夜勤要件の大幅見直しで、看護師は本当に楽になるのか?|2016診療報酬改定【3】
診療報酬改定って、看護師にはカンケイないと思っていませんか?
「実は現場に直結していますよ~」という部分をわかりやすく解説します。
診療報酬改定はナースにどう影響するか【3】
夜勤要件の大幅見直しで、看護師は本当に楽になるのか?
あなたは月に何回夜勤をしていますか?
2016年の診療報酬改定では、「医療従事者の負担軽減等の推進」が掲げられ、「ナースの夜勤」について、要件が大幅に改定されました。
しかし変更の影響で、逆に夜勤が増える可能性も考えられます。
ナースの夜勤への影響として考えられることは、以下の3つです。
詳しくみていきましょう!
◆目次
【影響1】「回復期」「慢性期」の病棟で夜勤が増えるかも…!?
病院が、「入院基本料」を国に請求するためには、看護師の月平均夜勤時間が「72時間以下であること」というルール(通称「72時間ルール」)を守らなければなりません。
看護師の労働環境にとって生命線といえるこの「72時間ルールの計算方法」が、今回の改定で変更となりました。
「看護職員の月平均夜勤時間数に係る要件等の見直しと評価(PDF)より作成
1.「回復期」「慢性期」の病棟では、「月8時間の夜勤」で夜勤要員にカウント
今回の改定で、「7対1、10対1」の病棟(急性期病棟)では変更なし、「それ以外」の病棟では変更、という結果になりました。
「それ以外」の病棟とは、13対1、15対1、18対1、20対1の看護配置を行っているいわゆる「回復期」や「慢性期」の病棟です。
これらの病棟では、月当たりの夜勤時間が「8時間未満の者は72時間ルールに含まない」という変更になっています。
言い換えれば、「月に8時間夜勤をしていれば、夜勤要員として届け出られる」ことになりました。
これは、実は「回復期」「慢性期」の病棟ナースの勤務体系に大きな変化をもたらします。
2.そもそも「72時間ルール」の計算方法って?
そもそも平均夜勤時間が「72時間以下」という数字は、どのように求めるのでしょうか?
すべての病棟で共通して、以下の計算式で求めることになっています。
これまで、分母の人数として計算に含めるためには、「月16時間以上」夜勤をしていることが条件でした。
しかし今回の改定で、「回復期」「慢性期」の病棟では、「月8時間以上」の夜勤で計算式に含めることができるようになります。
「短時間勤務の看護師でも、夜勤要員として含めることができていいじゃん!」と思えるのですが…、
実は、これまでよりも夜勤が増える可能性があるのです。
3.「回復期」「慢性期」の病棟では、夜勤が増えるかも…!?
夜勤が増える理由について、(少し極端ですが)わかりやすい具体例で示していきたいと思います。
【図1】これまで:
10人が月に72時間ずつ、平等に夜勤をしていました。
【図2】改定後(1):人数は同じで、1人あたりの担当時間が変わる場合
月に1回、8時間の夜勤に入れる看護師が2人いたので、その人を夜勤要員に含めました。
その結果、これまで月に72時間夜勤をしていた看護師に、別の病棟に異動してもらうことにしました。
★考えられる変化(デメリット)
1)月に1回、8時間の夜勤に入れる看護師(2名)以外の看護師8名の夜勤時間が増える!
2) 8人のひと月の夜勤時間が、72時間→88時間に増える!〔(720-16)÷8=88〕
以前よりもそれぞれのナースが勤務する夜勤時間数に偏りが出ても入院基本料を算定できることになりました。
その結果、特定の看護師の夜勤が増える可能性があります。
しかし、図3のような配置の変更であれば、メリットが出ることも考えられます。
【図3】改定後(2):人数が増える場合
月に1回、8時間の夜勤に入れる看護師が2人いたので、その人を夜勤要員に含めることができるようになりました。
その結果、今までの720時間を12人で分担できるようになりました。
★考えられるメリット
1)夜勤時間が短縮する
増員された2名が、16時間の夜勤をしてくれるので、残りの10人の夜勤時間が減少する!
2)シフトに余裕が出る
分母が12、分子が720となり、平均夜勤時間は60時間で申請できる。
そのため、師長は余裕をもってシフトを組むことができる!
3)病院の収入源が安定する
分母だけが増えれば、72時間ルールをクリアしやすくなり、病院の収入源が安定する!
4)短時間勤務を希望する看護師の雇用の促進
子育てや介護などで、短時間勤務を希望する看護師の雇用が促進される!
4.実際、どちらになるのかは勤務先次第
今回の改定の結果、【図2】と【図3】のどちらになるのか、実際には「予想がつかない問題」として、改定前の議論に挙がっていました。
しかし、議論の際に挙げられたデータでは、現在すでに夜勤の実施時間は一部の看護師に偏っていることが示されています。
【図4】看護職員の月夜勤時間数の分布
(出典)「2015年一般病棟における看護配置等に関する調査(速報)」PDF(日本看護協会)
※80時間を超える夜勤をしている人と、64時間以下の夜勤をしている人に2極化していることがわかる。
今回の改定で、【図3】のように、夜勤時間の格差がますます開く可能性もありますので、勤務先の方針に注意が必要です。
【影響2】「看護補助者」加算が新設されても、負担は軽減しないかも…!?
