死亡診断は誰がする? 看取りに際し、看護師がとるべき行動とは?
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死亡診断は誰がする? 看取りに際し、看護師がとるべき行動とは?
2016年4月末、特別養護老人ホームで、医師の不在時に一般職員が医師を装って看取りに立ち会い、看護師が死亡診断書の日付を記入したというニュースが流れました。
(死亡診断書、看護師が作成…医師不在時 特養、県に報告せず:埼玉新聞)
法律の原則として、医師でなければ「死亡診断」や「死亡診断書の作成」はできません。
しかし一方で、医師が不在であると、死亡診断・死亡診断書作成を目的に、死期が近い患者さんを救急搬送する場合があります。
また、医師が到着するまでご遺体を長時間保管しなければならないこともあります。
上記事件の看護師は、「(別の医師に死亡診断を仰ぐために)女性(亡くなった患者)を連れ回したくなかった」と説明しているそうです。
医師が常駐していない施設や、訪問看護ステーションに勤務する看護師さんにとっては他人事ではないでしょう。
病院勤務の方も、これからの高齢多死社会に向けて、「医師が近くにいない場合どう対応するのが望ましいのか」知っておく必要があります。
患者さんの看取りの際に医師が不在の場合、看護師がおさえておきたいことをまとめました。
◆看護師がおさえておきたいこと
・最終的な死亡診断は、原則として医師が行う
(ただし、看護師が死の三兆候を確認しておくことは可能)
・死亡診断書の最終的な発行(特に署名)は医師が行う
(ただし、医師の指示でほかの職員が下書きすることや、主治医が作成した「死亡診断書案」をもとに、別の医師が作成することは可能)
◆目次
看護師はどう対応したらいい?
患者さんがもうすぐお看取り、もしくは死亡しているという場合の看護師の対応をフローチャートにまとめました。
(なお、いずれの場合も必要な医療・看護は適宜実施することは当然です)
図 看護師がとるべき行動(現行の法律上)
現行の医師法で、医師が直接診察をせずに「死亡診断」をできる“例外”はありますが、「医師による診察後24時間以内」に「診察中の疾病で死亡した場合」に限られています(フローチャート【4】)。
原則として、「死亡診断」と「死亡診断書」の発行は医師しかできませんが、看護師は医師に連絡をとりながら、死の三兆候の確認などを実施する大切な役割を担います。
【1】医師がすぐに来られるなら、原則として医師を呼んで診察を求め、死亡後に死亡確認・死亡診断をしてもらいましょう。
(「例外」として述べたとおり、【4】に当たる場合は診察なし、という対応も、施設・担当医の方針によってはありえます)
【2】医師がすぐ来られないが、連絡して指示を仰げる状況なら、客観的な状況を伝えて判断を仰ぎましょう。この際に、死の三徴候が確認できればその旨を医師に伝え、それに基づいて医師が死亡確認・死亡診断をすることもありえます。
【3】医師と連絡もつかないという状況であれば、可能なら死の三徴候を確認し、医師と連絡が取れるのを待ちましょう。
【4】医師による診察から24時間以内で診療中の疾患で死亡、という場合であれば、医師は直接死後診察をしなくても死亡診断書を交付することが可能です。
原則どおり医師の直接対面による死後診察を経ることが難しければ、死の三徴候を確認し、死亡原因について検討のうえ、医師に連絡して判断を求めましょう。
※死体の外表に犯罪を示すような痕跡(首を絞めた痕、刃物で刺した痕、殴打の痕など)があった場合には異状死体として警察に届出が必要になりますので(医師法21条)、医師に連絡して直接対面による死後診察を求めましょう。
医師の診断に必要な情報は、どうやって確認する?
フローチャートの【2】【3】【4】の場合に特に、看護師は可能なら「死の三兆候」を確認しておくとよいでしょう。
死の三徴候とは、「不可逆的な心停止」「不可逆的な呼吸停止」「瞳孔散大・対光反射消失」です。
医師と連絡がつくのを待つ間、医師が到着するのを待つ間、死の三兆候を確認し、医師に伝えましょう。
死亡診断を行うのはあくまで医師ですが、死亡時間については看護師や、家族からの情報も考慮します。
死亡時に医師が間に合わない場合は、看護師ら医療者が死の三徴候を確認し、その確認時間も含めて記録しておくといいでしょう(確認方法、確認内容の基礎知識は学習しておきましょう)。
死亡診断書の作成に看護師はどう関わる?
