摘便のコツは?体位や禁忌など注意点は?|排便ケアを極める(1)
摘便は臨床に出てから経験することが多い看護技術。
なかなかうまくできず悩んでいる人も多いのではないでしょうか。
そこで、自信をもって行うために知っておきたい摘便のコツや注意点を紹介します。
【index】
摘便の適応は?禁忌は?
必要物品は?
摘便で気を付けることは?
適切な体位は?
摘便の手順やコツは?
1:準備する
2:示指挿入前に指の感覚に慣れてもらう
3:挿入して便に触れたら、便の性状と量を確認する
4:便の状態に合った摘便を行う
軟便の場合
示指が挿入できない硬便の場合
示指が挿入できる硬便の場合
5:摘便後の便を処理する
摘便時のNG行為は?
痔など肛門疾患のある患者さんの注意点は?
下剤や浣腸を併用する患者さんの注意点は?
摘便で出血した場合、どうすればいい?
痛みを訴えた場合、どうすればいい?
介護施設設や在宅で摘便する際の注意点は?
摘便の適応は?禁忌は?
適応
● 直腸指診で直腸内に大量の硬便があり、自力で排便できない状態
● 直腸に大量の軟便があり、浣腸または新レシカルボン®坐剤やテレミンソフト®坐薬では排便できない状態
● 直腸内に大量ではないが硬便の残便があり、何らかの理由で浣腸または新レシカルボン®坐剤やテレミンソフト®坐薬が使えない状態
禁忌
● 示指の挿入が困難な肛門が狭いケース
● 肛門疾患があるケース
● 全身状態が極端に悪いケース
これらのケースでは医師の判断と指示を受けます。
必要物品は?
● 吸湿性の防水シート(ペットシートでもよい)
● ゴム手袋(摘便で使う側の手は二重がおすすめ)
● 潤滑ゼリー
● 膿盆や便器など便を置くもの(トイレットペーパーを敷いておく)
● 枕
● 尿器(摘便の刺激で失禁するケースがあるため、男性の場合に用意。女性は吸湿性の防水シートで対応)
換気には十分気を付けましょう。
摘便で気を付けることは?
急激に直腸内が空っぽになると、迷走神経反射による血圧低下の可能性があることを意識しておきましょう。気分が悪くなるなどの症状がみられたら、摘便を中止するなどの対応が必要です。
また、肛門と直腸を傷つけない、直腸穿孔させないよう注意します。
適切な体位は?
左側臥位で股関節を軽度に屈曲しお尻を突き出してもらいます。膝を揃えて真横向きで行います。
適切な高さの枕を使って患者さんの頭が浮かないように支えてください。枕を使用すると余計な力が抜け、肛門が緩むため処置が容易になります。
摘便の手順やコツは?
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1:準備する
患者さんの殿部の下に吸湿性の防水シートを敷き、取り出した便を置くためのトイレットペーパーを敷いた膿盆などをそばに置いておきます。
手袋を装着します。摘便する側の手袋は二重がおすすめです。
示指には潤滑ゼリーをたっぷりつけておきます。
2:示指挿入前に指の感覚に慣れてもらう
示指で何度か肛門の表面をなでて緊張を取ります。このとき、まだ指は肛門内に挿入しません。
なでる向きは自然に動かしやすい腹側から背中側へ、数回繰り返します。
なでる強さは弱すぎるとくすぐったくて逆効果。手の甲をなでたときにくすぐったさを感じない程度には強い方が良いでしょう。
3:示指を挿入して便に触れたら、便の性状と量を確認する
次に、肛門内に示指をゆっくり挿入します。
便の性状と量を確認します。
直腸内にある便が軟便なら、示指は抵抗なく根本まで挿入できます。→軟便の場合へ
挿入した指に硬い便を触れたら、そこで指を止めます。直腸壁に沿わせないと指がそれ以上挿入できない場合、または、出口をふさぐ大きな異物のような硬便に触れる場合は、指の挿入を中止。直腸壁が極度に緊満していると判断します。→示指が挿入できない硬便の場合へ
直腸内に便塊はあるが、挿入の邪魔にならない程度なら、慎重に示指を根元まで挿入して便の大きさを確認します。→示指が挿入できる硬便の場合へ
4:便の状態に合った摘便を行う
● 軟便の場合
軟便の場合は、肛門の背中側を指の腹で圧迫して肛門を開口させて排出させます。
便は指の爪側、手の甲側を通過して行きます。普段は鋭角になって便漏れ防止に役立っている直腸肛門角を、鈍角にするわけです。
肛門の筋力が弱い患者さんでは肛門の開口が得られやすいのですが、筋力が強く肛門が開口しない場合は医師が肛門鏡を使用しないと出せないケースもあります。
硬便によって直腸壁が極度に緊満している場合には、肛門付近に触れることのできる便塊を少しずつほぐしてかき出します。
便を圧迫する場合、指の向きは必ず腹側→背中側の向きに圧をかけます。腹側となる直腸前壁は穿孔しやすいので圧迫してはいけません。
摘便に不慣れな方は決して無理をせず、時間をかけて少しずつ崩してください。
直腸内に示指が挿入できるスペースができるまで続けます。
直腸内に示指が挿入できる場合は、示指を軽く曲げて硬便を引っかけて肛門外にかき出します。
大きな便塊は指で崩してかき出せる大きさにしてからかき出します。
痛みを少なく上手に摘便するには、便の「ねばりけ」を利用してみるのもよいでしょう。
かき出す動作をゆっくり行うと便の「ねばりけ」によって便が指にへばりつきます。こうすると比較的大きな便塊でも指を大きく曲げずにかき出せます。そうして取り出した便には指の形のくぼみができています。
なお、個人差はありますが、一般的に肛門を通過できる最大の太さは指2本分程度と考えてください。便をかき出す前に直腸内でこの程度の大きさまで便を崩すようにします。
5:摘便後の便を処理する
トイレットペーパーを敷いた膿盆の上などに摘出した便を置くと、摘出した便をそのままトイレに流すことができます。
摘便時のNG行為は?
