はじめまして、セラピードッグの海音です|アニマルセラピーって知っていますか?
災害救助犬&セラピードッグのおさんぽ日記【2】
南園彩子(Minamizono Ayako)
日本レスキュー協会・セラピードッグトレーナー
セラピードッグに会ったことはありますか?
海音が協会に来た日
海音のセラピードッグへの道~訓練の基本は“しつけ”?!
トイレは段階を踏んで覚える
いろいろな経験をさせて、社会性を身に付ける
車酔いは、慣れで克服?!
名前を覚えさせるには、たくさん呼びかける
Q アニマルセラピーはいつごろから行われているの?
Q セラピードッグにはどんな犬種が向いているの?
セラピードッグに会ったことはありますか?
皆さんは「セラピードッグ」に会ったことはありますか?
セラピードッグは、病気やけがなどで治療を必要とする患者さんや高齢者、障がいのある方などと触れ合うことで、そういった方たちの心と身体を癒やす働きをする、高度な訓練を受けた犬のことです。
セラピー訪問中の海音。おとなしく抱っこされています。
皆さんの中にも犬や猫などのペットを飼っている方、もしくは飼ったことがある方もいらっしゃいますよね?
つらい時や疲れている時にそういったペットと触れ合うことで「癒やされるな~」って思うこと、ありませんか?
動物が持つそういったヒトを癒やす能力にフォーカスを当て、身体的、精神的、社会的な機能の回復を目的とした治療法を「アニマルセラピー」といいます。
アニマルセラピーには犬のほかに馬やイルカなどを用いることもあります。 中でも犬は社交性が高く、喜怒哀楽などの反応が素直で、昔から人の身近にいた動物ということもあり、アニマルセラピーの中でも特によく用いられます。
この連載では、セラピードッグとして活動している海音(みおん)について、訓練の様子や愛嬌たっぷりの普段の様子をお伝えしながら、セラピードッグの日常と活動を紹介していきたいと思います。
海音が協会に来た日
次世代のセラピードッグを育てることになり、ご年配の方々にも親しみのある柴犬をセラピードッグとして育成することになりました。
その候補となった柴犬の子の中でも、人が大好きで、初めてのことにも動じなかった女の子が選ばれました。それが、海音です。
海音が日本レスキュー協会に来たのは生後1カ月半ごろ、2014年の10月でした。「海や音楽のように世界をつなぎ、世界中の人に愛されますように」という願いを込め、海音のハンドラーになることが決まっていた私が名付けました。
協会に来た日の海音。「どこ? ここどこ?」
海音は、子犬のころから人や犬が大好きで、とってもやんちゃな女の子でしたが、協会に来た当初は毎日ギャオギャオ鳴き叫び、私は正直、「大変な子が来てしまったなあ」と思っていました。
しかし、海音は日々訓練を重ねるうちにみるみる成長していってくれるのです。
次からは、海音が協会に来て行ったしつけや訓練についてご紹介します。
海音のセラピードッグへの道~訓練の基本は“しつけ”?!
