ベティ・ニューマンの看護理論:システム・モデル

『新訂版 実践に生かす看護理論19 第2版』(サイオ出版)より転載。
今回はベティ・ニューマンの看護理論「システム・モデル」について解説します。

 

城ヶ端初子
聖泉大学大学院看護学研究科 教授

 

 

 

Point
  • ニューマンのシステムモデルは、クライエントおよびクライエントシステムを多面的にとらえるものであり、全人的なアプローチである。
  • クライエントは、開放システムで動的なものであり、環境と絶えず相互作用を続けるものである。
  • 人間の基本的構造は柔軟な防御ライン、通常の防御ライン、抵抗ラインによって取り囲まれており、ストレスの侵入と対抗していくものである。
  • 看護は、クライエントあるいはクライエントシステムのストレスに対する反応の程度に合わせて介入を行い、健康の良好な状態を達成しようと働く、ユニークな専門職である。
  • ニューマンの看護過程は、看護診断、看護目標、看護の結果の3段階から成り立っている。
  • ニューマンのシステムモデルは、看護実践、教育、管理および研究の領域で活用できる柔軟で有用なものである。世界各国で活用され、普遍的で応用性に富むという評価を受けている。

 

ベティ・ニューマンの看護理論

ニューマンの「システムモデル」は、いくつかの分野からの知識の統合と、彼女の哲学的信念から、全体論的なシステムに発展させていく力がある。

 

さらにニューマンは、このモデルのなかで、施設や地域での臨床経験から得た集団知識論に加え、精神保健看護学の知識も取り入れている。システムやストレスに関する点からも、このモデルを発展させたのである。

 

ニューマンの「システムモデル」は、一般システム理論を基礎にしている。これは、人間や組織のように複雑なものでも、外部環境との間に物質の交換をしている開放システムであるととらえる考え方である。

 

開放システムである有機体は、さまざまな要素と相互作用しながら生きている。

 

このモデルは、健康はさまざまな条件下で有機体がホメオスタシスの平衡を維持する過程であるとする、ゲシュタルト理論に導かれている。

 

すなわち、クライエントが取り巻く環境と相互に作用することによって、平衡状態(安定性)が保たれると考えるのである。

 

また、クライエントは、個人、家族、地域社会などの個人や集団、社会という単位を指している。

 

 

ニューマンは、有機体がニードを充足する過程を適応とみなし、有機体の平衡状態が保たれれば健康である、とした。

 

反対に、ニードが充足できなくなったとき、有機体内の均衡が保ち得なくなったときは、不健康な状態になる。

 

さらに、修復過程がうまく働かなくなれば、やがて死をもたらす結果になる。

 

また、ニューマンは、このモデルのなかで、セリエ(H.Selye)のストレス学説、ド・シャルダン(P.T.de Chardin)やプット(A.Putt)の「生命体は常に安定性を保持し発展するエネルギーの動きもある」という概念、キャプラン(G.Caplan)の予防レベルの概念のほか、ラザルス(R.S.Lazarus)やフォン・ベルタランフィ(L.Von Bertalanffy)らの考え方などを取り入れ、より一層ニューマン・システムモデルを発展させていった。

 

ニューマンは、看護はクライエントとさまざまな要素が相互に作用していることから、看護を1つのシステムとみなした。

 

部分と部分、あるいは部分と全体に相互に影響し合っていることや、環境との相互作用をとらえ、全体は部分との相互作用で成立するもので、分割が不可能なシステムであると考えたのである。

 

そして、クライエントは、常に環境との間で互恵的な関係をもっており、ここにニューマンの哲学的信念である「人は互いに助け合って生きる」という考えが、合致したのであった。

 

 

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ニューマン・システムモデル

ニューマンのシステムモデルは、ストレスとストレスに対する反応が主要な要素になる。

 

このモデルでは、クライエントはインプットとプロセス、アウトプット、フィードバックを繰り返す、動的かつ有機的で、循環するパターンをもつ開放システムであるととらえられている(図1)。

 

図1ニューマン・システムモデル

出典:ベティ・ニューマン、野口多恵子ほか監訳:ベティ・ニューマン看護論、医学書院、1999より改変

 

 

この開放システムで、人間は成長・発達あるいは生存していくなかで、次第に複雑なものになっていく。

 

