チームでチェック!吸入手技のミスは防げる|吸入療法の失敗はこう防ぐ《3》
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チームでチェック!吸入手技のミスは防げる
「20円から60円の負担増について患者から同意を得るという一手間を掛けるだけで、ここまで吸入療法のレベルを向上させられるとは思わなかった」──。
「薬局薬剤師という地域のリソースを活用しない手はない」と指摘する大阪赤十字病院の吉村千恵氏。
大阪赤十字病院(大阪市天王寺区)呼吸器内科副部長の吉村千恵氏は、薬局薬剤師との連携の成果に満足げだ。喘息・COPD患者の救急受診が減少傾向にあり、手応えを感じている。
(加藤勇治=日経メディカル)
吸入療法を成功させるためには、まず医療者が吸入デバイスの操作方法を理解し、正しい手技を患者に指導することが重要だ。しかし、診察時に指導するだけでは、患者の理解はなかなか進まない。そこで注目されるのが薬局薬剤師との連携。重ねて吸入指導を行うことで、患者の習熟度が上がると期待されるからだ。
大阪赤十字病院では、院内処方時代には薬剤部が吸入指導をしていたが、2004年から院外処方になったため、処方箋とともに薬局薬剤師への吸入指導依頼書を患者に持たせるようにした。しかし、再診患者や症状増悪による入院患者を見ていると、誤った手技を身に着けたケースが増えていることに気が付いた。
対策が必要と感じた吉村氏は、薬局薬剤師向けの講演依頼を受けた機会に乗じて、薬剤師の吸入指導に対する意識を調査した。患者が吸入をうまくできない場合や、治療の強化が必要と考えられる場合にどうするかという問いに、「直接医師に伝える」と回答したのは60人に1人だけ。患者に疑問があっても、「次の診察時に先生に相談して」という程度のアドバイスしかしていなかった。
「そんなに医師に物申すことは難しいのかと実感した」と吉村氏は明かす。病名も知らされずに薬の説明をしなければならないことも、薬局薬剤師が説明に自信が持てない理由になっていた。一方で患者は、医師には決して言わないことを薬剤師には話していることも聞いた。
医師が同意得て薬剤師が指導
そこで吉村氏が着目したのが服薬情報提供書だ。薬局が患者の同意を得て服薬に関する状況を処方医に伝えるもので、20点の調剤報酬が得られる。これを使えば、薬局薬剤師による吸入指導や2回目以降の手技の確認、患者が医師に言わないような残薬の状況や疑問・不満を聞き出してもらえると期待した。
しかし、薬局が患者から同意を得るのは難しいという声を聞いた。そこで吉村氏は、診察時に自分が患者から同意を取得しておくことを思いついた。「医師ならば患者に言いやすい。そんなことで済むならばと、我々が一手間掛けようと思った」と振り返る。
さらに、薬剤師が簡便に情報提供書をまとめられるように、医師が絶対に欲しい情報に絞り込み、丸を付けるだけの書式を考案し、処方箋とともに患者に持たせるようにした(図1)。
図1 大阪赤十字病院が導入した服薬情報提供書(提供:吉村氏)
薬局が患者に吸入指導や服薬状況の確認をした後、ファクスで大阪赤十字病院に送付する仕組みだ。病院の収入にはならないが、連携を推進するために施設公認になった。
前橋赤十字病院の堀江氏らも、薬局薬剤師との連携を進めるため、薬局と情報のやり取りを行う体制を整えた(図2)。
図2 吸入連携プロセスフロー(堀江氏による)
薬局との連携が軌道に乗った結果、患者の手技への理解が進み、増悪して救急外来を受診する回数が有意に減少したことも確認(図3)。連携によって「90歳を超えるような高齢者であっても2つ、3つの吸入デバイスを同時に使いこなせるぐらいに習熟できる」と効果を強調する。
図3 吸入指導連携システム利用の効果
2011年5月から2014年4月に前橋赤十字病院呼吸器内科外来に通院している喘息・COPD患者で、吸入薬を使用して在宅酸素療法実施中の患者30人を対象に、増悪による救急外来受診回数を評価した。(出典:小野里譲司、堀江健夫、土橋邦生2014;第24回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会抄録:p135)
さらに堀江氏らは、訪問看護師との連携にも積極的だ。「高齢患者の家を訪れた看護師が繰り返し指導をしてくれた結果、無理だと思っていた患者も吸入ができるようになっている」。
こうした連携の今後の課題は、医療者の吸入療法に関する知識の標準化だ。東濃中央クリニックの大林氏は、「同じ用語、同じ内容で指導しなければ患者は混乱する。だからこそ全ての医療者が同じ知識を持ち合わせる必要がある」と指摘する。
近年、全国各地で薬剤師を対象とした吸入療法に関する講演会が開催されるようになってきた。その結果、「患者が症状改善を喜んで語ってくれて、自らの指導の成果を実感する薬剤師が増えている」(堀江氏)。簡単なようでいて難しいのが吸入療法。チーム一丸となった、失敗させない吸入指導が欠かせない。
大阪赤十字病院では患者を紹介する際に、どの診療所をかかりつけ医としたいか、患者に希望を聞く仕組みを導入した。事務職員が、患者が希望する地域のかかりつけ医をリストアップ。患者が医師を決めると、事務職員が電話で引き受けられるか確認した後、紹介する。
吉村氏は、「喘息治療の成功には患者の前向きな姿勢が必須。希望する医師の診察を受けるのが一番だ」と語る。患者の希望により、脳神経外科や皮膚科に紹介したケースもあるという。
(提供:大阪赤十字病院)
<掲載元>
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