心臓の神経支配と心臓反射|循環
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、心臓の神経支配と心臓反射について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
松本 裕
東海大学医学部看護学科講師
Summary
- 1. 心臓は自動的に拍動する能力をもつが、心臓神経(交感神経と副交感神経)によって調節されている。心臓神経の中枢(心臓中枢)は延髄にある。
- 2. 心臓中枢は、身体各部からの情報を感知するとその情報に応じてただちに心臓を調節する。これを心臓反射という。
- 3. 心臓反射には、ベーンブリッジ反射、大動脈神経反射、頸動脈小体反射、眼心反射などがある。
- 4. 心臓中枢は高位中枢からの影響も受けている。
〈目次〉
心臓神経支配
洞房結節(特殊心筋、刺激伝導系)には歩調とり電位(前電位)がある(「刺激伝導系と心拍動の自動性」)。そのため心臓は自動能をもち、自発的に拍動するが、その拍動は自律神経によって調節されている。心臓に分布している神経を心臓神経といい、心臓交感神経(以下、交感神経)と心臓副交感神経(以下、副交感神経)がある。心臓神経の中枢は延髄にある。
交感神経活動の亢進は、心拍数増加、心筋収縮力増強、刺激伝導系の伝導速度の促進をもたらし、副交感神経の亢進は、心拍数減少、心筋収縮力低下、刺激伝導系の伝導速度の遅延といった抑制作用をもたらす。運動や興奮したとき心拍数が増加するのは交感神経活動亢進による。
心臓反射
心臓中枢は、身体の各部分から送られて来る情報を受け取り体内の状況を感知する。すると状況に応じてただちに(反射的に)それに対応するように心臓神経を介して心臓調節を行う。それを心臓反射という。主な心臓反射には次のようなものがある(図1)。
図1心臓の神経支配と心臓反射
①頚動脈洞神経反射、頚動脈小体反射
②ベーンブリッジ反射
③大動脈神経反射
(山本敏行、鈴木泰三:新しい解剖生理学.改訂第11版、南江堂、2005より改変)
ベーンブリッジ反射 〔 Bainbridge's reflex 〕(図1)
この反射装置は右心房壁にあり、心房に入る血液量が増え心房壁が伸ばされると、それを感知して反射的に心拍数を増加して、心房内の血液を早く動脈内に押し込もうとする。
大動脈神経反射、頚動脈洞神経反射(圧受容器反射)
大動脈弓や頸動脈洞には(内頸動脈の起始部にある)血圧を感知する圧受容器 baroreceptorがある(図1)。血圧上昇により周囲組織が物理的に引き延ばされると、圧受容器が感知し、舌咽神経(頸動脈洞の伸展)と迷走神経(大動脈弓の伸展)を経由して延髄孤束核に情報を伝える。
すると、副交感神経遠心路の興奮により刺激伝導系が抑制され心拍数が減少するとともに、血管運動中枢の抑制を介して交感神経遠心路が抑制されて血管が拡張し、心拍数と心収縮力が低下する。つまり、心機能と血管トーヌス(血管壁の収縮状態)のどちらも抑制され、血圧が低下する。
頚動脈小体反射(化学受容器反射)
頸動脈洞のすぐ近くにある頸動脈小体と大動脈弓壁にある大動脈小体には、血液の化学組成を感知する末梢化学受容器(chemoreceptor)がある。末梢化学受容器は血液中のO2濃度の低下を感知して心臓中枢にその情報を送り、反射的に心拍数を増加させることによりCO2を排出させるように働く。(末梢化学受容器はCO2上昇も多少感知しているが、主にO2低下に反応する。CO2上昇に反応するのは、延髄に存在する中枢化学受容器である)。
眼心反射(眼球心臓反射またはアシュネル反射)
眼球を強く圧迫すると心拍数が減少する。これを眼心反射(眼球心臓反射またはアシュネル反射 Aschner's reflex)という。これは三叉神経第1枝(眼神経)から三叉神経、迷走神経中枢を介して心臓を抑制することによると考えられている。
呼吸からの反射
呼吸によっても心拍数は変化し、吸息のときは心拍数増加、呼息のときは減少する。このような呼吸による変化を呼吸性不整脈という。これは呼吸中枢からの情報を心臓中枢が受けて、心臓神経を介して反射的に心拍数を変化させる。
高位中枢からの影響
怒りや精神的興奮は、心拍数を増加させる。これは、高位中枢から心臓中枢、心臓神経を介した反応である。
※編集部注※
当記事は、2016年8月2日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
[次回]
⇒〔ワンポイント生理学〕記事一覧を見る
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版