砕石位|手術室で多くとられるポジショニング③
『写真でわかる看護技術 日常ケア場面でのポジショニング』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は手術室で多くとられる砕石位のポジショニングについて解説します。
山中直樹
綜合病院山口赤十字病院内視鏡外科部長
●砕石位(截石位[せっせきい]とも言う)は、肛門直腸外科、婦人科、泌尿器科などで広く行われている。
●両下肢を挙上して固定するが、術式や体型、手術難易度により下肢の固定位置、方法、固定時間が変わる。
●下肢挙上による神経障害や殿部皮膚のずれ力の発生、腹部の圧迫に注意する。
砕石位のポジショニングのポイント
- 術前体位をとったあと、あらかじめ砕石位をとり、局所に圧が過度にかからないことを確認して、ずれ力を低下させるため殿部を置き直す。
- 術中は、会陰部操作をするとき以外は砕石位を解除することが肝要である。不必要な砕石位の継続は、下肢神経麻痺、下肢コンパートメント症候群などの発生頻度を高める1)。
- 過度の股関節の屈曲、下肢の挙上を避ける。股関節は左右対称に開脚し、外転は45度以下におさえる(図1)。
- 術中は、下肢を定期的に観察する。
図1 術中の股関節の角度
目次に戻る
砕石位のポジショニングの進め方
1 手術台の準備(図2)
①圧分散用具を置く
「低反発ウレタンフォーム(ここではソフトナース®)」を置き、シーツをかける。
レビテーター(下肢挙上器具)を取りつける。腕枕を圧分散タイプに変更する。
2 仮の体位決め(図3)
①殿部を合わせる
麻酔導入後に身体を持ち上げて足側に移動し、下肢部分が外れる部位に殿部を合わせる。
尾骨先端が手術台下端になるように合わせる。
②両下肢を置く
両下肢を挙上器具に載せる。片脚ずつ載せると坐骨神経の過伸展を招く恐れがあるため、両脚を同時にゆっくりと載せたほうがよい2)。
心疾患がある場合は、静脈還流の急激な増加を防ぐため、片脚ずつゆっくりと下肢挙上器(レビテーター)に載せる。
3 下肢固定(図4-①、図4-②)
①下肢を固定
踵部をブーツの踵部分に合わせる。
このとき下腿後面に圧がかからないようにする。下腿を圧迫すると伏在神経麻痺をきたすことがあり、また腓骨小頭部を圧迫すると腓骨神経麻痺をきたす恐れがあるため、腓骨小頭部への接触を避けるよう固定する。
②レビテーターの固定を確認し、開脚位をとる
手術開始時のレビテーターの位置は、股関節の屈曲角度は10度程度とし、膝関節は軽度屈曲とする。
足関節は0度~軽度の尖足となるようにする。膝関節の伸展と股関節の屈曲を同時に行うと坐骨神経に牽引負荷がかかるため、膝関節、股関節ともに屈曲させる。
手術時は、左右対称に開脚させ、股関節の外転は45度以下にする。下腿挙上で下腿の動脈圧が低下するため、足背動脈の血流を確認し、下腿血流障害の有無を確認しておく。
体位をとったあとにあらかじめ下肢を挙上してみる。砕石位にすると両膝が屈曲するため、下肢挙上時にも下腿後面や腓骨小頭部が圧迫されていないかを確認する。
下肢コンパートメント症候群予防のため、弾性ストッキングや間欠的空気圧迫法は用いないほうが安全という報告もある3)。
コンパートメント症候群とは、筋肉と骨とに囲まれた区域(コンパートメント)の内圧が上昇し、循環障害や神経障害をきたすもので、重篤な機能障害を残す可能性があります。診断上、強い局所の疼痛、筋力低下、知覚低下などの自覚症状で見つかることが多いため、周術期には注意を要します。
発症率は3,500人に1人と報告されており4)、危険因子として、4時間以上の手術、砕石位、頭低位、下肢の筋肉量、下肢保持器、肥満、動脈硬化、脱水、低血圧、血管収縮剤の使用などが挙げられます。
弾性ストッキングや間欠的空気圧迫法は危険因子とする報告がある一方で、否定的な報告もあり見解は一致していません5)。
予防として、3~4時間おきに砕石位を解除することが勧められています6)。
4 殿部固定(図5)
①体圧への注意
砕石位では殿部の接触面積が減少し、殿部にかかる体圧が仰臥位より限局的に高くなる。
会陰部操作のため殿部に補助枕を入れることもあり、厚みのあるウレタンフォーム系か、底付き予防効果の高いゲル系の体圧分散用具を用いるとよい。
下肢挙上時に殿部皮膚にずれ力が生じるため、あらかじめ下肢を挙上させて殿部の置き直しをする2)。また、底付きをチェックする。
5 上肢固定
砕石位では通常、両上肢は手台に乗せて体側から離す。その際、上肢の外転は90度以下とし、前腕は回外位または中間位にする。
肘から前腕にパッドを挿入するか、圧分散タイプの腕枕を用いる。肘関節は軽度屈曲させる。
目次に戻る
引用文献
1)Heppenstall B, Tan V.Well leg compartment syndrome. Lancet 1999;354:970.
2)田中マキ子,中村義徳 編著:動画でわかる手術患者のポジショニング.中山書店,東京,2007:72-79.
3)Turnbull D, Mills GH.Compartment syndrome associated with the Lloyd Davis position. three case reports and review of the literature. Anaesthesia 2001;56(10):980-987.
4)Mumtaz FH, Chew H, Gelister JS. Lower limb compartment syndrome associated with the lithotomy position:concepts and perspectives for the urologist. BJU Int 2002; 90: 792-799.
5)Pfeffer SD, Halliwill JR, Warner MA. Effects of lithotomy position and external compression on lower leg muscle compartment pressure. Anessthesiology 2001; 95: 632-636.
6)井上重隆,宮坂義浩,西岡泰信,他:腹腔鏡補助下腹会陰式直腸切断術後に生じた下肢コンパートメント症候群.臨床と研究 2009;86:633-636.
参考文献
1)田中マキ子 編:ポジショニング学 体位管理の基礎と実践.中山書店,東京,2013:165-166.
本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『写真でわかる看護技術 日常ケア場面でのポジショニング』 編著/田中マキ子/2014年8月刊行/ 照林社