閉鎖式気管内吸引の手順&コツ|吸引の看護、コレだけ!

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閉鎖式気管内吸引とは、人工呼吸器による補助換気を行いながら吸引する方法です。

手順&コツを解説します!

 

気管内吸引の適応って? 気管内吸引の適応って?

気管内吸引が必要なのは、以下のような状態のときです。

気管内吸引が必要な状態 体位ドレナージ・気道加湿などの排痰援助を 行っても、患者自身で排痰できない 呼吸数の増加または減弱・湿性咳嗽・低酸素状態・ 循環動態の変化などの症状がある 胸部触診で、 ラトリング (分泌物がガスの移動に 伴って振動すること) が感じられる 低調性連続性呼吸音 (Rhonchi) が聴取される (=太い気管支に分泌物が詰まっている) 挿管チューブ内に、 視覚的に分泌物が確認できる 大量の水分が気道にある場合 (溺水など) ・人工呼吸器の気道内圧の上昇、 換気量低下などが見られる

吸引の実施によって、以下のように、病状に影響する場合や合併症を引き起こす場合もあります。
患者さんの状態をアセスメントし、今吸引が必要かどうかを判断して実施しましょう。

 

合併症の例:

  • 心拍数の上昇・減少、血圧上昇・低下、不整脈の増加、SpO2低下
  • ●気管出血、気道攣縮、肺胞虚脱による無気肺
  • ●頭蓋内圧上昇、灌流の低下(中枢神経障害を有する患者)
  • ●不衛生な手技による気道感染

 

執筆:中嶋ひとみ
(新東京病院 看護部、集中ケア認定看護師)

 

閉鎖式気管内吸引の手順一覧

閉鎖式気管内吸引の手順を、一覧表でチェック!

吸引を実施する前には、事前にバイタルサインの測定を行い、吸引前後の状態変化に注意しましょう。

閉鎖式気管内吸引の手順 吸引圧を設定し、 口腔内カフ上部の 分泌物を除去する カフ圧を調整する (20~25cmH2O) カテーテルを 装着する コントロールバルブ を180°回転させ、 吸引カテーテルを 吸引する 挿入する ロックを解除する 吸引カテーテルを 吸引後、 観察を行う 洗浄する コントロールバルブ をロック後、カテー テルの接続を外す

閉鎖式気管内吸引は、閉鎖環境を維持するため、吸引前に酸素化(高濃度の酸素投与)を行います。人工呼吸器の「取り外し/サクション」「吸引モード」「サクションサポート」「100%酸素モード」など、指定のモードで実施してください。

 

吸引中の患者さんは無呼吸状態になります。さらに、呼吸に必要な酸素まで吸引するので、低酸素血症や無気肺を生じるリスクもあります。

 

必ず吸引前に酸素化を行いましょう。
 

 

必要物品・患者、看護師の準備

必要物品 個人防護具 (マスク、ゴーグル、 ビニールエプロン、 未滅菌手袋) 吸引セット 閉鎖式吸引カテーテル洗浄ボトル ・滅菌精製水または生理食塩水・清浄綿 ・手指消毒用アルコール ・聴診器 循環モニター (HR、BP、 SpO2を表示できるもの)

※アルコール禁忌の場合は、医師に確認のうえクロルヘキシジングルコン酸塩含浸綿などに変更する

 

まずは必要物品を準備し、個人防護具を着用します。

 

吸引は苦痛を伴う処置です。患者さんの意識の有無にかかわらず、「これからチューブを挿入して痰を取ります」などの声をかけ、しっかりと同意を得るかかわりをすることが大切です。

吸引中は発声が困難になるため、苦しいときは手を挙げてもらうなど、合図を決めておくのも良いでしょう。

 

患者さんの体位は口腔内から気道がまっすぐになる、気道確保の姿勢に整えましょう。

 

ここをチェック!

閉鎖式吸引カテーテルの選択は患者さんによって異なりますカルテで前回実施時に使用した物品などを確認のうえ、準備してくださいね。

閉鎖式吸引カテーテルの選択 太さ 挿管チューブの内径1/2以下の 外径のカテーテルを使用する 挿管チューブ 閉鎖式 吸引カテーテル 挿管チューブの 内径 閉鎖式吸引カテーテル の外径 1/2以下 挿管チューブ (mm) 吸引カテーテル (Fr) 6.0~7.0 8~10 7.0~8.0 10~12 8.0~9.0 12~14 長さ 気管内挿管と気管切開で 選択が異なる < 気管内挿管用(長い) > < 気管切開用 (短い) >

 

閉鎖式気管内吸引の実施手順&コツ

閉鎖式気管内吸引の手順&コツを見ていきましょう!

