精巣ホルモン|内分泌
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
今回は、精巣ホルモンについて解説します。
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
〈目次〉
Summary
- 1. 精巣ホルモン(男性ホルモン)であるアンドロゲンの主成分は、テストステロンである。
- 2. 精巣の間質細胞にLHが作用すると、テストステロンの合成および分泌が促進される。
- 3. 精巣のセルトリ細胞にFSHが作用すると精子の形成が促進される。
精巣ホルモンとは
精巣ホルモンはアンドロゲン(androgen)と総称される。
そのなかで90%以上を占め、アンドロゲンの代名詞でもあるのがテストステロン(testosterone)である。精巣(testis)の間質細胞(interstitial cell、Leidig cell)に黄体形成ホルモン(LH)が作用するとテストステロンの合成および分泌が促進される。
なお、卵胞刺激ホルモン(FSH)の受容体は、精巣のセルトリ細胞(Sertoli cell)にあり、FSHの刺激で精子の形成を促進する。
このようにLHやFSHは、卵巣だけでなく、精巣にも作用するので、それぞれ黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモンという名称でなく性腺刺激ホルモンとよぶほうが適当である(「下垂体前葉ホルモン」参照)。
テストステロンの生合成
テストステロンなどの性腺ステロイドはコレステロールから生合成される(図1、図2)。
図1ステロイド骨格およびコレステロールの化学構造
図2性腺ステロイドの生合成経路
NursingEyeテストステロンからエストラジオールの生合成
図2から分かるようにテストステロンの一部が芳香族化(ベンゼン環形成)されると女性ホルモンであるエストラジオールになる。この反応は、芳香化酵素(アロマターゼ〔aromataze〕)の存在下に進む。
エストラジオールは乳がん(breast cancer)の発生および増殖を助長するが、閉経(menopause)後も乳がんにかかることが多い。これは副腎皮質から分泌されるアンドロゲン(テストステロン)が副腎、脂肪組織、卵巣などに存在するアロマターゼの働きでエストラジオールになるためである。
したがって、乳がん発生を予防するためにファドロゾール(fadrozole)などのアロマターゼ阻害薬が使われる。
男性でもアロマターゼが存在するのでアンドロゲンからエストラジオールが合成される。その結果、高齢の男女を比較するとむしろ男性のほうが女性ホルモンが多いという意外な結果がみられる。
エストラジオールはアルツハイマー型認知症(dementiaof Alzheimer type)に対して抑制効果があるので、アルツハイマー型認知症が男性よりも女性のほうが多いことの原因の1つとして、このテストステロンから合成されるエストラジオールが考えられる。
※編集部注※
当記事は、2017年3月3日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『図解ワンポイント 生理学 第2版』 (著者)片野由美、内田勝雄/2024年7月刊行/ サイオ出版