訪問看護師(後編)|病院外の看護現場探訪【2】

-前編-

病棟で9年経験を積んだ後に、訪問看護の道を進んだ伊藤誠子さん(仮名)。

「ご利用者との距離の近さ」という魅力がある一方で、病院以上にご利用者にケアの必要性をしっかり伝える必要があるといいます。

ご利用者にも納得いただきながら必要なケアを提供するために、どんな工夫をしているのでしょうか。

 

知識の裏付けがあるからこそ、利用者さんと1対1で向き合える

医師や看護師がチームでケアにあたる病院とは異なり、利用者さんと1対1でじっくりと向き合う訪問看護。それだけに看護師の責任もかなり大きいものです。

責任に伴う不安を解消するために、伊藤さんは勤務外の時間を活用して看護関連の勉強会やセミナーへ積極的に参加しています。病院勤務時代に呼吸器内科に在籍していたこともあり、そのときに身につけた看護知識をさらに伸ばそうと、呼吸リハビリテーションや誤嚥予防に関するセミナーに参加することが特に多いとか。そのほか、皮膚創傷ケアにも関心を持っているそうです。

「利用者さんの中にはどうしても褥瘡ができてしまう方もいらっしゃるんです。初期症状の段階でアセスメントできれば悪化を防げますし、皮膚創傷ケアには新たな方法が次々に出てきますから、常に最新の知識を得るように心がけています。皮膚創傷の医療製品にはすぐれたものが次々に出てきているので、そうした知識があれば、利用者さんに最もフィットするものを主治医やケアマネージャーに提案することができます」

日進月歩する医療・看護の「今」と幅広い知識を身につける努力を惜しまない伊藤さん。こうした積み重ねがあるからこそ、自信を持って利用者さんのケアにあたれるのです。

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その日の仕事が終わると、パソコンで記録を入力します

 

利用者さんやそのご家族とともに、喜びを分かち合える訪問看護

伊藤さんが訪問看護の道へ進むきっかけとなったのは、退院後、在宅で治療を続ける患者さんのご家族の存在でした。

「呼吸器内科に勤務しているとき、退院後も人工呼吸器が必要な患者さんがいらっしゃったんです。その中に、症状が悪化したわけではないのに、再入院される方がいました。お話を伺ってみると、患者さんご本人の検査とご家族の休息を兼ねて入院されるというケースがありまして……。介護にあたるご家族が、疲れてしまったそうなんです。私たち看護師でさえ人工呼吸器のアラームが鳴ると思わず緊張してしまうほどなのに、介護されるご家族は、きっと1日中気持ちが張りつめていたのでしょうね」

そうした事実に直面した伊藤さんは、在宅治療中の患者さんはもちろん、患者さんを支えるご家族のために、看護師としてできることがないだろうかと思うようになりました。そうして選んだのが、訪問看護の道でした。

訪問看護の仕事を通じ、伊藤さんが最も感動する瞬間は、利用者さんとご家族の「力」を感じるときとのこと。

「入院中は体があまり動かなかったり、お話ができなかった利用者さんが、在宅治療を続けるうちにだんだんADLが上がって、表情もやわらかくなっていくんです。自宅は利用者さんにとって、いちばんリラックスできる場所。きっと安心するのでしょうね。場所が身体に与える影響は、本当に大きいのだと感じます。それからなんといっても、ご家族の力は偉大ですね。ご家族の日々のケアと、私たち看護師のケアが実を結び、利用者さんの状態がだんだん良くなっていく。その過程を共に感じることができるのは大きな喜びです」

そうした喜びが生まれるのは、訪問看護師と利用者さん、ご家族との信頼関係があってこそのことです。病院に勤務していたときに比べると、気軽に相談をしてくれたり、「こうしたい」と希望を言ってくれることが多いそうです。

 

訪問看護の道を志す方へのメッセージ

近年、急性期を経た患者さんの在宅移行が推進されています。しかし、高度医療機器による治療を継続しなければならないなど、ご本人やご家族の負担が大きいという課題があることから、訪問看護へのニーズは急激に高まっています。

「ケアの現場では、自分一人で判断しなければならないこともあります。訪問看護師を目指すなら、多様な症状を持つ利用者さんに対応するために、ぜひ複数の診療科目で経験を積んで幅広い知識を身につけてほしいですね。実際、私は病院勤務時代、訪問看護師になろうと考えるようになってから異動の希望を出して複数の診療科目に勤務したんですよ。単科病院や福祉施設に勤務している方なら、現在携わっている専門以外の勉強会やセミナーに参加するのもいいですね。また、この仕事に就いてからも自ら進んで学ぼうという心がまえを持っていてほしいですね。知識を深めることで自信を持ってケアにあたることができますから」

 

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「これまで身につけてきた看護師としての知識をフルに活用し、人と密に関わる訪問看護。とてもやりがいのある仕事ですよ!」と伊藤さん


 

もう一つ、訪問看護師にとって欠かせないものがあります。それは、利用者さんとのコミュニケーションを大切にする気持ちです。ひとりひとりと密に関わる訪問看護では、「人」との接し方がひときわ重要になります。

「はじめはなかなか話してくれなかった方でも、たくさんお話をしてこちらから歩み寄ることで、少しずつ心を開いてくれたり、お互いに分かり合えるようになります。こうしたことはケアにも生かされますし、病院以上に『その人らしさ』を尊重したケアができます。『人』と接することが好きだったり、もっとコミュニケーションを重視したケアをしたい方に訪問看護の仕事をおすすめしたいですね」

病院や施設など、看護師が活躍できる場は多岐にわたりますが、その中心にいるのは常に「人」。人と密に関わる訪問看護の仕事は、数ある看護分野の中でも医療の原点といえるのではないでしょうか。

【看護roo!編集部】 

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