さらに、それに伴って内部の規制も複雑化する。クライエントは、環境と相互に物質やエネルギー情報を交換しており、システムが環境に影響を与えるか、あるいは環境がシステムに影響を与えるかしながら、両者がバランスをとっていく。

 

開放システムであるクライエントシステムは、内側や外側からのさまざまな力が作用しバランスを保ち、システムを保持しようとするのである。

 

このように、システムが安定してくると回復が始まるのである。

 

 

このクライエントシステムには、構造的な基本になる中核が存在する。

 

クライエントシステムの中核になる基本構造は、外側から柔軟な防御ライン、通常の防御ライン、そして抵抗ラインの同心円で取り囲まれている。

 

柔軟な防御ラインは最も外側の破線で表されている。これはストレッサーが通常の防御ラインを突破するのを防ぐための役割をもつ。

 

何らかの変数(たとえば、体調不良や睡眠不足など)で影響を受け、クライエントがもつ力を低下させたりするのである。

 

通常の防御ラインは、抵抗ラインの外側の実線で示される。クライエントの平衡状態になる良好状態が、どこにあるのかを表している。

 

抵抗ラインは、最も内側の破線で示される。これは、ストレッサーに対する防護をするうえで有用な内的要因を示すものである。

 

たとえば、創傷が化膿したことに対して、白血球が総動員される。外からのストレッサーを柔軟な防御ラインで阻止できず、通常の防御ラインを突破すれば何らかの反応を起こすことにつながるのである。

 

クライエントが生存するために必要な要因には、人間に共通のものやその人独自のものが含まれている。

 

その要因には、生理学的要因、心理学的要因、発達的要因、社会文化的要因、霊的要因の5つがあり、これらは変数の複合体で、互いに相互作用を起こしながら、安定を保とうとしているのである。

 

生理学的要因とは、身体構造と機能のことで、心理学的要因は心の働きと精神機能のことである。

 

また、発達的要因とは、生涯にわたって成長を続ける過程であり、社会文化的要因は、社会的、文化的な活動に関連するシステムである。

 

また、霊的要因とは精神的な信念などからの影響である。

 

ストレスは、このクライエントシステムの5つの要因に何らかの影響を及ぼし、不安定な状態を引き起こす原因になる。

 

ストレスには、クライエントシステムの内部環境から生み出されたものや、外部環境から生み出されたもの、および外部環境と相互作用の結果生み出されたものの3種類がある。

 

クライエントは、ストレス刺激によりクライエントに備わっている3つのメカニズム(柔軟な防御ライン、通常な防御ライン、対抗ライン)においてストレスに対抗することをとおして、安定性を保持していく。

 

反応の程度は、ストレッサーの刺激を受けた後に起こるクライエントの不安定な状態の程度・大きさによって示される。

 

したがって、看護とはクライエントシステムのストレスに対する抵抗性を強化したり、ストレスの侵入を防ぐために、どのように支援すればよいかを考え、行動することである。

 

援助行動をする際には、クライエントシステムの安定性を保持し、最良の健康状態が維持できるようにすることが大切なのである。

 

 

ニューマンは、クライエントシステムのどの部分に働きかけるかによって、安定性を維持するための看護介入方法を、1次予防、2次予防、3次予防に分けた(それぞれの予防については、概念と定義の「予防介入(prevention as intervention)」の項を参照)。

 

以上のように、ニューマン・システムモデルは、システム理論に基づいてストレッサーに対して反応する開放システムととらえたものである。

 

また、人間の基本的な中核構造は、柔軟な防御ライン、通常の防御ライン、抵抗ラインで取り巻かれており、これらはストレッサーの影響と戦うのである。

 

さらに、クライエントが示すストレッサーの反応の程度によって、看護師は1次介入、2次介入、そして3次介入を行って対応していくのである。

 

 

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ニューマン・システムモデルの主要概念と定義

安定状態(stability)

stabilityとは、直訳すると「バランス」「調和のとれた状態」という意味である。

 

ここでは、クライエントがストレッサーに適切に対処することによって、健康レベルを保持・獲得・維持するためにエネルギー交換をし、統合を保つことである。

 

 

入力(インプット)/出力(アウトプット)(input/output)

