口腔・鼻腔吸引の手順&コツ|吸引の看護、コレだけ!
執筆:中嶋ひとみ
(新東京病院 看護部、集中ケア認定看護師)
目次
口腔吸引の手順一覧
口腔吸引(ゲージレス吸引器の場合)の手順を、一覧表でチェック!
吸引を実施する前には、事前にバイタルサインの測定を行いましょう。
呼吸状態があまり良くなく、SpO2が95%以下の患者さんの場合、酸素投与をしておくことも大切です。
必要物品・患者、看護師の準備
※アルコール禁忌の場合は、医師に確認のうえクロルヘキシジングルコン酸塩含浸綿などに変更する
まずは必要物品を準備し、個人防護具を着用します。吸引カテーテルは、汚染されて取り替えることが想定される場合は、数本用意しておくとよいでしょう。
吸引は苦痛を伴う処置のため、患者さんから協力を得られるように、吸引する理由や方法などを説明し、しっかりと同意を得るかかわりをすることが大切です。
たとえば、吸引に対して患者さんの不安が強そうなときは、「こわいと思ったときに手でつかめる場所を決めておく」「別の看護師に応援を要請し、患者さんと手を握っていてもらう(抑制ではなく、そばにいる)」などを提案してみるのもおすすめです。
患者さんの体位は、誤嚥を防止するため、頭部挙上(10~15度)をします。鼻腔吸引の場合は、気道確保のときのように、顎を少し挙上させると、より鼻腔内にカテーテルを挿入しやすくなります。
口腔吸引の実施手順&コツ
1) 吸引圧を20kPa(150mmHg)以下に設定し、吸引カテーテルに通水する
まずは吸引圧を20kPa(150mmHg)以下に設定し、吸引カテーテルに通水します。
吸引圧をこれ以上高くすると、気道粘膜損傷を損傷するリスクが高まるため、この数値を超えないようにガイドラインで定められています。患者さんの口腔内の状態によっては、より吸引圧を低くするなどの調整をしましょう。
通水は、以下の2つの目的で行います。
● カテーテル内の分泌物のすべりをよくする
● 吸引器に異常なく吸引できるかの確認
通水できない場合は、吸引セットのチューブの接続や、配管などに異常がないかを確認しましょう!
2) 患者に声をかけ、吸引カテーテルを挿入する
次に、患者さんに吸引を開始することを伝え、開口した口腔内に吸引カテーテルを10~13cm挿入します。
このとき、カテーテルの根元を親指で押さえて屈曲させ、吸引圧をかけずに静かに挿入してください。
吸引圧をかけたまま(カテーテルを開放したまま)挿入すると、口腔内に吸い付いて粘膜損傷が起きることも。
※吸引器の種類によっては屈曲させない場合もあります。施設で採用している吸引器の種類を確認しましょう
患者さんの状態によって、開口ができずカテーテルの挿入が困難な場合もあります。患者さんに合わせた開口の方法を選びましょう。
3)唾液→痰の順に10秒以内を目安に吸引する
口腔内に唾液と痰がある場合、唾液→痰の順で吸引を実施します。指をこすり合わせるように回転させて圧を分散しながら、吸引カテーテルを動かしていきます。1回の吸引時間は10秒~15秒以内を目安に行いましょう。
このとき、吸引に合わせて咳嗽を促すと、痰が咽頭・口腔内に喀出されて除去しやすくなります。
口腔内には細菌が多く存在しています。気道にある痰を吸引する必要がある場合は、新しいカテーテルに交換してから実施しましょう。
吸引時間が長くなると、低酸素状態になることもあります。顔色・SpO₂の低下・呼吸状態などを観察しながら吸引を行ってくださいね。
呼吸・循環状態が落ち着いたのを確認してから、再度吸引を行います。
●同じ吸引カテーテルで吸引する場合:
カテーテルを清浄綿で清拭し、通水してから吸引する
●吸引カテーテルの汚染がひどい場合:
新しい吸引カテーテルに交換し、通水してから吸引する
