術後、身体を動かすと腸蠕動の回復に効果があるというのは本当?|早期離床
『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「腸蠕動の回復」に関するQ&Aです。
飯山由貴
大阪市立総合医療センター看護部
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長
身体を動かすと腸蠕動の回復に効果があるというのは本当?
エビデンスは不十分ですが、一般的には効果があるとされています。
〈目次〉
腸蠕動は血流とともに活発になる
腸を機械的刺激で動かしても腸蠕動は血流とともに活発になります。また、消化管は交感神経と副交感神経でコントロールされており、副交感神経が優位になると腸蠕動は活発になります。
術後イレウスの予防にもつながる
腹部の手術では、術後は一時的に腸管の蠕動運動が減弱、消失します。通常は術後、消化管運動が回復するまで小腸は8~24時間、胃が24~48時間、大腸が48~72時間程度といわれています(図1)(1)。
この状態が遷延した場合を術後イレウスといいます。
図1術後の消化管運動の回復時間(1)
体位変換や離床により、腹腔内の腸管や体腔内の滲出液が動くことで腸管どうしの局所刺激が生じて、腸管の蠕動運動も高まります(2)。
そのため身体を動かすと蠕動運動が促進されます。また、術後の安静は最低限とし、自由に身体を動かすことで精神的にも緊張がほぐれ副交感神経が優位になります。
腸液はこの粘液が腸の粘膜を保護し、粘膜の表面を滑らかにして内容物の移送を円滑にしますが、この腸液の分泌も機械的刺激や副交感神経によって促進されます。
また、術後の硬膜外麻酔では交感神経からの遠心線維をブロックするために副交感神経が優位となり、腸管の蠕動運動が亢進します。
以上のことから、術後早期の活動とともに経口摂取を始めて、蠕動運動を促すことで術後のイレウス予防にもつながるのです。
歩行は腸蠕動促進に効果がないとする報告もありますが、経験上効果はあると思います。
[文献]
- (1)紫藤和久,岡田真樹,永井秀雄:術後イレウス.産 婦人科治療 2002;84 増刊:1000.
- (2)岡本健,前田広道,小林道也:大腸切除術後のアセ スメントに特有の注意点.特集 新人ナースの押さ えどころはココ!術式ごとの違いがわかる消化器 外科術後アセスメント,消化器外科NURSING 2013; 18:41.
- (3)武田博子:早期離床の利点と進め方.竹末芳生, 藤野智子編,エキスパートナース・ガイド 術後ケ アとドレーン管理,照林社,東京,2009:137.
- (4)日野原重明,阿部正和,浅見一羊,他:消化と吸収. 系統看護学講座 専門基礎1 人体の構造と機能〔1〕 解剖生理学,医学書院,東京,2001:417.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社