余命半年、あなたにとって大切なことは?最期の過ごし方について話し合う「もしバナゲーム」

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もしも余命が半年と言われたら――。そんな「縁起でもない話」をあえてするためのゲームが作られている。病を発症し最期を意識してからではなく、その前から「死」「最期」を考え、気軽に誰かと話し合える機会を作ることが狙いだ。この「もしバナゲーム」を広めようとしている亀田総合病院の蔵本浩一氏と原澤慶太郎氏にその経緯を聞いた。

 

聞き手:加納 亜子=日経メディカル

 

「亀田総合病院に赴任して間もない頃、あるカンファレンスで『もしも自分があと半年の命と言われたらどんな最期を迎えたいか』という問いが話題になり、自分自身が最期の過ごし方について真剣に考えた経験がなかったことに気が付いた。それが『もしバナゲーム』と出会うきっかけにつながった」。こう話すのは、亀田総合病院疼痛緩和ケア科医長でInstitute of Advance Care Planning(iACP)共同代表の蔵本浩一氏だ。

 

Institute of Advance Care Planning(iACP)共同代表の蔵本浩一氏と原澤慶太郎氏

Institute of Advance Care Planning(iACP)共同代表の蔵本浩一氏と原澤慶太郎氏

 

「もしバナゲーム」とは、「もしも余命があと半年~1年だとしたら」という想定で、そのときに自分がどんなことを大切にしたいかをカードの中から選び、それを人と話し合うためのもの。米国のCoda Allianceが終末期医療における医師・患者のコミュニケーション・ツールとして作成した「Go Wish game」を日本語に翻訳したものだ。Go Wish gameとの違いは、4人一組のルールを付け加えた点。最期について他人と話し合うことで、お互いの価値観の違いを知ったり、自分の新たな一面を発見するきっかけになる。

 

「患者の思いを受け止め、寄り添い、ともに歩む関係を築く上では、医療者自身が自らの価値観を知っておく必要がある。誰かの支えになりたいという思いが強い人ほど、自分自身のことは考えたことがなかったりもする。まずは“縁起でもない話”の敷居を下げ、誰もが自らの価値観と向き合える機会を創りたいと考えた」と話すのは同病院在宅医療部医長の原澤慶太郎氏(iACP共同代表)だ。

 

日常診療を行う中で、残された時間をどのように過ごしたいのか、どのような最期を迎えたいかという患者の思いを尊重したい気持ちが強い一方で、それらを理解し、支える治療・ケアを組み立てるには、「時間が極めて限られていることが多い」と原澤氏。

 

「元気なときから死を前向きかつ気軽に捉えることは難しい。でも何かきっかけがあれば、自身の思いや考えを共有しやすくなり、理想に近い形での最期を迎えるために、周囲の人を巻き込みやすい環境を作れるのではないか」と原澤氏は言う。

 

誰が何を選ぶかが面白い

「もしバナゲーム」は、36枚のカードを使って行う。カードには、「痛みがない」「不安がない」「信頼できる主治医がいる」「家族の負担にならない」など、重篤な疾患を発症した患者や死の間際に人が「大事なこと」として口にするフレーズが記載されている。使い方はいくつかあるが、日本での使い方として、蔵本氏、原澤氏が勧めるのは4人でプレーするスタイルだ。 

 

 

4人でゲームを行うときには、まず各プレーヤーにカードを5枚ずつランダムに配り、残ったカードから5枚のカードを中央に表を向けて置く。自分のカードの中から優先順位の低いものを選んで捨て、代わりに中央のカードから1枚、手札に入れる。

 

「やっぱり清潔なのは外せないですよね」「えっ! それを捨ててこれを選ぶんですか」「呼吸が苦しいのはつらいですよ・・・」などと声を掛け合いながら進めていく。「誰がどのカードを捨て、何を拾うのか、そんなプロセスを共有できるのもこのゲームの面白いところ」と原澤氏。 

 