吸引は苦痛が強い処置のため、やみくもに何度も実施せず、体位ドレナージなども取り入れながらアセスメントをし、必要最低限の回数にとどめましょう。
4)吸引を終了し、観察する
吸引を終えたら、痰の量・性状、呼吸・循環の状態などを観察しましょう。
その後、患者さんに「吸引を終えたこと」「協力への感謝」を伝えます。使用した吸引カテーテルは破棄し、吸引管に通水して吸引管内の汚れを流しましょう。
鼻腔吸引の手順一覧
鼻腔吸引は、基本の手順は口腔吸引と同じです。鼻腔吸引をする場合は、上咽頭に異常がないか確認してから行いましょう。
鼻腔吸引のコツ
鼻腔吸引ならではの押さえておきたいコツを紹介します。
鼻腔吸引では、15~20cmを目安に吸引カテーテルを挿入します。吸引カテーテルの先端が上向きになっていると鼻甲介に当たり粘膜損傷のリスクがあるため、鼻孔の上側の部分から手首をしならせて、やや下向きにやさしく少しずつ進めましょう。
鼻腔は口腔とは異なり、より複雑で狭い構造に加えて目視できない部分でもあるため、粘膜損傷を起こしやすいといえます。特に、キーゼルバッハ部位は粘膜が薄く血管が集中しているので、丁寧に吸引し、必要であれば吸引圧を下げるなどの対応をしましょう。
抵抗を感じたら無理に進めず、反対側の鼻孔からの吸引を試してください。
口腔・鼻腔吸引あるあるQ&A
口腔吸引と鼻腔吸引は、どちらを先に行うべきなの?
吸引をするときは、まずは患者さんにとって苦痛の少ない口腔吸引を実施します。口腔吸引で分泌物が除去できない場合に、必要に応じて鼻腔吸引を行いましょう。
先に口腔吸引をする理由としては、鼻腔吸引は粘膜損傷リスクが高く、迷走神経反射による徐脈の出現など循環動態に影響する可能性があるためです。
なるべく侵襲の少ない口腔吸引で分泌物を除去し、鼻腔吸引をするときはより丁寧に行うことが大切です。
食事や飲水時にむせて吸引するとき、どんなところに注意したらいいの?
食事や飲水時にむせてしまったときの吸引は、嘔吐や誤嚥のリスクが高いです。
急がなければと慌ててしまいますが、まずは落ち着いて患者さんを側臥位にし、顔を横に向けましょう。
むせこんでいるときは口腔内の刺激で、さらにむせてしまうこともあるため、口腔内をむやみに刺激しないよう慎重に吸引を行い、嘔吐や誤嚥に注意してください。
おわりに
吸引は患者さんにとって苦痛を伴う手技です。
吸引を実施する際には、常に患者さんの状態を観察・評価し、患者さんを気づかうことを忘れずに行いましょう。
一人一人が丁寧に吸引を行うことで、患者さんの不快感を最小限にして、次の処置やケアをスムーズに行うことにつなげることができますよ。
編集:看護roo!編集部 小園知恵(看護師)
新東京病院看護部、集中ケア認定看護師。日本クリティカルケア看護学会、日本集中治療医学会所属。看護関連書籍の執筆をはじめ、急性期看護ケア、せん妄ケア、集中治療後症候群(PICS)予防に特に注力している。
参考文献
- 井上智子(2019).第3章診療に伴う技術G吸引.阿曽洋子・井上智子・伊部亜希編. 基礎看護技術 (8), 医学書院.399-401.
- 露木菜緒.気管吸引、「圧を止めて入れる」「圧をかけたまま入れる」どっちが適切?.
- 本庄恵子・三浦英恵・仁昌寺貴子・田中孝美(2020).CHAPTER3口腔鼻腔吸引.本庄恵子・吉田みつこ監修. 写真でわかる臨床看護技術②アドバンス 呼吸・循環、創傷ケアに関する看護技術を中心に! (新訂版).(pp. 42-19). インターメディカ.
- 道又元裕・露木菜緒(2018).吸引.医療情報科学研究所編 . 臨床看護技術. (pp. 178-185). メディックメディア.
- 日本呼吸療医学会 気管吸引ガイドライン改訂ワーキンググループ(2013).気管吸引ガイドライン(成人で人工気道を有する患者のための).