はじめまして、災害救助犬のJです|要救助者を助ける訓練って何してるの?

災害救助犬&セラピードッグのおさんぽ日記【1】

髙木美佑希(Takaki Miyuki)
日本レスキュー協会・災害救助犬トレーナー

 

災害救助犬ってご存じですか?
よろしくね、J
J、服従訓練を始める
ちょこっと豆知識

Q 災害救助犬はいつごろ登場したの?
Q 日本ではいつごろから災害救助犬が活動しているの?
Q 災害救助犬にはどんな犬種が向いているの?

 

 

災害救助犬ってご存じですか?

皆さん、災害救助犬(レスキュードッグ)ってご存じですか?
災害救助犬は、災害で行方不明になっている人を捜索するために特別に訓練された犬のことです。

 

地震や台風などの災害で亡くなる方の中には、倒れた家具に挟まれて逃げられなかったり、土砂崩れに巻き込まれ、そのまま発見されずに亡くなってしまう方がいらっしゃいます。そういった方は、もしも発見することさえできれば救命の可能性が高いため、「防ぎ得た死」とも言われています。

 

こういった行方不明者を一刻も早く救助するため、国内外の災害現場には日々訓練されている災害救助犬が派遣されます。

 

災害現場を再現した訓練場で捜索訓練中のJ。うまく要救助者役の人を探し出せるでしょうか?!

 

この連載では、災害現場ではさっそうと要救助者を探す災害救助犬について、災害救助犬のJとハンドラーである私のこれまでの訓練奮闘記録や災害現場への出動記録を紹介していきます。
皆さまに少しでも災害救助犬を知ってもらい、興味を持ってもらえればうれしいです。

 

memo

災害現場で犬を持つ人のことをハンドラーと呼び、通常、育成はハンドラー(訓練士)と犬がペアになって行われます。

 

もちろん、出動の際もペアで行動します。
災害時、被災地で活動する災害救助犬は常に危険と隣り合わせで行方不明者を捜索します。私たちハンドラーは、彼ら災害救助犬を危険から守るという使命を持っています。

 




 

 

よろしくね、J

まずはJとハンドラーである私の紹介から。
Jは、黒のラブラドール・レトリバーで、2012年2月10日生まれの男の子です。
性格は、人にも犬にもとても優しく、アグレッシブではありますが、マイペースでお世辞にも優等生とは言えません。

 

一方、現在でこそ、災害救助犬トレーナーであり、Jのハンドラーでもある私は、日本レスキュー協会で働き始めたときは専門学校や大学で犬のトレーニングを学んでいたわけではなく、右も左も分からないまったくのど素人でした。

 

Jが災害救助犬候補生として生後約2か月で当協会に来たのは4年前、2012年4月27日のことです。
そのとき、私はまだ当協会に所属していなかったため、残念ながら当時のことはよく知りません。当時を知る職員に聞くと、Jはやんちゃで少しずる賢い、元気いっぱいの男の子だったそうです。

協会に来た当初のJ

 

そんなJは、ほかの災害救助犬たちとは少し違う犬生を歩んできました。
通常、災害救助犬として1人前になるまでは1人のハンドラーが担当となり、訓練を行うことが多いです。
しかし、Jの場合、当時担当していたハンドラーの退職にともない、2度も変わっていました。

 

そんなJと私がペアを組むことになったのは2014年3月のこと。
私にとっては、Jが初めての担当犬でしたが、Jにとっては私が3人目のハンドラーでした。

 

犬は大変感情豊かな動物です。子犬のころからたくさん一緒に遊び、楽しく訓練してきたハンドラーたちとの別れはきっと悲しいものだったのでしょう。
最初に私と会ったとき、Jは2歳でした。まだやんちゃな年ごろなはずなのに、活き活きとした様子はなく、犬舎で静かに尻尾を振っていました。
私が「よろしくね」と声をかけると、ゆっくりと近寄って頭をすり寄せて来てくれたのをよく覚えています。
それが、私とJとの最初の出会いでした。

 

J、服従訓練を始める

Jとペアになり、ハンドラーであるとともにJの訓練士となった私は、まずはJに重点的に服従訓練を行うことになりました。

服従訓練では、犬が訓練士の左横について歩く「脚側行進」や、「座れ」「伏せ」「待て」「来い」などの、基本的動作を教え、訓練士のコマンド(指示)でそれを行えるようにします。
災害救助犬はリードを外して作業するため、こういった一つ一つのコマンドをしっかりと教えておかなくてはなりません。

脚側行進中のJ。しっかり指示を聞いています

 

訓練は、その子の好きなものをご褒美として上手く利用しながら行います。
ご褒美はおやつでもおもちゃでも何でもよいのですが、おやつの場合、人を探す訓練で人の匂いではなくおやつの匂いをたどってしまうことがあります。
実際の災害現場には多くの食べ物が埋まっていることが多く、それらへの反応を防ぐためにも、進んでおやつをご褒美として使用することはありません。

 

