく方が楽なのだと思います。
エネルギー源を取り崩しているときには、健康な人で 1日300mLほどの『代謝水』という水が体内で生まれます。その水も含めて絶妙なバランスで生きているので、点滴するとそのバランスが崩れて苦しい症状が出る可能性があります。
やっても仕方ないという消極的な判断で点滴をしないのではなくて、今が最善のバランスなのでそれを崩さないためにあえてしないという積極的な判断です」
※このコラムでは、読者の皆様から、看取りにまつわるさまざまな疑問・質問、「こうした方がよりうまく行くのでは?」「私はこんな工夫をしています」などのご意見を募集しています。投稿はこちらから。お待ちしています。
<掲載元>
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