クライエントシステムと環境との間で交換される物質やエネルギー、情報である。すなわち、システムに入れるものと出て行くものである。

 

 

健康な状態/不健康な状態(wellness/illness)

ウェルネス(wellness)とは、クライエントシステムの各部分と下位部分のすべてが全体システムと調和している状態。

システムの要求に対応できている状態である。

 

一方、イルネス(illness)は、クライエントシステムの部分と下位部分の間に調和がとれていない状態のことである。

まだ、対処されていないニードが存在する状態である。

 

 

エントロピー(entropy)

システムの不健康状態や、エネルギーの消耗と崩壊の過程である。

 

 

開放システム(open system)

インプットとプロセス、アウトプットとフィードバックという連続したシステムであり、これらの要素が相互に作用し合う、複雑なシステムである。

 

ストレスとその反応が解放システムの基本的な構成要素である。

 

 

過程/機能(process/function)

環境との物質やエネルギー、情報交換の場である。

 

クライエントは環境と適応することをとおして環境と相互作用し、あるいは環境をシステムに適応させたりする。

 

 

環境(environment)

いかなるときも、開放システムであるクライエントに影響を与え、クライエントからも影響を受ける内部および外部の影響力からなる。

 

 

看護(nursing)

クライエントに影響するすべての変動要素にかかわるユニークな専門職である。

 

 

基本構造(basic structure)

クライエントに共存するために必要な要素と個人の固有な特徴から形成されており、システムの基本的なエネルギー源である。

 

 

境界ライン(boundary lines)

柔軟な防御ラインは、クライエントシステムの外側の境界である。

 

 

クライエント/クライエントシステム(client/client system)

人間は、クライエントあるいはクライエントシステムである。

 

クライエントは、人間に敬意を払う場合に使う。

 

クライエントシステムは、1人の人間だけではなく、家族、集団、地域社会も含まれる。そのため、これらはすべて看護の対象になる。また、クライエント、クライエントシステムはともに1つのシステムである。

 

クライエントあるいはクライエントシステムは、5つの変数(生理学的・心理学的・社会文化的・発達的・霊的)から成り立ち、各々はすべての部分の下位にあり、それがクライエントの全体を形成している。

 

また、クライエントは、生存のための基本構造と、それを取り巻く防御的な同心円の輪から構築されている。

 

 

健康(health)

健康は、健康状態(wellness)と不健康状態(illness)の連続体であり、常に変化するダイナミックなものである。

 

 

再構築(reconstitution)

内部・外部環境のストレッサーに適応した状態である。つまり、ストレス反応に対処し、システムが安定し、維持することである。

 

 

柔軟な防御ライン(flexible line of defense)

このモデルの外側の破線円で示されている。それは、ダイナミックで速やかに変化しうるものであり、ストレッサーが防御の実線を侵入することを防止する役割をもつ。

 

 

通常の防御ライン(normal line of defense)

抵抗ラインの外側の実線で示されており、クライエントまたはクライエントシステムにとっては健康の適応レベル状態である。

 

 

抵抗ライン(line of resistance)

核になっている基本構造を取り巻く破線で示されており、ストレッサーが通常の防御ラインをとおり越したときに、活性化する要因である。

 

 

ストレッサー(stressors)

クライエントシステムの境界で生きる緊張を生み出す刺激であり、環境要因や人間内部、人間間、人間外部にあるシステムの安定性を破壊する力をもつ。

 

 

全体性の概念(holistic concept)

クライエントは、その部分がダイナミックに相互作用し合う関係にある全体システムとみなされる。

 

 

内容(content)

内的・外的環境と相互作用している人間の5つの不定要因(生理学的・心理学的・社会文化的・発達的・霊的)で、クライエントという全体的システムを構成している。

 

 

負のエントロピー(negentropy)

安定性やより高い健全状態に向けて、システムを前進させる組織化と複雑性を大きくするエネルギー保存の過程である。

 

 

反応の程度(degree of reaction)

反応の程度は、ストレッサーの侵入によって起こるすべてのシステムの不安定さを示す。

 

 

フィードバック(feedback)

物質・エネルギー・情報がアウトプットとして出力するが、そのシステムの変化・増強・安定させたりする修正作用である。

 

 

目標(goal)