全員が交換するカードがなくなったら、山から新たに5枚のカードを場に開いて、再度各プレーヤーが順にカードを交換していく。全員が一通りカードを交換し終えて、新たに場に開くカードがなくなったとき、それぞれのプレーヤーの手元には、自身が選りすぐった5枚のカードが揃っていることになる。

 

 

最終的に手元に残ったこの5枚のカードに、さらに優先順位をつけ、捨てても良いと思う2枚のカードを選ぶ。そして、自分が選んだカードについて、選んだ理由を一緒にゲームをするプレーヤーに説明する――という流れだ。 

 

似た意味合いのフレーズが書かれたカードはあるが、同じカードはない。そのため、必ず持っておきたいと思う選択肢(カード)があっても、誰かがそのカードを持ち続けていれば、手に入らない。「実際に死を目の当たりにしたとき、必ずしも多くの選択肢があるとは限らない。たまたま巡ってきた手元のカードの中で優先順位を付けることも重要になる。ゲームを通じて、限られた選択肢のなかで判断をし、状況に合わせて折り合いをつける、その難しさを体験してもらえるのではないか」と原澤氏は説明する。 

 

 

「例えば、呼吸困難を訴える患者さんを診た後にこのゲームをすれば、『呼吸が苦しくない』というカードを選びたくなる――といったように、その時々によって人の感じ方は変わる。繰り返しゲームをすれば自分の感じ方の変化や、変わらない部分にも気づける。同時に自分と他人では優先順位が大きく異なることも分かる」と蔵本氏は話す。

 

また、カードには「ユーモアを持ち続ける」「誰かの役に立つ」などあえて抽象的なフレーズが記載されている。「1枚のカードでも、人によって受け止め方が異なる。余命半年という設定でどのようにそのカードを捉え、なぜ選んだかといった話から、死や最期の過ごし方を通り越して今の自分自身の価値観を考え、共有するきっかけにもなる」(蔵本氏)。 

 

気軽に「縁起でもない話」をするきっかけに

最期の過ごし方を考えようとすると、つい重い空気になってしまいがちだ。だが、「もしバナゲーム」は「気軽にやってみるという姿勢が重要なゲーム。医療者が率先して治療方針の話し合いや意思決定の場にこれを持ち込んで使うことは現時点では想定していない。あくまでも考えるためのきっかけ作りの一つ。まずは医療者がこのゲームを通して自身の価値観を考えたり、それが変化することを体感してみてほしい」と蔵本氏は言う。

 

「『もしバナゲーム』をレクリエーションとして広め、“縁起でもない話”を気軽に話す機会を増やしたいと考えている。とくに医療者はこのゲームをすることで、あらためて価値観の多様性が体感できるだろう。その体験は、患者さん・家族と接する際の気配り・配慮に大きく関わってくるはずだ」と原澤氏。蔵本氏も「相手との価値観の違いを知ることで、目の前の患者・家族がどのように考えているのか、なぜそう考えるのかに興味が湧いてくる。言葉の裏側にある思いの存在に気づき、それを一緒に探すことが医療者としてのアドバンス・ケア・プランニングの関わり方にもつながる」と言う。

 

その上で、「現状では病をきっかけに最期の過ごし方について話し始めるのが一般的だが、もっと人生の早い段階から当たり前に話し合える環境作りをしていきたい」と蔵本氏は展望を語る。

 

iACPでは、「もしバナゲーム」を活用したワークショップを開催しており、元気なうちに最期の過ごし方を考えるきっかけ作りの方法をレクチャーしたり、そのワークショップをきっかけに、地域のつながりを作るコミュニティマネジメントのサポートなどを行っている。

 

「元気なうちから当たり前のように“縁起でもない話”を語り合うことができる社会になれば、それぞれの人が自らの価値観と向き合い、他者との違いを知った上で他者に配慮ができるようになる。そうなれば、いざ最期のときが迫っても、患者本人や家族、それを支える医療者のふるまいが今とは少し違ってくるのではないか」と原澤氏は語っている。

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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