コミュニティナースの道はキャリアダウンなのか? 看護師こそ多様な働き方ができる

医療や看護とは何の関係もなさそうだけれど、実は…

 

前編「病院ナースの私が『コミュニティナース』になった理由」では、実際にコミュニティナースとして活動する2人に今の道を目指したきっかけについてお聞きしました。

 

後編は、コミュニティナースの実践についてです。

地域の中に入って住民の健康づくりをまるごとサポートするって具体的にどういうこと?

 

併せて、「看護師のキャリアやスキル」という視点からも聞いてみました。

 

渡邉綾香さん(左):大学病院の小児科に7年間勤務。これからのキャリアに悩んでいた2016年秋、コミュニティナース育成プロジェクトに2期生として参加した。修了後の17年春に病院を退職し、現在は病児保育室の看護師として勤務。子育て支援にかかわる新規事業をスタートさせた。1987年生まれ。

 

宮本裕司さん(右):介護士から看護師になり、高齢者急性期病棟で約5年勤めた後、現在は訪問看護師として勤務。そのかたわら、コミュニティナース育成プロジェクト1期生として、健康づくりにつながる地域活性化イベントなどを複数の地域で展開している。1982年生まれ。

 

 

地域のつながりをつくるのがコミュニティナース

--コミュニティナースの仕事って、医療機関や介護施設、訪問看護で働く看護師の仕事と違って、いまいちピンと来ないのが正直なところで…。具体的にどんなことをされているんですか?

 

渡邉:私は2017年3月に病院を退職して、4月から子育て支援サービスを提供する「株式会社マザープラネット」(千葉県)で勤務しています。

 

流山市内にある病児保育施設での看護業務がメインですが、7月、コミュニティナースとしての活動を実践したり、施設での看護以外の活動に取り組むための「クリエイティブナース事業部」を社内に立ち上げました。

 

--コミュニティナースとして企業にお勤めなんですね。新規の事業部では何を?

 

渡邉:地域の空き家を開放して週1回、子育て中のママたちが気軽に集まれる居場所づくりをしています。

 

子育ての悩みや病気のこと、予防接種のことなど、ちょっと誰かに相談したいとき、「ここにコミュニティナースがいますよー」という場所ですね。

 

行政の子育て支援センターもありますが、「もう少しふらっと立ち寄って話したり相談したりできる場所、医療の専門職に会える場所があればいいんじゃないか」と始めました。

 

同じコミュニティナース2期生で、今は職場の同僚でもある小林朋子さんと一緒に取り組んでいます。小林さんは流山で実際に子育てをされているので、その経験がとても生きているんです。私一人ではできなかったですね。

 

実際にスタートしてみたら、「看護師に相談したい」という目的で来られる方は意外にいなくって。それよりも、「誰か大人と話がしたい」「子育て中の孤独感や不安感をどうにかしたい」というニーズが大きかったですね。

 

渡邉さんと小林さんが地域の空き家を利用して作った子育て世代のコミュニティスペース「Fratto」

 

--すると、コミュニティナースらしい役割というか、看護師のスキルを生かす機会は、あまりなさそうですが…?

 

渡邉:いえいえ、そこはママたちとの世間話のような会話から、だんだん引き出していく感じです。

 

「どのくらい鼻水が出たら受診したらいい?」「こんなときは小児科に行くべき?」とか、「うちの子、なかなか寝付かなくて…」「離乳食はどうしたらいいですか?」とか、ママたちは次第に困りごとや分からないことを話してくれるようになります。

 

私は看護師としてアドバイスしますが、そうして話していると、ほかのママたちも加わってきて、「私のときはこうだった」「うちはこうしてたよ」と、みんなでわいわい話していますね。

 

 

目指すのは「結果的に健康になっていた」

--「看護師が健康相談を受けます」といったスタイルではないんですね。

 

渡邉:そうなんです。初めは知らない同士だったママたちに、どんどんつながりが生まれていっています。最近、ダウン症児の親子も来てくれるようになったんですが、「ほかの子と接する機会がすごく欲しかった」と、とても喜んでくれて。

 

こうしたつながりを地域につくることこそ、コミュニティナースの活動の一つです。

 

コミュニティナースに求められるのは、地域の健康ニーズを拾い上げながら、住民との信頼関係を築いて一緒に考えていくこと。住民と向き合うというよりも、一緒に同じ方を向いていくことが大事だと思います。

 

宮本:コミュニティナースが地域を元気にしようと活動する上で、「看護師だからこそ」の部分をどう生かすか-。なかなか難しいところではあるのですが、僕は、「結果的に健康になっていた」という形で貢献できればいいのかなと思っているんです。

 

--結果的に健康になっていた…ですか?

