患者様が亡くなったときに泣くのは「私」か「看護師」か

こんにちは、依里楓です。水商売を卒業して、看護師になって9ヶ月が経ちました。

 

多くの看護師が経験する患者様の死の場面。看護師として不用意に傷付かないべきなのか、それとも人間らしく悲しんで良いのか、どっちつかずな気持ちを抱えて仕事に励んでおります。今回はそんな中で、特に印象に残った経験について書かせていただければと思います。

 

元キャバ嬢ナースのとある視点

Vol.5 患者様が亡くなったときに泣くのは「私」か「看護師」か

 

ステルベンの悲しみと無力感の間で

先日、入職当初から関わっていた患者様が、退院直前に敗血症で急変しました。

ちょうど急変の日に受け持っていたのが私で、どんどん下がる血圧心拍数、次々飛んでくる主治医からの指示に必死で走り回って、夜遅くに帰宅して、呆然としてよく分からないままに泣き出していました。

長期入院していて、ずっと「はやく帰りたい」と話していた患者様が、ようやく帰れると喜んでいた矢先の出来事でした。

 

結局翌日その患者様は亡くなり、思い入れが強かったせいか私は仕事中こそ気を張って耐えていたものの、休日に友達と会っている時も家にいる時も、急変の場面やその患者様との過去の会話がぐるぐると頭の中を回っていました。食欲低下が著しく、1週間で2kg痩せました。

 

入職何ヶ月の立場とはいえ、退院までの計画を先輩方と患者様と、そして御家族と話すことはとても楽しかった。順調に行くはずで、希望があった。それがどうして。私が何か見逃していたのか、どうしてこんなことになったのか、泣いている御家族とあの時どんな顔で話せば良かったのか、御家族はいつまで悲しみに暮れる日々が続いていくのか、もっと何かできることがあったのではないか。

 

入職直後で右も左もわからずに点滴1本繋げるのにも苦戦している私を何かと気にかけてくださっていた、信頼関係を築けたと思えた初めての患者様が亡くなることは、私にとっては「看護師が患者の急変に立ち会った」という記号的な立場以上に「ひとりの人間がひとりの人間の死の間際に立ち会った」という意味合いになっていましたし、その経験は良くも悪くも私にとって強く印象に残る経験となりました。

 

看護師らしくも人間らしく患者と向き合うこととは

看護師は感情労働だと大学で教わりました。だからこそ職業人として患者様と関わり、良い距離感を取ることが大切だとも。

 

それでもやっぱり看護師である前に私は私であって、仕事中だからと別の人間になんてなれなくて。

誰だってそうだと思うのです。先輩方だって強烈な個性を発揮しながら看護しているし、全ての看護師に「仕事中の人格」ができてしまったらそんなの単なるアンドロイド集団になってしまう。にも関わらず、患者様と人間らしく関わりながら相手の気持ちに寄り添いながらも、自分が飲み込まれないしなやかさを身に着ける方法なんてとてつもなく難しいのに誰も教えてくれない。

 

別の病院で働く看護師4年目の先輩は、「慣れてくるよ、また死んだかーくらいになってくるよ」と言っていました。それでも私自身は、採血や褥瘡ケアをルーティンでできるようになることと他人の死に慣れることは同等では無く、同等であってはいけないように感じます。

 

患者の死の体験をどんな風に乗り越えるのか

バーンアウトする看護師の人数は、医師の2倍だという研究があります。看護師のバーンアウトの要因のひとつや、新人看護師のリアリティショックの原因にも「患者の死体験」が入っています。そんな危うい状況の中で、ただただ経験を受け容れようと感情を無くすことは、看護師の人間的な部分に何らかの形で歪みをもたらしてしまうように思えてなりません。

 

看護師自身のグリーフケアの必要性を指摘した研究もある中、実際の臨床の中で患者の死が「慣れるしかないこと」のひとつになっているのは、看護師が患者の死と向き合うための有効な手段がまだ見つかっていないからなのでしょう。

 

患者様とできる限りの距離を置いて、最低限必要な業務だけを淡々とこなす方がずっとずっと楽なのは知っています。自分の努力や受けた傷が別の何かに役立つのかどうかも分かりません。しかし、人と接する楽しさや信頼関係を築くやりがいを仕事として選んでしまったのは私自身なのです。だからこそ、看護の現場でしかできない素敵な経験を自分の中で膨らませながら、感情を持っていかれそうな自分をどうにかなだめながらでも、「この仕事をしていて良かった」と心から感じることのできる日に期待を持ち続けていたいと感じています。

 

【著者】依里楓

東京から2時間くらいの場所にある総合病院の内科系病棟で働く看護師。水商売をしていました。

ブログ:プロセスレコード

 

(参考文献)

糸嶺一郎(2013).新卒看護師のリアリティショックに関する研究の動向と課題~過去20年の文献から~.茨城県立医療大学紀要,18,1-13.

小林珠美(2013).エンド・オブ・ライフ・ケアにおける看護師が体験する悲嘆に関する研究.日本死の臨床研究会研究助成報告書.

本村良美,八代利香(2010).看護師のバーンアウトに関連する要因.日職災医誌,58(3),120─127.

日本死の臨床研究会

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