 

閉鎖式吸引カテーテルの各名称をおさらい! 閉鎖式吸引カテーテルの各名称をおさらい!

閉鎖式吸引カテーテルって、 どんなもの? カテーテルとスリーブ 吸引管装着部 洗浄ポート コントロール バルブ フレックスコネクタ 人工呼吸器 回路装着部 洗浄水ボトル ダブルスイーベルエルボ (気管カニューレ装着部)

 

 

1) 口腔内・カフ上部の分泌物を除去する

垂れ込み防止のため、事前に吸引を行う 口腔内吸引 カフ上部吸引 ※ ※吸引ポートがあれば、シリンジでカフ上部の分泌物を除去する

物品や環境の準備ができたら、口腔内・カフ上部の分泌物を除去します。

 

分泌物が多い患者さんは、口腔内・カフ上部にも分泌物の貯留がよくみられます。この分泌物が気管支の末梢に垂れ込まないように、事前の吸引が必要です。

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2) カフ圧を調整する(20~25cmH2O)

20~25cmH2O やや高めの30cmH2Oに設定することで少し空気が 漏れても適切なカフ圧を保てる

吸引前にカフ圧を20~25cmH2Oに調整します。カフ圧を調整する目的は、口腔・カフ上部吸引と同様に分泌物の垂れ込みを防止するためです。


カフ圧の調整の際、三方活栓を外すと空気が漏れてカフ圧が低下することがあります。

 

空気漏れを見越してやや高めの30cmH2O程度にしておくと、ちょうどよい圧を保つことができますよ。

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3) 吸引圧を設定し、カテーテルを装着する

吸引圧は 20kPa (150mmHg) に設定。通水を確認。コントロールバルブを接続する

次に、吸引圧を20kPa(150mmHg)以下に設定し、吸引カテーテルに通水します。通水できない場合は、吸引セットのチューブの接続や、配管などに異常がないかを確認しましょう。

 

通水に問題なければ、閉鎖式吸引カテーテルとコントロールバルブを接続してください。

 

ここをチェック!

「分泌物が引けないから…」と吸引圧を高く設定するのは絶対NG! 気管壁の損傷・出血、低酸素血症、肺胞破裂…などのリスクがあり、20kPa(150mmHg)を超えないように推奨されています(気管吸引ガイドライン2023)。


 もしもうまく引けないときは、あらためて加湿や体位ドレナージを実施してから、時間を置いて吸引を再トライしてみましょう。

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4) コントロールバルブを180°回転させ、ロックを解除する

コントロールバルブを180°回転させ、ロックを解除する

接続ができたら、コントロールバルブを少し持ち上げ、180°回転させてロックを解除します。

 

コントロールバルブを押して、吸引圧がかかるかを確認しましょう。

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5) 吸引カテーテルを挿入する

カフ 2~3cm 挿管チューブのメモリとカテーテルが 重なったところから2~3cm挿入する・挿管チューブ 閉鎖式吸引 カテーテル 接続部をしっかり持ち 挿管チューブを押し込まない

機材の準備ができたら、患者さんに声をかけて吸引カテーテルを挿入します。

 

カテーテルの接続部は外れやすいので、特に挿管チューブと吸引カテーテルの接続部をしっかりと持って挿入しましょう。

 

吸引カテーテルの挿入は、挿管チューブの先端から2~3cmまでです。それ以上深く挿入すると、粘膜損傷のリスクがあるので、注意してください。

 

ここをチェック!

患者さんの挿管チューブが何cmで固定されているのか? 挿管チューブは気管分岐部まで何cmのところにあるのか? を要チェック!

事前にカルテやX線データを確認してから吸引してくださいね。

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6)吸引する

コントロールバルブを押して、吸引圧をかけながら、吸引カテーテルを黒マーカーの適正位置まで引き抜きます。引き足りなかったり引きすぎたりすると、洗浄水や空気が入ってしまうため、注意してください。    このとき、挿管チューブも一緒に抜かないように接続部はしっかりと持ちましょう。    挿管チューブに対して斜めに引き抜くと接続が外れやすいため、できるだけまっすぐに引き抜くのがポイントです。

コントロールバルブを押して、吸引圧をかけながら、吸引カテーテルを黒マーカーの適正位置まで引き抜きます。引き足りなかったり引きすぎたりすると、洗浄水や空気が入ってしまうため、注意してください。

 

このとき、挿管チューブも一緒に抜かないように接続部はしっかりと持ちましょう

 

挿管チューブに対して斜めに引き抜くと接続が外れやすいため、できるだけまっすぐに引き抜くのがポイントです。

 

ここをチェック!