システムの目標は、クライエントの生存と最適な健康状態を得るための安定性にある。

 

 

予防介入(prevention as intervention)

クライエントがシステムの安定性を保持できるように援助する行動でニューマンは、3つの介入レベルを明確にしている。

 

  • 1次予防:システムがストレッサーに反応する前に行われる。
  • 2次予防:システムがストレッサーに対して反応が起きた後に行う介入あるいは、処置である。
  • 3次予防:システムが積極的な処置あるいは第2次予防段階の後に行う。

 

これらは、クライエントシステムの最適な健康状態を維持するための再調整にある。

 

 

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ベティ・ニューマンの看護理論から得るもの

ニューマンのシステムモデルは、包括的で、しかも動的なモデルであり、クライエントを環境と相互作用する開放システムであると考えていることなどから、クライエントを多面的にとらえることができる。

 

クライエントのもつ問題を明確に把握したうえで、全人的なケアを可能にするものである。

 

また、ニューマンのシステムモデルでは、ストレスおよびストレスの軽減を扱っている。

 

ストレスには3種類あることは前述したが、そのストレスは何であるのか、システムのどの部分に侵入しているのかを明確にしている。

 

ストレスがクライエントに刺激を与えたり、侵入することに対しては、3つのメカニズム(柔軟な防御ライン、通常な防御ライン、抵抗ライン)で段階的にストレスに抵抗し、安定性を保つことができるのである。

 

看護介入では、クライエントの安定性を保持・獲得できるようにして最良の健康状態にすることが必要なのである。

 

このような看護介入では、ストレスの種類やクライエントの状態によって、2次予防から3次予防のいずれかの方法をとってストレスの軽減および除去をはかることが可能になる。そのうえで看護目標を立て、看護介入していくのである。

 

さらに、看護介入の結果、介入方法は適切だったか、最良の健康状態を確保できたかどうか、そしてクライエント自身が看護介入をどのようにとらえているのかなど、評価していくことが可能である。

 

このようにみても、ニューマンのモデルは臨床看護や看護教育に適用できることがわかる。

 

また、看護研究分野でも、モデルの有効性と有益性が確認されており、これからの研究活動や知識体系に寄与するものであると考えられている。

 

今後、包括的なシステム志向をするうえで、看護師に大きな力を与えてくれる理論なのである。

 

 

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看護理論のメタパラダイム(4つの概念)

1人間(クライエント/クライエントシステム)

ニューマンは、人間をクライエントあるいはクライエントシステムと表現している。

 

クライエントは、1つのシステムなので、クライエントシステムと置き換えが可能である。

 

ただしクライエントは、ケア提供者と協力し合う関係にあることを意味する場合に用いられる。

 

一方、クライエントシステムは、1人の人間ではなく家族・集団・社会を対象にするときに使われている。

 

いずれにしても、ニューマンはクライエントおよびクライエントシステムを1つのシステムであるととらえている。

 

しかも、このモデルは包括的であり、多面的で動的なシステムであるとしているのである。

 

人間は基本的構造と生理学的・心理学的・社会文化的・発達的および霊的な変数(5つの変数)で構成されており、これらは常に環境と相互作用しているのである。

 

5つの変数とは、次のようなものである。

 

1生理学的変数(physiological variable)

身体の構造や機能に関すること

 

2心理学的変数(psychological variable)

精神面の変化の過程や関係性に関すること

 

3社会文化的変数(sociocultural variable)

社会と文化の側面からの機能に関すること

 

4発達的変数(developmental variable)

発達段階に関すること

 

5霊的変数(spiritual variable)

クライエントがもつ信念や価値観などに関すること

 

クライエントあるいはクライエントシステムの中心にある基本構造は、図1にあるように3つの円で囲まれている。

 

図1ニューマン・システムモデル(再掲)

出典:ベティ・ニューマン、野口多恵子ほか監訳:ベティ・ニューマン看護論、医学書院、1999より改変

 

3つの円は外側から柔軟な防御ライン、通常の防御ラインおよび抵抗ライン、中心に基本構造がある。

 

各ラインの働きは、それぞれ異なるものである。基本構造は、クライエントシステムの中心にあり、生きていくために必要になる身体の正常な働きや価値観、信仰などが含まれている。

 

