大腸・肛門の仕組み|食べる(5)
解剖生理が苦手なナースのための解説書『解剖生理をおもしろく学ぶ』より
今回は、消化器系についてのお話の5回目です。
[前回の内容]
解剖生理学の面白さを知るため、身体を冒険中のナスカ。肝臓の仕組みについて知りました。
今回は、大腸・肛門の仕組みの世界を探検することに……。
増田敦子
了徳寺大学医学教育センター教授
大腸から肛門へ(図1)
小腸ですっかり栄養分を吸い取られた残りかす(食物残渣〈ざんさ〉)は、大腸へと送られます。大腸は、カタカナの「コ」の字を逆にしたような形をした管で、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸と続きます。
図1消化管の働き
この管を通るうちに、残った水分はすっかり吸収され、粥状(じゅくじょう)だった内容物は、固形状の糞便塊に変化していきます。大腸には多くの細菌が棲(す)みつき、未消化の内容物を処理しています。
さあ、消化管の出口よ。固形状になった糞便塊は、肛門括約筋の運動によって、肛門から排泄されます
久しぶりに外に出られるー
最後に1つ。便意をもよおすのはどうしてか、知っているかしら?
まさかそれも、ホルモンが命令するんじゃないですよね?
ハハハ、これは違うの。糞便塊が蠕動運動によって直腸に入ると、その刺激で壁が押し広げられるだけ。便意をもよおすと、反射的に直腸の壁の平滑筋が収縮して、排便できます
じゃあ、我慢するときは?
外肛門括約筋を収縮させて便が出ないようにするの。外肛門括約筋は骨格筋、つまり、自分の意思でコントロールできる筋肉だから、便意に逆らって働くこともできるのね
図2排便中枢
コラム食欲はどこからわいてくる?
食物の流れに沿った消化器系の旅は、いかがでしたか? ちょっとおまけで、食欲と脳の関係についてお話します。
食欲をコントロールする中枢は、脳の視床下部にあります。1940年、ランソン(S. Ranson)とヘザリントン(A. W. Heatherington)は、ネコを使ってこんな実験をしました。視床下部のある部分に電極を刺し込み、電流を流して組織を破壊したのです。すると、どうでしょう。ネコはいくら食べても満足せず、ひたすらエサを食べ続け、ついには肥満となりました。
図3食欲中枢
1951年、今度はアナンド(B. K. Anand)とブロベック(J. R. Brobeck)がラットを使い、視床下部の別の部分を破壊しました。すると、ラットは何も食べようとはしなくなり、そのまま放置すると餓死に至ることを観察しています。
これらの実験で確認されたのは、視床下部にある食欲中枢のうち、「おなかが空いたなぁ、何か食べたいよ」というサインを出す摂食中枢と、「もうおなかがいっぱい、食べられないよ」というサインを出す満腹中枢はそれぞれ別々であること。そして、摂食中枢は視床下部外側野、満腹中枢は視床下部腹内側核にある、ということです。
これを受けたメイヤー(Meyer)は1952年、いったい何がそれらの中枢にある細胞を刺激するのかを考え、1つの仮説を立てました。メイヤーは、食欲をつかさどる神経細胞は血糖値によって刺激され、セットされた血糖値が高ければ、いくら食べても満腹感が得られず、その値が低いとすぐに満腹感が得られるので、少食となってやせてくる、と考えたのです。
メイヤーの考えは間違いではありませんでしたが、十分ではありませんでした。その後の研究によると、食欲をコントロールする2種類の神経細胞は、血糖値だけではなく、インスリンや遊離脂肪酸によっても刺激を受けることがわかっています。
[次回]
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『解剖生理をおもしろく学ぶ 』 (編著)増田敦子/2015年1月刊行/ サイオ出版