吸引カテーテルを引き抜くときに角度がついてチューブが折れてしまうと、吸引圧が下がってしまいます。

十分な吸引効果を得られないだけでなく、患者さんの負担にもつながるので、まっすぐ引き抜きましょう。

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7)吸引後、観察を行う

吸引後の観察項目 痰の量、性状 ・呼吸音 ・呼吸回数・呼吸パターン SpO2モニター波形 ・・・など

吸引を終えたら、患者さんに終了の声をかけ、痰の量・性状(粘度、色、出血など)、バイタルサイン、モニター波形、呼吸・循環の状態…などを観察しましょう。

 

吸引前の状態と比較して、バイタルサインの異常や、呼吸・循環状態が不安定な場合は速やかに医師に報告してください。

 

痰が残っていて再度吸引が必要な場合は、呼吸・循環が十分に回復していることを確認し、吸引を実施してくださいね。

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8)吸引カテーテルを洗浄する

吸引カテーテルの洗浄手順 1洗浄水ボトルを洗浄ポートに接続する 2 コントロールバルブを 押しながら洗浄水を注入する 3 洗浄水ボトルを外し、 ポートの消毒・キャップをする

吸引が終了したら、吸引カテーテルが適正位置(黒マーカー)にあることを確認し、洗浄水ボトルを洗浄ポートに接続します。

 

カテーテル内を洗浄するため、コントロールバルブを押して洗浄水(滅菌精製水または生理食塩水)を5~10mLほど注入・洗浄します。

 

洗浄できたら、洗浄水ボトルを外してポートを消毒後、キャップをして完了です。
 

ここをチェック!

黒マーカーの部分までしっかり吸引カテーテルを引かないまま洗浄を行うと、気管に洗浄水が流れ込んでしまうことがあります。

必ず適正位置まで引き抜いているか、確認しましょう。

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9)コントロールバルブをロック後、カテーテルの接続を外す

コントロールバルブを少し持ち上げながら、180°回して元の位置に戻します

洗浄が済んだら、コントロールバルブを少し持ち上げながら、180°回して元の位置に戻します。コントロールバルブの位置を戻したら、必ずロックがかかっていることを確認してください。

 

吸引カテーテルを外した後、キャップをしたら、機材を片付けて終了です。

 

患者さんの体位、周囲の環境を整え、再度吸引が終わったことを伝えて退室してください。

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おわりに

人工気道を使用している患者さんは、呼吸だけでなく循環も不安定なことも多くあります。

実施するときは、常に患者さんの状態を観察・評価し、患者さんを気づかうことを忘れずに行いましょう。

 

編集:看護roo!編集部 小園知恵(看護師)

 

執筆

新東京病院看護部、集中ケア認定看護師。日本クリティカルケア看護学会、日本集中治療医学会所属。看護関連書籍の執筆をはじめ、急性期看護ケア、せん妄ケア、集中治療後症候群(PICS)予防に特に注力している。

 

参考文献

  • Blakeman, T. C., Scott, J. B., Yoder, M. A., Capellari, E., & Strickland, S. L. (2022). AARC clinical practice guidelines: Artificial airway suctioning.(pp. 258-271). Respiratory Care, 67(2) . 
  • 井上智子(2019).第3章診療に伴う技術G吸引.阿曽洋子・井上智子・伊部亜希編. 基礎看護技術 (8), (pp. 399-401). 医学書院.
  • 気管吸引ガイドライン2023〔改訂第3版〕(成人で人工気道を有する患者のための).(pp. 34-35). (2024-10-17アクセス)
  • 本庄恵子・三浦英恵・仁昌寺貴子・田中孝美(2020).CHAPTER3口腔鼻腔吸引.本庄恵子・吉田みつこ監修. 写真でわかる臨床看護技術②アドバンス 呼吸・循環、創傷ケアに関する看護技術を中心に! (新訂版).(pp. 53-63). インターメディカ.
  • 道又元裕・露木菜緒(2018).吸引.医療情報科学研究所編 . 臨床看護技術. (pp. 188-201). メディックメディア.
  • 道又元裕(2012).正しく・うまく・安全に気管吸引・排痰法.(pp. 34-35). 南江堂.

 

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