20代女子も関係なくない!子宮頸がんとHPV感染|私たちが知りたいHPVワクチンのこと(1)
副反応とされる症状が問題となり、事実上の接種中止が続いているHPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)。「HPVワクチンは有効性も安全性も問題なし」と専門家は言います。
けれど「本当に接種しても大丈夫なの?」とモヤモヤした不安や不信を抱えたままの私たち。
医療者であり、自らも若い女性である看護師だからこそ、きちんと知りたい子宮頸がんとHPVワクチンのこと。疑問と不安を専門家にぶつけました。
HPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)
▼2010年11月、小学6年~高校1年の女性に無料接種がスタート(任意予防接種)。半年間で3回接種する。
▼2013年4月には定期予防接種になったものの、副反応とされる症状が相次ぎ報告され、わずか2か月で「積極的な接種勧奨」中止。
▼現在の接種率はほぼ0%。接種率が高い世代は1994~2000年度生まれ(2018年時点で18~24歳前後)。
【宮城悦子先生/横浜市立大学医学部 産婦人科学教室 主任教授】
産婦人科の医師として、子宮頸がんで亡くなる女性を一人でも減らしたい! YOKOHAMA HPV PROJECTを立ち上げるなど、子宮頸がんに関する情報発信にも力を入れています。
ワクチンのことは特に詳しくないです。子宮頸がんも心配だけど、HPVワクチンも不安…。「HPVワクチンって結局どうなの?」と思っています。
HPVワクチンについて取材したことがあるので、ちょっとだけ知識があります。HPVワクチンの議論は「むずかしいなー」と思っています。
子宮頸がんの原因ウイルス、HPVって?
まず初めにHPVと子宮頸がんの関係から整理していきましょう。
子宮頸がんの原因の多くが「HPV」というウイルスだということは知ってます!
お! その通りです。
HPVはヒトパピローマウイルス(Human papillomavirus)のことで、このHPVに感染することで子宮頸がんを発症するということが明らかになっています。
こんなふうに原因がはっきりしているがんは珍しいんですよね?
そうなんですよ。だからこそ「ワクチンで防ごう」という発想になったんですね。
HPVそのものは身近にありふれたウイルスで、感染経路は主に性的接触です。
「性交渉の経験がある女性の約80%が、一生に一度は感染する」と言われているくらいなので、ほぼ誰でもHPVに感染すると考えていいでしょう。
そんなに!
それってコンドームを使えば予防できたりしないんですか?
コンドームでHPV感染を完全に防ぐことはできません。
じゃあ、性経験が1回でもあれば、感染する可能性はあるということですね。
「HPVに感染している=性経験が多い」じゃないんですね。
それ! HPVワクチンの副反応が問題になった当初は、ここを勘違いして、女性の性行動を批判する人がけっこういました。
「結婚するまで性交渉しなければいい」みたいな極端な意見もあったんです。でも、たとえば結婚するまで経験がない女性でも、夫から感染する可能性があるわけですから、意味ないですよね。
そう。HPVが子宮頸がんの原因ウイルスとして知られることで「感染するのは女性だけ」のように勘違いされがちですが、男性も感染します。
それにHPVは子宮頸がんだけじゃなくて、陰茎がんや尖圭コンジローマ(男女の性器周辺にイボができる疾患)といった男性がかかる病気の原因ウイルスでもあるんですよ。のどの奥にできる中咽頭がんの一部も、男女ともにHPV感染が関係していることが分かっていて、若い人の発症が増えているのが問題になっています。
だから海外では「男性にもHPVワクチン接種を」という話になってるんですね。
そうなんです。この点は、また次回以降で詳しくお話ししますね。
1日10人弱の女性が亡くなっている子宮頸がん
次は「HPVに感染すると、どうなるのか」を見ていきますね。
先ほど「ほぼ誰でもHPVに感染する」と言いましたが、感染しても必ずすぐに子宮頸がんになるわけではありません。
それも聞いたことあります!