「死亡診断書」は、原則として医師が作成します。
死亡原因の診断は、特に医学的に高度な判断が必要となるからです。
ただし、「医師が最終的に確認し署名することを条件に、事務職員が医師の補助者として記載を代行することも可能」と明言されています。
(厚労省通知「医師及び医療関係職と事務職員等との間等での役割分担の推進について」(PDF)2007年12月18日)
大切なことは、死亡時刻や死因を含めて、できるだけ医学的に正確な死亡診断書を作成することです。
そのため、看護師は死の三兆候を確認した時間、死亡時間などを記録し、医師が正確な情報を得られるようにすることが必要です。
ほかの職員が死亡診断書を「下書き」して、医師が「最終確認」と「サイン」をすることや、主治医が作成しておいた「死亡診断書案」を参考にして、死亡診断した医師が最終的な死亡診断書を作成することは、問題ないと考えています。
看取りの際に、看護師が果たす役割とは?
「死亡診断」「死亡診断書の作成」は、人の生死を決め、死亡の原因を判断するという意味で高度かつ大事な判断です。
また、その際には異状死体に当たらないかの確認(外表に異状がないか)、医療事故調査制度の対象に当たらないかの検討など、多くの専門的な判断が必要になります。
このため、「死亡診断」「死亡診断書の作成」は原則として医師が実施するものです。
そのなかで、看護師は客観的な状況を確認して医師に連絡したり、患者さんやご家族のケアをしたりと、重要な役割を担っています。
「看護師としてやってはいけないこと」は意識しながら、適切に役割分担をしていきましょう。
なお、今年(2016年)7月末に、「死亡診断書の交付要件緩和へ」というニュースもあり、看護師が中心となって死亡診断を進める規制緩和も提言されていますので下記に解説します。
検討中の規制緩和で何が変わるか?
検討中のポイント(規制改革会議の提言)をまとめます。
◆規制緩和のポイント
〔現行〕医師の診断から24時間以内であれば、医師は、直接診察によらず死亡診断できる。
〔規制緩和後〕医師の診察から24時間以上経過していても、一定の条件下で、医師は直接診察によらず死亡診断できる。
規制緩和のねらいは、「地域・在宅での穏やかな看取りの推進」です。
背景にあるのは、地域・在宅で医師の直接対面による死後診断が困難な場合、看取りのためだけに病院や介護施設に救急搬送されるケースや、死後診察を受けるために、ご遺体を長時間そのままにしておくケースがあるという指摘です。
冒頭の事件も、このような背景から起こったとも考えられます。
現状の医師法でも、医師が直接診察をせずに「死亡診断」をできる例外はありますが、「医師による診察後24時間以内」に「診察中の疾病で死亡した場合」に限られていました。
しかし、現在検討中の要件緩和で「医師による診察のあと、24時間以上経過した場合であっても、下記の5つの条件を満たす場合には、直接診察によらず死亡診断書を交付できるようになる」見通しです。
1)医師による直接対面での診察の経過から、早晩死亡することが予測されている
2)終末期の際の対応についての事前の取り決めがあるなど、医師と看護師の十分な連携が取れており、患者や家族の同意がある
3)医師間や医療機関・介護施設間の連携に努めたとしても、医師による速やかな対面での死後診察が困難である
4)法医学等に関する一定の教育を受けた看護師が、死の三兆候の確認を含め医師とあらかじめ取り決めた事項など、医師の判断に必要な情報を速やかに報告できる
5)看護師からの報告を受けた医師が、テレビ電話装置等のICTを活用した通信手段を組み合わせて、患者の状況を把握することなどにより、死亡の事実の確認や犯罪性の疑いがないと判断できる
この5つを満たせば、看護師が「死の三兆候」などを確認して、現場にいない医師に報告した結果、医師の判断により死亡診断が下りる、という実施が可能になります(フローチャート上、緑矢印部分)。
図 看護師がとるべき行動(検討中の規制緩和が実施された場合)
早ければ2017年中に実施との報道もありましたが、へき地や離島などに限られたものになるのか、具体的な要件がどのようなものになるのか、今後の厚生労働省の動きを注視しておきましょう。
illustration:パント大吉(ホームページ)
(関連記事)
(参考)
医師不在で死亡診断書=埼玉の老人ホーム(時事通信社、2016年4月28日)
規制改革会議:規制改革に関する第4次答申―終わりなき挑戦(PDF)(内閣府、2016年5月16日)
死亡診断書:政府、交付要件緩和へ…対面せず、条件付き(毎日新聞、2016年7月24日)
「死亡診断の看護師代行」報道で波紋―看取りの規制緩和訴える看護界の狙いは?(看護roo!)
山崎祥光(やまざき・よしみつ)
弁護士・医師(弁護士法人 御堂筋法律事務所 大阪事務所)
医療者・病院側に立っての弁護士活動を行っており、医療紛争や医療訴訟を中心に、監査対応、警察対応や日常の法律相談なども行っている。
共著に『「医療事故調査制度」早わかりハンドブック』(日本医療企画)。委員として『医療事故調運用ガイドライン』(へるす出版)編集。
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