便塊を崩すときに腹側に向かって押さえるのは直腸前壁の穿孔リスクが高く禁忌です。背中側に向かって押さえるようにします。
直腸壁に急激な力をかけるのも危険です。危ないのは便塊を崩すために圧迫しているとき。急に便塊が割れたり便がツルッと回転したりすることがあります。全力で押さえていると指がそのまま直腸壁を直撃してしまいます。便塊を崩すときには加減してじわっとゆっくり力を入れるのがよいでしょう。
痔など肛門疾患のある患者さんの注意点は?
肛門疾患がある場合は原則禁忌と考え、医師の指示を受けます。
特に痔瘻の初期像である肛門周囲膿瘍は短期間で発症することがありますから、数日前まで大丈夫だったという方も要注意です。
肛門周辺に発赤や腫脹、圧迫した時に強く痛みが出る圧痛点がみられたら、摘便をしないで、まずは医師に報告しましょう。
医師の指示を受けて摘便を実施するときは、病変部を直接圧迫しないようにします。
下剤や浣腸を併用する患者さんの注意点は?
直腸内に硬便が大量に詰まっている患者さんが、便秘を解消しようとして下剤を内服したせいで便失禁となるケースがあります。
硬便の周囲を下剤による軟便がすり抜けて失禁することがあります。その失禁が便秘のサインのことがあるのです。こうした失禁は摘便により改善します。
なお、示指が挿入できないほどの硬便があり、直腸がパンパンになっている状態での浣腸は禁忌です。直腸穿孔のリスクが高いからです。
浣腸を使用する場合は、まず先に摘便して直腸内の便をある程度出して指が挿入できるくらいのスペースを作り、さらに直腸内の大きな便塊を肛門を通過する大きさまでゆっくりと指で砕く必要があります。
その後、浣腸するときにはノズルの挿入距離を成人で5cm以下、小児では3〜
また、薬液の注入は60mLの浣腸なら30秒くらいかけてゆっくりと慎重に行います。
薬液の注入で抵抗を感じたら、ノズルを少し引き抜いて再度ゆっくりと注入を試みます。ノズルの先端が直腸壁に直接突き当たった状態で無理をして浣腸すると、穿孔のリスクがあるからです。
摘便で出血した場合、どうすればいい?
摘便中の出血は、少量なら摘便を先に終了させ、多量であれば摘便を一時中断して止血を先に行います。
出血点が明らかな場合の止血方法は圧迫です。出血点が肛門内の場合は数時間以上経ってからコアグラ(血液が固まったもの)の排出で出血が判明する場合があります。摘便の後に鶏卵大以上のコアグラの排出があれば、医師に報告しましょう。
また、摘便の後、3日以上経過しても排便時などに出血を認める場合は、医師に診てもらうことを検討します。
痛みを訴えた場合、どうすればいい?
どこが痛いのか、どうすると痛いのかを確認します。
処置による腹痛は穿孔などの危険なサインです。摘便の処置を一時中断し、痛みが治まるまで再開を待ちます。治まらなければ反跳痛など急性腹症のサインがないかチェックします。
肛門に挿入した指を動かすと痛みを感じる場合には、動作が速すぎるまたは強すぎるのかもしれません。じわーっと、ゆっくりと、やさしく動かすようにしてみてください。
介護施設や在宅で摘便する際の注意点は?
処置後に肛門からコアグラの排出がないか(摘便で出血した場合、どうすればいい?参照)に加え、処置後に腹痛がないかを確認する必要があります。
介護施設や在宅で摘便する場合は、特に高齢者の場合、穿孔による急性腹症のサインが数時間以上遅れて出てくることがあるので注意が必要です。
摘便をした後、半日~1日は要注意です。時間がたってからでも腹痛があったり苦しそうにしたりしている場合には、医療者に連絡するよう伝えておきましょう。
佐々木 巌 ささき・いわお
大阪肛門科診療所 院長。
1995年大阪医科大学卒。同年より社会保険中央総合病院(現 東京山手メディカルセンター)大腸肛門病センターに勤務。1998年大阪肛門病院を継承。2007年大阪肛門科診療所と改称し、現在に至る。
日本大腸肛門病学会認定大腸肛門病専門医、日本大腸肛門病学会認定大腸肛門病指導医(ⅡB領域=肛門科領域)。
編集/看護roo!編集部 坂本朝子(@st_kangoroo)
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