感染しても基本的には何も起こらなくて、いつの間にかウイルスはなくなっちゃうとか。
そうですね、感染したHPVの約90%は体の免疫作用で自然に消えてしまいます。
免疫すごい。
残りの約10%でずっと感染した状態が続いた中から、一部が異形成や上皮内がんと呼ばれる前がん病変、つまりがんになる手前の状態になることがあり、数年から数十年かけて子宮頸がんを発症する――。
これがHPV感染から子宮頸がん発症までの過程です。
感染したウイルスがずっと消えないで、最終的に子宮頸がん発症までたどり着くのは、どのくらいの割合なんですか?
だいたい1%よりも少ないですね。
え、それだけ???
やっぱり少なく感じますか?
でも、ここで思い出してほしいのは「HPVはありふれたウイルスで、ほぼ誰でも感染する」ということ。つまり、1%以下とは言っても、そもそもの母数が大きいんですよね。
日本では、毎年、約1万人が子宮頸がんになっているんですよね。「多くは自然に消える」と聞くと、そんなにリスク高くないんじゃない?って感じますけど、年間1万人と考えると…。
決して小さくない数字ですよね。
国立がん研究センターの推計では、76人に1人が一生のうちに子宮頸がんになるとされています。
(データ出典:国立がん研究センターがん情報センター「がんに関する統計データ」)
それに、子宮頸がんの手前、高度異形成・上皮内がんも手術が必要な状態です。これも含めると年間約3万人以上が子宮頸がん・前がん病変と診断されているんです。
そして日本の子宮頸がんの死亡者数は年間約3000人。毎日8~9人が子宮頸がんで亡くなっていることになります。
子宮頸がんが原因で1日10人弱の女性が亡くなる…。
しかも、ほかのがんに比べて子宮頸がんは20代から40代の、比較的若い世代で増えているという点も、わたしたち産婦人科医が強く言いたいところなんです。
20代から40代の女性といえば、結婚・妊娠・出産・子育ての真っただ中。結婚したばかりのパートナーや小さいお子さんを残して先立つのも、また先立たれるのも本当につらいことです。
若くて健康だった女性が、愛する家族を残して子宮頸がんで亡くなっていく日本、何とかしなくてはと毎日診療しながら思っています。
子宮頸がんが「マザーキラー」と呼ばれるゆえんですね。
で、でも、治療成績はとても良い疾患だと聞きますよ?
ということは、検診をまめに受けて早く発見・治療できれば、大丈夫なんじゃないんですか?
子宮頸がんは「まめな検診で早期発見できればOK」?
確かに、子宮頸がんは早期で発見されれば比較的、予後がいいがんだと言われます。
(国立がん研究センターがん情報サービスの情報をもとに作成)
子宮頸がんの治療には手術、放射線治療、抗がん剤治療があって、がんの病期(ステージ)によって治療法を選択します。
国立がん研究センターによると、子宮頸がん全体の5年生存率は約74%。ごく初期のⅠ期であれば約92%となっています。
ごくごく早い段階で見つけられれば、子宮の入り口部分だけを切除する手術(円錐切除術)が適応になる場合が少なくないので、子宮を残すこともできます。
子宮を残すということは、望めば妊娠・出産も可能ということですよね。
それなら、やっぱり検診でいいんじゃ…。
ただし、円錐切除術が可能なのは、ⅠA1期と言われる、ごく初期のステージまでに限られます。
それに、子宮を温存できるとは言っても、流産や早産のリスクが増えます。早産は低出生体重児のリスクも高まるので、生まれた子の合併症も心配です。
手術する以上、妊娠・出産にまったく影響なしとはいかないということですね。
でも、もし妊娠・出産を望まなければ治療後の生存率も高いし、普通の生活に戻れるんじゃないんですか?