柔軟な防御ラインは、システムの最も外側にあり、破線で表現されている。ストレスの侵入を最初に防ぐ役割をもっている。

 

通常の防御ラインは、柔軟な防御ラインの内側にあり、実線で表現されている。

 

抵抗ラインは、基本構造を取り囲む破線で表現された円で、ストレスが外側にある通常の防御ラインを突破して侵入すると、活動を開始する。

 

もし、このラインでストレスの侵入を抑制できれば、システムの再構成が行われてシステムが回復していく。

 

しかし、逆にシステムがストレスの侵入を抑制できず侵入を許せば、システムの働きが弱くなり、死をまねくことにもなりかねない。

 

 

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2環境

ある状況における人間を取り巻く内的・外的な作用が環境を形成している。

 

環境は、人間を取り囲み、相互に作用し合うすべての内的・外的要因である。このように人間と環境は、互恵的な関係にあるので、一対で取り扱われる。

 

ストレッサー(人間内部、対人的、人間外部)は相互に作用して、システムの安定性を変化させるものとみなされる。

 

環境には、内的環境、外的環境、および作り出された環境(created environment)がある。

 

内的環境は、すべての相互作用がクライエント、あるいはクライエントシステムの内部に含まれる環境である。

 

外的環境はすべての相互作用がクライエント、あるいはクライエントシステムを取り囲む外部の環境である。

 

作り出された環境とは、クライエントあるいはクライエントシステムが、内的・外的環境と相互作用することによって保護的な対処をするためにシステムを統合し、安定性を保持していくことである。

 

 

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3健康

ニューマンのシステムモデルでは、健康は良好な状態(wellness model)あるいはシステムの安定性であると述べている。

 

この良好な状態と不健康な状態は連続しており、絶えず変動する動的なものであるととらえている。

 

 

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4看護

看護は、ほかに類をみないユニークな専門職業であり、人間に影響を及ぼすすべての変数とかかわる仕事である。

 

また、人間の全体性にかかわる職業でもある。

 

また、看護は人間・家族・集団・社会を助け、最高レベルの良好な状態を達成しようとする活動である。

 

看護にとって大切なことは、クライエントあるいはクライエントシステムのストレッサーに対する反応をアセスメントし、良好な状態に適応することを助けることである。

 

ストレッサーを軽減させるために、看護介入としてクライエントの状態に合わせて第1次、2次、3次介入できるように助けるとともに、クライエントと環境からのストレッサーの間で、クライエントシステムが安定するように保持、獲得、維持に向けて援助することである。

 

ニューマンのモデルによれば、看護のステップは、看護診断、看護目標、看護の結果の3段階から成り立っている。

 

さらに、ニューマンのシステムモデルは、看護実践、教育、管理および研究の領域で活用できる柔軟で有用なものである。

 

世界各国で活用され、普遍的で応用性に富むという評価を受けている。

 

 

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看護理論に基づく事例展開

ベティ・ニューマンと看護過程

ニューマンの看護理論は、3段階(看護診断、看護目標、看護の結果)から成り立っている。

 

これは、一般的に看護過程とされている5段階(アセスメント、診断、計画立案、実施、評価)に対応するものである。

 

 

1看護診断

看護過程の第1段階では、データベースを用いて必要な情報を収集し、逸脱した状況から良好な状態に向けてどのように対応すればよいか、考えを発展させていく。

 

クライエントのストレッサーに対する顕在的または潜在的な反応をみるために、「アセスメントと介入のためのツール」(1995)を活用することも可能である。

 

看護は、柔軟な防御ラインや通常の防御ラインを良好な状態に維持することをめざしていくのである。

 

また、この段階ではアセスメントと問題の確定が行われる。

 

 

2看護目標

クライエントあるいはクライエントシステムの安定性を保持・獲得・維持するために、看護師とクライエントがともに看護目標を設定していく点が特徴である。

 

看護者の目標は、クライエントあるいはクライエントシステムが、現在の状況を乗り越えるための力を用いることができるよう、良好な状態を保持していけるように援助することである。

 

また、この段階は、ほかの看護過程でいうところの計画立案段階と同様である。

 

 

3看護の結果

看護過程の第3段階で、予防としての看護介入から期待した結果の確認、あるいは看護目標の再検討を含めて、看護過程全体を評価する。

 

