神経情報の伝達のしくみ(2)|神経系の機能
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、神経情報の伝達のしくみについての解説の2回目です。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
松本 裕
東海大学医学部看護学科講師
Summary
- 1. 神経系の情報・指令の伝達方式は、神経線維とシナプス間で異なり、神経線維上は活動電位の伝播(電気的)により、シナプス間は神経伝達物質(化学的)を介して行われる。
- 2. 中枢神経系には多数の神経伝達物質が存在し(アセチルコリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニン、GABA、グルタミン酸、NO 等)、放出された伝達物質はシナプス後膜に存在するそれぞれ固有の受容体に結合する。
- 3. 中枢の神経伝達物質には、シナプス後膜を興奮させる興奮性伝達物質と抑制させる抑制性伝達物質がある。
〈目次〉
神経線維の興奮伝導-電気的情報伝導(図1)
細胞膜はリン脂質二重層でできており、イオンは膜を通過できない。ところが、細胞膜にはさまざまなイオンチャネルがたくさん埋め込まれており、このチャネルを介してイオンの出入りは可能となる。
静止時には細胞内はマイナスに、細胞外はプラスになっている(図1A)。この理由は、静止時にはカリウムチャネルのみが開くからで、これにより、細胞内に圧倒的に多く存在する K+が拡散により細胞外に出ていく。陽イオンが出ていくので神経線維膜の内側はマイナスになるのである。
図1神経線維の興奮伝導
静止膜に刺激が加わるとイオン透過性は変化して、まずナトリウムチャネルが開く。Na+は細胞外に圧倒的に多く存在するから、細胞外から細胞内に Na+が流れ込む。Na+は陽イオンなので、細胞内電位はマイナスからプラスに傾き、細胞内外の電位が逆転する(脱分極)。
やがてNaチャネルが閉じ、電位依存性Kチャネルが開く。すると K+が流出して、細胞内の電位はもとの静止電位まで戻っていく。この一連の活動電位は隣接する細胞を興奮させ、次々と情報(興奮)を神経線維である軸索の終末まで伝播する(「興奮の発生と伝導」参照)。
なお、髄鞘は電気絶縁性が高いので、ここではイオンの流れは生じないが、髄鞘がとぎれているランビエの絞輪ではイオンの流れ(活動電位)が生ずる(「神経情報の伝達のしくみ(1)」の図1、図1B)。したがって、興奮(活動電位)は絞輪から絞輪へと飛び越えるので、興奮の伝導が加速される。
シナプス間隙の情報伝達-神経伝達物質による情報伝達方法(図1C)
興奮が軸索の終末まで伝播すると、シナプス前膜を脱分極させ、終末の小胞に貯蔵されている特有の神経伝達物質の放出を引き起こす。放出された神経伝達物質はシナプス間隙を拡散し、シナプス後膜上にある神経伝達物質特有の受容体と結合することによって情報を伝える。
シナプスにおける化学伝達には、放出される伝達物質の違いにより、興奮を伝える場合(興奮性伝達)と抑制を伝える場合(抑制性伝達)がある。
神経線維上の情報伝達の方法はすべて共通(活動電位の伝播による)であるにもかかわらず、興奮したり抑制したりと異なった反応を生ずることができるのは、神経伝達物質とそれを受け取る受容体の違いによる。シナプス伝達についての詳細は「シナプス伝達」で述べた。
神経伝達物質には興奮性伝達物質と抑制性伝達物質があり、科学の進歩により神経伝達物質とそれを受け取る受容体の構造が相次いで発見されている。
代表的な化学伝達物質に、アセチルコリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニン、グルタミン酸、ガンマアミノ酪酸(γ - アミノ酪酸:GABA)、グリシン、N- メチル -D- アスパラギン酸(NMDA)、カイニン酸、ATP、アデノシン、一酸化窒素(NO)、サブスタン P、エンケファリン、ニューロペプチド Y、バソプレッシンなどがあり、その他にも多数みつかりつつある。
※編集部注※
当記事は、2016年4月24日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
<参考>生体機能の統御
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版