ところが「以前とまったく同じ生活」とはいかないんです。やっぱり治療の後遺症がありますから。
ある程度がんが進行して子宮や腟、リンパ節なども切除する「広汎子宮全摘出術」では、リンパ浮腫、排尿障害などが残ることがあります。それよりも切除範囲の小さい「円錐切除術」でも、月経血が出にくくなったりします。
治療後の後遺症がどのくらいの割合、どの程度の重さで起こるかは、ステージや切除範囲、体質や生活スタイルなどで変わってくるので一概に言えませんが、多かれ少なかれ後遺症はあるものと考えていいと思います。
私、子宮頸がんについて詳しく知る前は「子どもが産めなくなる」以外の影響があるとは想像すらしていなかったんですよね。
ところが、実際に手術を受けた方々から、
- セックスがつらくなって、パートナーとの関係が変わってしまった
- 発熱やだるさ、足のむくみがひどくて仕事を休みがちになり、会社にいづらくなって退職。再就職もできず、経済的に苦労することになった
- 恋愛も結婚もあきらめなくてはいけないと絶望して、死のうとした
というお話を聞いて。
後遺症がこんなに人生に影響あるなんてショックでした。
HPVワクチンを接種するかしないかを考える上で、子宮頸がんという病気を単純に生存率だけでとらえては正しく判断できません。ワクチンを選択しない場合のリスクも知っておいてほしいと思います。
一部には「子宮頸がんは検診で防げる」のような声もありますが、前がん病変でも治療は必要となるし、ノーリスクというわけじゃないんですね。QOLへの影響も大きい。
それともう一つ、子宮頸がん検診が100%確実ではないということも理解してもらいたいです。
「毎年、子宮頸がん検診を受けていたのに、見つかったときには既に進行していた」というケースは、残念ながら珍しくありません。
日本の子宮頸がん検診は、子宮の入り口部分(頸部)から細胞をこすり取って調べる細胞診が一般的ですが、細胞の採り方が不十分だったりすると、必ずしも正しい結果が出ないことがあるんですね。
それに、子宮頸がんには「扁平上皮がん」と「腺がん」の2種類があるんですが、腺がんは細胞診で引っかかりにくいんです。
できる場所が子宮の奥側で、形も正常な細胞と似ていて見つかりにくい上に、転移が起こりやすかったり、放射線や抗がん剤が効きにくかったりして治療が難しい。あまり知られていませんが、こういう見つかりにくいタイプの子宮頸がんが増えています。
えーっと、そうすると、子宮頸がんは早期に発見できれば治療できて生存率も高いけど、
- 子宮を摘出するため、妊娠・出産ができなくなる(子宮を残せても流産が増える)
- リンパ浮腫や排尿・排便障害といった後遺症がある
- 検診をまめに受けていても100%早期に発見できるわけじゃない
ということでしょうか。合ってますか?
はい、その通りです。
一方で、同じようにHPVワクチンも100%予防できるわけじゃない。
なので「検診とワクチンの両方で予防することが必要ですよ」と、私たち医療者は訴えています。
そもそも日本の子宮頸がん検診の受診率って低いですしね。20代はさらに低くて約20%、10人に2人しか検診を受けていない状況です。
(データ出典:OECD,Health at Glance 2015)
検診の受診率を高めたいと、自治体が無料クーポンを配ったり、わたしたち医師も広報したりといろいろやってるんですが、なかなか…。
でも、1次予防としてのHPVワクチン、2次予防としての子宮頸がん検診が世界の子宮頸がん予防の基本です! もしHPVワクチンを打っていても、20歳をすぎたら検診を定期的に受けてくださいね。
「子宮頸がんは、HPVワクチンを打つよりも、定期的な検診と早期の治療でリスクを軽減した方が安心」と思ってましたが、考えていたよりもリスクが大きいんだなということがわかりました!
でも、じゃあHPVワクチンを打てば、本当に子宮頸がんのリスクを回避できるんでしょうか…?
ということで、次回は「HPVワクチンの効果」についてモヤモヤを解消していきましょう。
今回のまとめ
注:国立がん研究センターの最新がん統計(2018年9月15日更新)では、生涯で子宮頸がんになる割合は「78人に1人」。
看護roo!編集部 烏美紀子(@karasumikiko)
(参考)
子宮頸がん 治療の選択(国立がん研究センターがん情報サービス)
人口動態統計によるがん死亡データおよび地域がん登録全国推計によるがん罹患データ(国立がんセンターがん情報サービス)
最新がん統計(国立がん研究センターがん情報サービス)
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