この評価で得たものをフィードバックし、次の短期・中期目標に生かしていくことになる。

 

この段階は、ほかの看護過程でいう看護の実施、評価段階と同様である。

 

なお、看護の実践は、介入の予防レベルを設定して行われるものである。

 

 

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胃がんの疑念を捨てきれない胃潰瘍の男性の事例

 

事例

Aさん、40歳、男性。大企業であるコンピューター関係会社社員(係長)。
B市郊外の一戸建ての家に妻(37歳)と息子(14歳)の3人暮らし。
妻は、半年前より近くのスーパーマーケットでパートタイマーとして働く。
Aさんは、細かい作業が多い仕事柄、日頃から「疲れる」と口癖のようにいっている。家庭では息子の進学を控えており、心身ともに疲れを感じていた。そんな折、これまで健康に自信をもっていたAさんは、体調も悪いので、初めて会社の健康診断を受診することにした。
すると2週間後、精密検査を受けるようにという診断結果が届いた。Aさんは、自分は胃がんではないかという疑念をもった。
精密検査の結果、初期の胃潰瘍と診断されたが、Aさんは胃がんの疑念を捨てきれず悩んでいた。
ある日Aさんは、仕事中に気分が悪くなり、職場の保健室に運ばれた。保健師はAさんの心身の状態を確かめながら、現在の最も大きな悩みを把握することができた。そこで、胃がんではなく初期の胃潰瘍で、外来での治療を受ければよいことを説明したが、Aさんは納得したようにはみえなかった。
数日後に再度面談し、その後の状況を尋ねた。すると、前回の保健師の話を一つひとつ詳細に思い返し、自分の心身状態と照合してみて気持ちが少し軽くなったという。これからも、このような機会をつくることを約束し、面談は終了した。

 

 

1看護診断

Aさんのストレスの原因になっているものは何かを、検討してみる。

 

  • 内的環境:従来から健康には自信があったのに、今回が初めての検診を受けて精密検査が必要と診断された。
  • 外的環境:会社では係長としての役割、受験を控えている息子には父親として、パートタイマーに就業した妻には夫としての役割に関するストレス。
  • 相互作用:健康に関する自信と現実生活の差

 

次に、クライエントシステムの変数についてみていく。

 

  • 生理学的変数:仕事に関する疲労、息子の受験やパートタイマーとして働く妻からくる疲れも影響して、心身の不調をきたしている。ホルモンのバランスの変化が考えられ、生理学的に不安定になってきている。
  • 心理学的変数:健康に関する思いと現実の自分とのズレ。仕事や生活の変化からくる心身の疲労やさまざまなストレスがある。
  • 社会文化的変数:係長としての役割や、夫として父として一家の大黒柱の役割を果たしてきた。
  • 発達的変数:現在の病気(初期の胃潰瘍)が納得できず、胃がんであるという疑念が捨てきれずにいる。
  • 霊的変数:会社の係長として、家庭における父親としての役割が変化していることに対する思いが十分にもちきれずにいる。

 

保健師は、Aさんが精神的・情緒的に不安定な状態にあると判断した。

 

Aさんのストレスシステムの柔軟な防御ライン、通常の防御ラインを越えて、抵抗ラインに侵入し、Aさんに不安定な状態をひき起こしているものと思われた。

 

 

2看護目標

2次予防として、胃がんではなく初期の胃潰瘍であることを納得でき、治療を受け、自分の生活していく方策を知っている。

 

 

・看護計画

①情緒不安定を克服して胃潰瘍の治療を受けることができる。
②健康上の問題が起きたとき、家族や保健師に気持ちを伝えて支援を受けることができるようにする。

 

 

3看護の結果

看護計画に沿って看護を実施する(看護介入)。看護計画にあげた2点に関する介入、およびクライエントの反応から評価していく。

 

・看護計画①

(介入):保健師が面談し、現在のAさんの状況を把握した。
(反応):その結果、Aさんは徐々に胃潰瘍という病気を受け止められるようになった。そこからAさんは、ようやく治療を受ける方向に変化した。

 

・看護計画②

(介入):保健師が相談を受ける方向でAさんを促した。
(反応):その結果、自分から面談を受けるようになり、よい関係を築くことにつながった。

 

