船上の看護師―シップナースの仕事―(前編)| 病院外の看護現場探訪【3】

医療機関以外で働く看護師さんのお仕事の様子を紹介する「病院外の看護現場探訪」シリーズ。

3回目となる今回は豪華客船。

 

映画『タイタニック』を思い出させる豪華客船で、乗客やクルー(乗組員)の健康管理をサポートする看護師さんです。シップナースと呼ばれることもありますね。

 

「世界中に行けるだけでなく、仕事の内容も病院勤務では経験できないことばかり」だそうです。

いったいどんな仕事なのでしょう?

 

 看護師専用Webマガジン ステキナース研究所 | シップナースのお仕事ってどういう感じ? |  病院外の看護現場探訪【3】

次のクルーズのために横浜港大さんに停泊中の「ぱしふぃっく びいなす」(撮影:武田賢士朗)

 

きっかけはちょっとした好奇心

「誰にでもチャンスがある仕事ではないですし、貴重な経験をさせてもらっていると思います。やりがいも大きいです」と語るのは、日本クルーズ客船株式会社が運航する客船「ぱしふぃっく びいなす」に看護師として乗船する矢野川准子さん。

 

矢野川さんがこう語るのも当然で、日本国内でクルーズ客船を運航しているのはたったの3社。

しかも各社の看護師は2~3名しかいません。

 

矢野川さんは看護師資格を取得後、総合病院の整形外科に3年勤務しました。しかし、時間に追われる生活で体調を崩してしまいます。

治療のためだけでなく、自分の考えていた看護師の仕事とのギャップを感じたこともあり、一度看護師を辞め、その後は事務職や営業職などの仕事に就いていました。

 

しかし、約2年間、さまざまな仕事を経験してみて、どの仕事も結局時間に追われることがわかり、また、他職種を経験したことで「やはり自分は看護師の仕事が好きだし、向いている」と改めて気づいたそうです。

 

「そんな時、事務の仕事をしていた職場の同僚から、『知り合いに豪華客船で看護師をしている人がいる』と聞いて、おもしろそうだし自分もやってみたいと思ったのです」

 

すぐに船会社を調べ、自分から「看護師を募集していませんか?」と現在所属する日本クルーズ客船にアプローチ。すると、「まもなく欠員が出ます」と言われ、すぐに面接。正社員として採用となりました。

 

それから18年間、「ぱしふぃっく びいなす」の看護師として、1年の3分の2はクルーズに出ているという生活が続いています。

 

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海賊対策の自衛艦に護衛され、ソマリア沖航海中の矢野川さん。世界の海をまたにかける看護師ならではの一枚

 

初めての症状は数知れず。勉強は常に必要

「ぱしふぃっく びいなす」には毎回、クルー(乗組員)約220名と旅を楽しむ乗客を合わせて、500~800人が乗船します。このすべての健康管理を医師と矢野川さんの2人で担当しています。会社には2名の看護師がおり、数カ月に及ぶ長期のクルーズには2名とも乗船し、医師と合わせて3名体制で対応します。

 

また、薬剤師がいないため、薬の管理も看護師が1人で行います。その他にも矢野川さんは、入社後に衛生管理者の資格も取得し、船舶衛生管理者も任されています。このため、各国の港に入る際は検疫への立ち会いや、水質検査や害虫駆除などにも対応しています。

 

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矢野川さんの仕事場である船内の医務室。棚やデスク、ベッドなどは揺れに備えてすべて固定されている

 

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「基本は1日8時間の勤務ですが、具合が悪い方がいれば、何時でも対応しなければいけません。常に船内用のPHSを携帯して、1コールで出るようにしています。短いクルーズでは全く患者さんがいないこともありますが、長期のクルーズになると1日5~10人、多い日で40人近くを診ることもあります。一番多いのはやっぱり船酔いですね。天候が悪くて揺れがひどいと、本当にたくさんの方が医務室にいらっしゃいます」

 

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船内では常にPHSを携帯し、いつでも対応できるようにしている

 

ちなみに18年乗船している矢野川さんでも、揺れ方によってはいまだに船酔いするそう。しかし、患者さんに対面するとスイッチが入り、気持ち悪い事も忘れてしまうと言います。

 

基本的には旅ができる健康な方が乗船していますが、長期のクルーズで風邪が流行し、20人近くが同時にかかったこともあったそうです。夏休みや春休み期間など、家族旅行が多い時期などは、小さな子どもがケガをすることがあるなど、クルーズの期間や時期によって状況が変わります。

 

「高齢のお客様も多く、持病の薬を忘れてきたため具合が悪くなる方もいらっしゃいます。とにかく、あらゆる症状に対応しなければいけないのが、病院との一番の違いですね。看護学校の教科書でしか見たことがない症状も多く、これまで初めての症状に対応したことは数知れません。本を見ながら対応することもありますし、常に勉強が必要な状況ですね」

 

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救命講習の様子。クルー全員で乗客の安全対策を行う

 

医師と力を合わせ、あらゆる症状に対応

病院勤務との大きな違いは他にもあり、1つは医師との関係です。「ぱしふぃっく びいなす」には、大学病院の泌尿器科に長年勤務していた70代のベテラン医師が乗船しています。

 

「病院勤務の時は先生に意見をすることなんてありませんでしたが、ここでは2人が力を合わせて対応しなければ、乗り切れないことがたくさんあります。指示待ちではダメですし、思ったことはどんどん言います。先生も私に意見を求めてくれますし、実際に聴診器を持って一緒に患者さんを診させていただいたり、勉強のためにいろいろなことを教えてくださいます。先生自身も一般医の資格を取り直したそうです」

 

そして、もう1つの大きな違いが設備です。船内には医務室、病室がありますが、最低限の設備しかありません。

 

「レントゲンやエコーなど、病院では当たり前の設備がないため、症状から判断しなければいけないことが多いです。ここでできる対応は、二次救急の初期までです」

 

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医務室の隣には病室も完備

 

緊急の対応が必要になることもありますが、そこは海の上。すぐに病院に搬送できるわけではありません。そんな時はいったいどうするのか?

 

次回は緊急時の対応や仕事のやりがいについて伺います。

 

船上の看護師後編はこちら

 

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