ともすると看護師の労働環境が悪化しかねない改定のためか、「夜間の看護補助者」の配置について、加算が新設されました。
しかしいずれも、手厚いとは言いがたい内容になっています。
なぜなら、報酬が小額であり、算定のための要件も厳しいものとなっているからです。
そのため、病院の経営戦略として、これらの加算をとるために「看護補助者」を追加で採用するかどうかは、疑問が残ります。
つまり、これらの加算の新設で、看護師の夜勤時間が短縮されたり、負担が減るとは明言できない状態です。
1.〔新設1〕夜間75対1看護補助者加算
「13対1」の病棟においては、「看護補助者」の夜間配置を評価する項目が新設されました。
入院した日から起算して20日まで、1日につき300円加算がとれるという項目です。
2.〔新設2〕夜間看護体制加算
「13対1、15対1、18対1、20対1」の病棟においては、看護補助者の夜間配置など、看護師の夜勤負担軽減のための取り組みを評価する項目が新設されました。
入院初日に1,500円の加算という項目ですが、「看護補助者」を夜勤時間帯に配置していること以外に、以下の中から4つ以上の項目を満たしている場合にのみ、算定できます。
1.1つの勤務の終了時から、次の勤務の開始までの時間が、11時間以上
2.3交代制勤務の病棟において、勤務開始が前回勤務より遅い時刻(正循環)となる勤務編成(シフト)である
3.夜勤の連続回数は2回まで
4.所属部署以外の部署を一時的に支援するために、夜間を含めた各部署の業務量を把握し調整するシステムができており、かつ部署間での業務標準化をはかり過去1年間に当該システムを夜間に運用した実績がある
5.看護補助業務の基礎知識を習得できる内容を含む院内研修を年1回以上受講している、かつ看護補助業務のうち5割以上が療養生活上の世話である
6.みなし看護補助者を除いた看護補助者の比率が5割以上である
7.夜勤時間帯を含む院内保育所を設置している
※なお、これらの項目は、「看護職員夜間配置加算」「急性期看護補助体制加算」「看護補助加算」の算定要件にも含まれています。
そのため、これらを満たすことで、そのほかの加算もとりやすくなります。
【影響3】「すべての病棟で」夜勤が増えるかも…!?
月平均夜勤時間が72時間を超えた場合のペナルティ(減算)の金額が、少なく変更されました。
つまり、看護師が平均して72時間以上の夜勤を行っていたとしても、病院の収入への影響が少なくなったのです。
これは、「回復期」「慢性期」だけでなく、「高度急性期」「急性期」(7対1、10対1)も含め、すべての病棟に共通する内容です。
また、「夜勤時間特別入院基本料」は、月平均夜勤時間が72時間を超えた場合でも、そのほかの施設基準を満たしていれば、通常の入院基本料の7割を算定するという項目です。
この2点から、1人あたりの看護師の夜勤時間が増えても病院の収入は確保される方向といえます。
つまり、どの種類の病棟であっても、看護師の夜勤時間は増える可能性があります。
【背景】夜勤がますます厳しくなる原因は、少子高齢化
回復期・慢性期では、【影響1】でみたように、特定の看護師の夜勤が増える可能性があります。
また、【影響2】でみたように、看護師の負担を軽減するための「看護補助者」の配置については、報酬が手厚いとはいえません。
そして、【影響3】でみたように、すべての病棟で共通して、ナースの夜勤時間が病院の収入に与える影響は少なくなりました。
そのため、勤務先によっては、夜勤がますます増えると予想されます。
ナースの夜勤については、労働環境の悪さが長らく叫ばれてきたのに、なぜこのような改定になったのでしょうか。
その原因はズバリ、少子高齢化です。
今後ますます医療や介護が必要な高齢者が増えるのに、ナースなど、医療の担い手である若者は減る一方です。
そのため、「看護師が足りない」という理由で病院の収入が劇的に減ってしまうことがないように、調整されていると思われます。
また、今後ますます不足する看護師を「どこに配置するのか」というのも、国を挙げた大問題です。
「7対1」「10対1」など、急性期で重症度の高い患者を受け入れる病棟に、より多くの看護師を配置したい狙いがあります。
(くわしくは「2016診療報酬の全体像」)
そのため、「回復期」「慢性期」のみ「72時間ルール」が改定され、より厳しい改定となりました。
また、看護師より「看護補助者」によって夜勤が充足する方向に、動かされています。
【おわりに】労働環境改善が改善するかどうかは勤務先の方針次第
【影響1】に挙げた夜勤の看護師人数を増やすか減らすかも、【影響2】に挙げた「看護補助者」をどのくらい採用するかも、各病院に委ねられることになります。
そして、【影響3】に挙げたように、看護師の夜勤が多くても、減算は少なく改定されています。
勤務先の方針次第で、ナースの夜勤環境は、大きく影響を受けそうです。
(参考)
平成28年2月10日 中央社会保険医療協議会が厚生労働大臣に対して答申(厚生労働省)
平成26年度診療報酬改定について(厚生労働省)
メディ・ウォッチ―データが拓く新時代医療(Global Health Consulting)
ニュース・医療維新(m3.com)
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