 

ベティ・ニューマンについて(詳しく見る) ベティ・ニューマンについて

ベティ・ニューマン(Betty Neuman)は、ストレスとシステムに関する見解を発展させ、システムモデルを開発した。

 

このモデルは、全体論的なシステムの考え方を発展させたもので、その根底には、彼女の「人間はお互いに助け合って生きる」という哲学と、さまざまな看護の場における経験、社会的な体験がある。

 

また、このモデルは、ハンス・セリエ、リチャード・S.ラザルスやルートヴィッヒ・フォン・ベルタランフィなどの考えを活用して、構成されている。

 

ニューマンは、1924年にアメリカ、オハイオ州のロウエル近くの農家で生まれた。

 

家族は、両親と兄、弟の5人で、父親は100エーカー(約40万平方メートル)の広さをもつ農場の仕事に従事していた。

 

ニューマンは、この自然豊かな地で、自然の恵みや大きさ、大切さを学びながら育っていった。

 

そしてこれは後に、看護を志し、弱い立場にある人々へのケアを考える基礎になっていったのである。

 

ニューマンの父親は、慢性腎炎のため6年間にわたって入退院を繰り返し、彼女が11歳のときに37歳の若さで死亡した。

 

父親が病気で治療を受けている間に看護師を賞賛していたことや、助産師だった母親の仕事ぶりをみていたことが、看護師をめざしたことに影響している。

 

高校卒業後しばらくは、経済的な理由から、ニューマンは看護学校に進学しなかった。

 

航空機関の設計者や航空計器の修理技師、コックなど多種多様な職業を経験しながら、進学のための貯蓄と、家族への経済援助を続けた。

 

 

看護への道を踏み出す

1947年、オハイオ州アクロンにあるピープルズ・ホスピタル(Peoples Hospital)、現在のPeoples Hospital Medical Centerの看護学校で、看護師の資格を取得した。

 

その後、ロサンゼルスに移り、病棟看護師、看護師長、学校看護師、産業看護師などの職位に就いた。

 

1954年に、産婦人科医である夫と結婚する。ニューマンは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)に入学して公衆衛生看護学を専攻し、1957年に看護学士を取得した。

 

その後は、1959年頃まで看護師として、また夫の開業を助け、その管理に当たった。

 

1966年、ニューマンはUCLAの修士課程に進み、精神保健学、公衆衛生相談学で修士の学位を取得した。

 

1967年からはUCLAの教員として地域精神保健看護学を教えた。

 

1985年には、パシフィック・ウエスタン大学で臨床心理士の博士号を授与され、精神保健学を看護に取り入れた先駆者の1人であるという評価を受けている。

 

さらに、地域保健学プログラムの開発や教授、ロサンゼルスの地域危機センターを拠点とした看護カウンセラー業務も手がけ、この分野でも先駆者の1人であるといえる。

 

また、彼女は1960年代に、ニューマン・システムモデルの発表に先がけ、精神保健相談のための教育と実践モデルを開発し、1971年に『Consultation and Community Organization in Community Mental Health Nursing』(地域精神保健看護におけるコンサルテーションと地域の組織化)を共著で出版した。

 

ニューマンは、1970年当時UCLAの大学院で人間の生理学的、心理学的、文化的、発達的な側面を教えていた。

 

教え子たちにモデルのツールを用いることによって、その実用性を評価し、さらに発展させたうえで1972年に『Nursing Research』誌に初めてモデルを掲載したのである。

 

ニューマンは、1982年に『The Neuman Systems Model :Application to Nursing Education and Practice』(ニューマン・システムモデル)を出版し、1989年には第2版、1995年に第3版、さらに2001年に第4版が出版され発展し続けている。

 

ニューマンは「システムモデル」の開発後、多くの出版や論文を発表している。

 

また、彼女はUCLAで看護継続教育に携わる一方で、アメリカ結婚・家族セラピスト協会会員としての活動もしている。

 

「ニューマン・システムモデル」は、教育、研究、実践、管理の分野で活用できる柔軟性をもち、看護のあらゆる領域で広く応用できるものである。

 

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本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『新訂版 実践に生かす看護理論19 第2版』 編著/城ヶ端初子/2018年11月刊行/ サイオ出版

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