そのため、子犬のころにボールやおもちゃでたくさん遊び、犬に「それ(おもちゃ)が好き!」「楽しい!」と十分に感じさせ、それを訓練のご褒美とすることが多いのです。
Jのご褒美もボールやぬいぐるみです。これを見せると目を輝かせて期待に満ちた顔でこちらを見ます。
 

無事に行方不明者役のヒトを発見してご褒美をもらったJ。「わーい。ボールもらっちゃった!」

 

訓練では、犬のこういった「それが欲しい!」「遊びたい!」「やりたい!」という意欲を大切にして進めていきます。
思いきり遊んだり、時にはじらしたり我慢させたりしながら、犬がワクワクするような訓練を組み立てます。

 

訓練は、ある意味人と犬との駆け引きです。
その中で、その犬の最大限の意欲を引き出せるかどうかはハンドラー(訓練士)の腕の見せ所であり、意欲があるからこそ、犬は訓練を通して障害や騒音などにも動じず、少々のことではへこたれない災害救助犬へと成長していきます。

 

危険な現場が多い被災地で活動する災害救助犬にとって、ハンドラーの存在は大きく、この訓練がいかに重要かは言うまでもありません。

 

また、この訓練を通して、ハンドラー(訓練士)は犬とのコミュニケーションを図り、信頼関係を築いていきます。
大切なことは「ご褒美」との関係ではなく、ハンドラー(訓練士)との関係を築くこと。
信頼関係が強くなれば、たとえおやつやボールなどのご褒美がなくても、ハンドラー(訓練士)から「よくできたね」「すごいね」としっかり褒められることで、犬は喜びを感じられるようになります。

 

私とJは、災害現場に出動できるペアを目指し、期待と不安が入り混じる中、最初の1歩を踏み出しました。

捜索訓練の様子。蓋の下に人が隠れている。「なんだかここからヒトのにおいがするなあ」

 

災害救助犬はいつごろ登場したの?

災害救助犬の明確な起源は不明ですが、一説には、1800年ごろ、スイスで山岳救助に犬を使っていたことが始まりと言われています。

 

当時、スイスのアルプス山脈の峠では雪崩などに巻き込まれる遭難者が後を絶ちませんでした。そのため、遭難を防ぐ目的で修道院が建設され、そこで飼われていた犬「バリー」が遭難者の救助に活躍したとされています。
このバリーは、「世界一有名なセント・バーナード犬」ともいわれ、14年の生涯で40人以上を救出したと伝えられています(1)

 

ちなみに、東京消防庁の特別救助隊やハイパーレスキューなどの救助隊隊員の腕章には、このセント・バーナードが描かれています(2)

 

 

日本ではいつごろから災害救助犬が活動しているの?

日本では、1995年の阪神淡路大震災を大きな契機として、さまざまな組織が災害救助犬育成などの活動を始めました。
現在、ようやく災害救助犬の活躍が広まりつつあり、育成も全国各地で行われています。

 

しかし、本格的な組織化や運用などはまだ問題も多く、ヨーロッパや欧米に比べて日本はまだまだ社会的に認知されているとは言えません。
日本レスキュー協会では、こういった問題を改善するため、災害救助犬の育成だけでなく、災害救助犬の活躍を広めるための広報や、自治体と協定を結ぶなど、災害救助犬の効果的な運用ができるような取り組みも行っています。

 

 

災害救助犬にはどんな犬種が向いているの?

日本レスキュー協会では、子犬のときに血統や性格を見て災害救助犬候補生を選び、育成を開始します。

 

一般的に使役犬として活躍しやすいラブラドール・レトリバーやジャーマン・シェパード・ドッグを災害救助犬として育成することが多いですが、災害救助犬に適した性格であれば、特に犬種は決まっていません。
現在では、ボーダー・コリーやブリタニー・スパニエル、トイプードル、雑種など、大型犬から小型犬までさまざまな災害救助犬が活躍しています。

 

時には、保護犬を災害救助犬に育成することもありますが、人との関係性が大切な災害救助犬にとって、一度人に捨てられた保護犬の心の傷は大きく、育成が難しいこともあります。

 

 

【参考】
(1)ベルン自然史博物館
(2)東京消防庁:災害防除

 

 

【髙木美佑希 たかき・みゆき】

認定NPO法人日本レスキュー協会所属、災害救助犬トレーナー。
大学生時代、災害救助犬に興味を持った。ネット上だけではなく、実際に働いている人と話したり、「現実」をきちんと知りたいと思ったことがきっかけで
2014年4月、日本レスキュー協会へ入職。
災害救助犬訓練士を目指し、現在に至る。

 

日本レスキュー協会 Japan rescue
認定NPO法人日本レスキュー協会

災害救助犬(レスキュードッグ)の育成・派遣を中心に世界規模で活動するNGO団体。国際救助機関として、災害時には国内外問わず、広く活動している。
また、災害救助活動のほか、セラピードッグの育成・派遣や捨て犬・捨て猫の保護など動物福祉・愛護活動も行っている。

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