セラピードッグ独自の訓練ももちろんありますが、それ以前に、トイレや無駄吠えをしない、などの基本的な「しつけ」を身に付けておく必要があります。
セラピードッグの活動場所は、施設の広間や病院のベッドなどであるため、そういった基本的なしつけを身に付けておくことが必須となるのです。
トイレは段階を踏んで覚える
セラピードッグとして育成するに当たり、まず最初に教えなければならないのはトイレです。セラピードッグとして施設を訪問する際(セラピー訪問)、トイレをしっかり覚えていることが必要不可欠だからです。
海音が生後3カ月ごろまではサークルの中にハウス(寝る場所)とトイレの場所を作り、自分自身で排泄がしたくなったら、してもらうようにしました。
もともと和犬は特にきれい好きと言われていて、海音も覚えるのが早く、自分のハウスの中では一切排泄はせずに、トイレでするときは鳴いて教えてくれました。
サークルの中でトイレを覚えたので、次はサークルを外してハウスのみにし、トイレの時間になるとハウスから出して排泄をさせる、という方法へ変更していきました。
サークルのときはしたい時にいつでもトイレをすることができましたが、ハウスのみになると「自分のハウスを汚したくない」という本能が働き、自然とがまんできるようになってきます。
それでも最初は、がまんするのではなく、トイレがしたくなると鳴いたり、ハウスの中でカリカリと掘り出すなど、何かしら行動によりトイレがしたいことを知らせてくれます。
トイレのトレーニングでは、そこを見逃さないようにすることが大切です。
そういったサインを見逃してしまい、何度も失敗してしまうと、最初は汚れることが嫌だったはずが、それに慣れてしまい、トイレをがまんすることをしなくなってしまうためです。
なので、トイレを失敗するということを経験させないようにしました。
また、トイレをする際は「ワンツー、ワンツー」と声をかけながらさせるようにしました。
セラピー訪問の際、施設内で漏らさないのはもちろんですが、必ず施設に入る前にトイレを済ませておかないといけません。
そのため、トイレをしてほしい時にすぐするよう、こうして声かけを行うことで、「今、トイレの時間だよ」ということを教え、音でトイレを促すことができるからです。
こういった段階を経て、海音はトイレをがまんすることを覚えました。まずは大人への成長の第一歩です。
サークルの中の海音。「外に出たいな~」
いろいろな経験をさせて、社会性を身に付ける
しつけや訓練はいろいろなことを並行して行っていきます。海音もトイレを覚えさせながら、音やさまざまな環境に慣れる訓練を行いました。
セラピー訪問で伺う施設は、そのほとんどが毎回初めての場所です。さらに、急に大きな音がする場合や、施設によっては長時間じっとしていられない方などがいらっしゃることもあります。
そんなとき、訪問しているセラピードッグが音に驚いて逃げたり、吠えたり、人と一緒に走ってしまったりということがないようにするための訓練です。
子犬は2~4カ月ごろを社会化期といい、何に対しても興味を持つ時期です。
その時期にたくさんのことを経験させておくと、怖がる要素を減らすことができます。
海音には、普段から部屋で音楽を流して聞かせたり、訪問先で遭遇するであろう車いすや杖などを置き、その場所で遊ばせたりしました。
そのころの海音はまだワクチン接種が終わっておらず、自分で歩いてのお散歩デビューはまだだったため、抱っこしてお散歩をしながら、いろいろなものを見せたりしました。
もともとの海音の気質もあったのでしょうが、こういった訓練の甲斐あって、海音は急な物音にも驚かず、ちょっとのことでは動じない子になりました。
初めての場所や物に対しても、興味津々で、「今日はどんなところに来たの? 何をするの?」と何でも楽しんでくれるようになりました。
車酔いは、慣れで克服?!
セラピー訪問をする際、移動は基本的に車です。
セラピードッグは補助犬(盲導犬、介助犬、聴導犬)と違ってまだ法的に認知されていないため、電車やバスなどの公共交通機関は使えないのです。
しかし、車で移動する場合、人と同じように犬も車酔いをします。そのため、事前に何度も車に乗せたり、短い距離から慣らしていくのですが、海音は最初からまったく車酔いをしませんでした。
理由はおそらく、毎朝ガタガタと揺られながら自転車で私と一緒に通勤していたためだと思われます。
海音は生後2カ月ごろから、ハンドラーの私との関係づくりやトイレなどの訓練をするために、しばらく私と暮らしていました。
私は協会まで自転車で通っているため、海音は毎朝かばんに入り、自転車の前かごに乗せられて私と一緒に通勤していたのです。やっぱり、小さいころから少しずつ慣らすことは重要なことなのでしょう。
かばんの中に入って出勤する海音。「いつでも出勤できるよ!」
名前を覚えさせるには、たくさん呼びかける
先にも話したとおり、海音の名前は私が決めましたが、当然、本犬は「みおん」と呼ばれても、最初のうちは自分のことだとは分かりません。
そのため、自分の名前が「みおん」であることを覚えさせるために、話しかけるときには必ず名前を呼ぶようにしました。
ちなみに、犬は直接人の言葉を理解することはできませんが、自分自身に話かけられていることは分かります。そのため、この「話しかける」ことはハンドラーが犬とのコミュニケーションを取る上でとても重要なことなのです。
私はこの時期、とにかく何をするときでもたくさん海音に話しかけ、そのたびに名前を呼んでいました。そして、名前を呼んで少しでも反応があるとおやつをあげて褒めます。そうすると、「呼ばれると良いことがある」と理解することから始まり、だんだんと「みおん」というのが「自分のこと」だと理解してくれるようになるのです。
海音、名前呼びゲームに挑戦! 自分の名前を呼ばれたらすぐに反応できるかな?