 

宮本:例えば今度、クリスマスのキャンドルを作る地域イベントを開きます。キャンドルに火をともすとき、大切な誰かにメッセージを書いてもらおうという企画です。

 

もしかしたら、「去年亡くなった旦那さんにメッセージを」と思う方がいるかもしれません。そこにコミュニティナースがいることで、結果としてグリーフ・ケアにつながるかもしれない。結果的に健康に、は例えばそんな感じです。

 

1期生や2期生たちで開いている定期イベントでも、こんなことがありました。

 

その日は、藍染やシャボン玉を楽しむ内容だったんですが、参加してくれた中に、こだわりの強い発達障害のお子さんがいました。われわれは医療者として、「気になる子ども」にきちんとアプローチできます。

 

コミュニティナースは「住民の日常に普通にいること」が大事。その活動は一見すると医療と無関係のようにも

 

渡邉:そのお母さんはやっぱり子育てに悩んでいらしたんですけど、いつもは自分のそばから離れられない子どもが、みんなと一緒にすごく楽しんでいる姿を見て、「あの子に、こんな一面があるんだ」と驚かれていました。私たちが見ている間、お母さんが一人で行動できたことも喜んでいましたね。

 

お母さんは、私たちが看護師だと後から知ったんですが、

 

看護師さんだったんですね、やっぱり対応が違うと思いました。安心して任せられたし、こういう方が身近にいてくれてよかった

 

とおっしゃってくださったんですよ。

 

--なるほど、コミュニティナースがいることで「結果的に貢献」ですね!

 

宮本:病院に行かなきゃ出会えない、病気じゃなきゃ話せない存在の医療者ではなく、日常の生活動線に普通にコミュニティナースがいることが、住民の「安心できた」「相談できてよかった」につながれば、「結果的に健康になっていた」になるのではないかと思うんです。

 

かかわり方は医療的に見えないかもしれませんが、身体だけでなく心の健康、社会的な健康に貢献できるのがコミュニティナースなんだと思います。

 

コミュニティナースは地域のイベントやにぎわいづくりにも積極的に関わる

 

 

「キャリアダウンになるとは思わなかったの?」

渡邉:医療者の方から、「コミュニティナースの道が、看護師としてキャリアダウンになるとは思わなかったんですか?」と聞かれることもあります。

 

私も以前は、「臨床の最先端をいって、看護師としてバリバリのキャリアを築く!」と思っていましたし、臨床の現場を離れたことに今も寂しさは感じます。

 

でも、それ以上に新しい価値を作り上げていくことに今は楽しさを感じるんですよね。

 

病院では小児患者の在宅移行支援に力を入れていたので、この経験をコミュニティナースとしても生かしたいと、新しい事業にも動き始めているところです。

 

コミュニティナース自体が新しい試みで、定まったスタイルもありませんが、その分、どんなことにも自由に挑戦できる。臨床とは異なっても、看護師としてのキャリアもスキルも磨けると思っています。

 

 

保健師のかゆいところに手が届く存在

--地域に出て住民の健康をサポートする身近な医療人材という点では、「保健師と何が違うの?」と聞かれることも多いと思いますが。

 

宮本:そうですね、コミュニティナースは、保健師さんにとっても「かゆいところに手が届く存在」というか。役割が競合するような関係ではなく、あくまで協働だと思います。

 

保健師に限らず、地域の医療・福祉職、町のキーパーソンの方々と協働して、地域全体をカバーしていく。そんな関係が築ければ、健康で楽しく暮らせる人を一緒に増やしていけるんじゃないかと考えています。

 

 

看護師の新しい働き方のモデルケースに

 

コミュニティナースを看護師の新しい働き方のモデルにしたいと話す宮本さん(右)と渡邉さん

 

--コミュニティナースは、看護師の新しい働き方としても注目されますが、職業として普及するには道のりは遠いですよね。コミュニティナースはこれから、どうなっていくと思われますか?

 

渡邉:現状は、「看護師がやるボランティア活動の一つ」と見えている部分もあるんじゃないでしょうか。まずはコミュニティナースの活動を広め、ブランディングし、「看護師のキャリアの一つ」として社会に広めていくことが必要だと思います。

 

私は民間企業でコミュニティナースの事業化に取り組んでいますし、国の地域おこし協力隊事業(※3)を利用して、地方に移住して働いているコミュニティナースもいます。

 

職業としてのマネタイズの方法はそれぞれですが、この活動を必要としてくれる方は必ずいるので、まずは思い切ってやってみることが大事なのかなと思います。

 

※3 地域おこし協力隊事業…過疎化や人口減少が進む地方で、都市部からの移住を積極的に受け入れ、地域の活性化を図る総務省の事業。地方自治体が隊員を募集し、採用された隊員は1~3年間、地域活動に従事する。

 

宮本:僕は今、訪問看護師として働いていますが、コミュニティナースの活動でも講師料などをいただけるようになっています。個人的なミッションとして、看護師の新しい働き方のモデルを作ることを意識しているところです。

 

一つの病院で働くだけじゃなく、「コミュニティナースと病院ナース」「コミュニティナースと訪問看護」のように、ダブルワークでいろんな経験をして、それで病院勤務と同じか、それ以上の収入が得られたり、ママナースや潜在看護師の方たちの働き方としてコミュニティナースを選択できたりするような仕組みを作っていきたいと思っています。

 

日本の働き方はどんどん多様になっていますが、国家資格を持つ看護師こそ、いろんな働き方ができるんじゃないかと思います。走り出したコミュニティナースが、そのモデルケースになれればと思うんです。

 

--コミュニティナースが新しい看護師のキャリアとして広がっていくか、これからが楽しみですね。ありがとうございました。

 

 

看護roo!編集部 烏美紀子(@karasumikiko

 

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