心不全ガイドライン、急性と慢性統合し全面改訂|学会トピック◎第82回日本循環器学会学術集会

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高志昌宏=シニアエディター

 

 

これまで急性心不全慢性心不全に分かれていたわが国の心不全治療ガイドラインが改訂を期に一本化され、「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」として第82回日本循環器学会学術集会(3月23~25日、開催地:大阪)で発表された。

 

急性心不全のガイドラインは2011年、慢性心不全は2010年の発表であり、6~7年ぶりの改訂となった。日本循環器学会、日本心不全学会など11の関連学会と2つの研究班の合同研究班長としてガイドラインを取りまとめたのは、九州大学循環器内科学の筒井裕之氏。

 

九州大の筒井裕之氏の写真

 

表1 主要な改訂ポイント(筒井氏による、一部改変)

1. 心不全の定義を明確化するとともに、一般向けに分かりやすい定義も新たに記載した。
2. 心不全とそのリスクの進展のステージと治療目標を新たに記載した(図1)。
3. 心不全の定義として、従来からあるHFrEF(Heart Failure with reduced Ejection Fraction)、HFpEF(Heart Failure with preserved Ejection Fraction)に加えて、EFが40~49%と軽度低下したHFmrEF(Heart Failure with mid-range Ejection Fraction)を新設した。さらに、HFpEF, improvedまたはHFrecEF(Heart Failure with recovered Ejection Fraction)も記載した。
4. 心不全診断アルゴリズムを新たに作成した。
5. 心不全進展のステージを踏まえ、心不全予防の項を新たに設定した。
6. 心不全治療アルゴリズムを新たに作成した。
7. 併存症の病態と治療に関する記載を充実させた。
8. 急性心不全の治療において時間経過と病態を踏まえたフローチャートを新たに作成した。
9. 重症心不全における補助人工心臓治療のアルゴリズムを新たに作成した。
10. 緩和ケアに関する記載を充実させた。

 

改訂ポイントは多岐にわたる(表1)。

 

心不全の定義は「何らかの心臓機能障害、すなわち、心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果、呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し、それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群」とされた。

 

一般向けの定義は、2017年10月に日本循環器学会と日本心不全学会が発表した「心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です」を用いた(関連記事)。

 

心不全とそのリスクの進展ステージを表す図表

図1 心不全とそのリスクの進展ステージ(出典:急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版、p12、図はクリックで拡大)

 

図1は新規に作成された、心不全のステージ分類と治療目標を示したシェーマだ。心不全のステージA~Bは症候性心不全をまだ発症しておらず、そのリスクがある状態を指す。

 

ステージAは高血圧糖尿病など心不全のリスクとなる疾患を発症した段階で、心臓に器質的な異常はない。ステージBでは例えば高血圧による左室肥大など、心臓に器質的な異常は認められるが心不全の症状は出ていない段階。

 

さらに進行すると、心不全症候が出現したステージCになる。ステージCでは急性憎悪と寛解を繰り返しながら徐々に身体機能が低下していき、治療抵抗性や難治性、末期の心不全と表現されるステージDに至る。

 

治療目標は、ステージAが危険因子のコントロールや器質的心疾患の発症予防、Bが器質的心疾患の進展予防と症候性心不全の発症予防となる。ステージCとDは治療目標が区別されておらず、症状のコントロール、QOL改善、入院予防、緩和ケアなどが主体となる。

 

症候性心不全に至ってない段階から心不全のステージ分類に含めたのは、2001年の米国ACC/AHAのガイドラインが初めてという。

 

一度心不全を発症すると、徐々に低下していく身体機能の抜本的な改善は現在の治療ではまだ実現できず、予防に重点を置く必要があるためだ。

 

「この概念の提唱時は米でも議論があったようだが、心不全の発症・進展予防の重要性は時代とともに高まっており、わが国でも同様な概念を取り入れることにした」と筒井氏は説明する。

 

心不全の分類では、左室駆出率(EF)が低下した心不全(HFrEF)とEFが保たれた心不全(HFpEF)に加えて、2016年に欧州ESCのガイドラインが提唱した「EFが軽度低下(40%台)した心不全(HFmrEF;Heart Failure with mid-range Ejection Fraction)」も採用した。

 

また、一度EFが40%未満に低下したが、治療により改善した心不全として「HFpEF,improved」または「HFrecEF(Heart Failure with recovered Ejection Fraction)」も記載した。

 

診断アルゴリズムは、これまでは確定診断の流れを専門的かつ詳細に図示したものだったが、改訂版では症状、既往・患者背景、身体所見、心電図、胸部X線の5項目中1項目でも該当すればBNPまたは心エコー図検査を優先して行い、それでも診断がつかない場合はCT・MRI・医学検査や運動/薬剤負荷試験、心臓カテーテル検査を行うという、診断全体の流れを分かりやすく示したものになった。

 

薬物治療に関してステージCでは、HFrEF、HFmrEF、HFpEFに分類。HFrEFはACE阻害薬/ARB(適宜、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬を追加)および利尿薬に、必要に応じてジギタリスや血管拡張薬を追加することとした。

 

HFmrEFではエビデンスがほとんどないため個別の判断とし、HFpEFでは利尿薬による自覚症状改善と併存症に対する治療を基本とした。

 

それぞれの推奨は、米国ACC/AHAや欧州ESCのガイドラインに合わせて、クラスはI、IIa、IIb、IIIの4段階、エビデンスのレベルはA、B、Cの3段階に分類されている。これに加えて今回の改訂から、参考としてMINDSの分類も併記された。

 

また、欧米のガイドラインと同様に推奨を一覧表にまとめ、推奨のクラスとエビデンスレベルを異なる色で塗り分けるなど、分かりやすさにも配慮したという。

 

ガイドラインは日本循環器学会のウェブサイトからpdfのダウンロードが可能なほか(こちら)、ポケット版が書籍(こちら)および電子書籍(こちら)で発売された。

 

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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