大好きなおやつがもらえることもあり、海音はすぐに名前を覚えてくれました。
そして呼ばれるとその人と目を合わせるようになり、アイコンタクトもとれるようになってきました。
今後の訓練において、アイコンタクトはとても大切になるのですが、その話は別の機会にしたいと思います。
アニマルセラピーはいつごろから行われているの?
アニマルセラピーという言葉は、日本独自の造語です。
その概念は、医師などの医療従事者が治療の補助として動物を介在させた動物介在療法(Animal Assisted Therapy;AAT)と、動物とのふれあいを通じてQOLなどの向上を目的にした動物介在活動(Animal Assisted Activity;AAA)とに分類されます。
ただし、動物を用いて人間を癒やすという手法は、古くから行われています。
古代ギリシャ時代に負傷した兵士のリハビリに馬を用いたという文献が見つかっています(1)。
施設として最初に動物を治療に用いたのは、18世紀にイギリスのヨーク収容所という精神障がい者施設だといわれています。ウサギやニワトリなどの動物の世話を患者たちに任せることで治療したのです(2)。
近代においては、臨床心理学者のボリス・レビンソンが自閉症の子どものための治療に犬を用いたところ、症状が改善したという報告をしたことで(3)、アニマルセラピーが広く関心を集めるようになりました。
日本レスキュー協会は、もともと災害救助犬の育成のみを行っていました。しかし、イベントなどで災害救助犬と被災者の方の触れ合いを通じてセラピードッグの重要性が認識されるようになり、セラピードッグの育成も行われることになりました。1996年のことです。
セラピードッグにはどんな犬種が向いているの?
特に犬種の制限はありません。
大型犬は見栄えが良く、何をしているのか分かりやすく、小型犬だと犬が少し苦手な方でも触りやすく、また抱っこしやすいなどのメリットがあります。
以下の3つの要素を持っていれば、だいたいどの犬種でもなれます。
・人が大好き
・触ってもらうことが大好き
・吠えたり、咬んだりせず、優しい性格
ただし、闘犬などの犬種は当協会ではお断りしています。
【参考】
(1)日本障がい者乗馬協会
(2)横山章光.アニマル・セラピ−とは何か.日本放送出版協会.1996.238p
(3)ボリス・メイヤー・レビンソン:子どものためのアニマルセラピー.日本評論社.2002.193p
【南園彩子 みなみぞの・あやこ】
認定NPO法人日本レスキュー協会所属、セラピードッグトレーナー。
介護などの福祉の仕事と、犬と一緒に活動できる仕事に興味を持っていた。専門学校の研修で当協会のセラピードッグの活動を知り、自分のやりたいことが両方兼ね合わしている仕事だと思い、ボランティアを経て2012年入職、現在に至る。
災害救助犬(レスキュードッグ)の育成・派遣を中心に世界規模で活動するNGO団体。国際救助機関として、災害時には国内外問わず、広く活動している。
また、災害救助活動のほか、セラピードッグの育成・派遣や捨て犬・捨て猫の保護など動物福祉・愛護活動も行っている。
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