座位(ベッド上、椅子上)での自力食事摂取
『写真でわかる看護技術 日常ケア場面でのポジショニング』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は座位での自力食事摂取時のポジショニングについて解説します。
栁井幸恵
綜合病院山口赤十字病院/皮膚・排泄ケア認定看護師
ポジショニングのポイント
- 病態によっては、ベッド上や車椅子での食事が余儀なくされることもある。個々の患者の病態を考慮して食事の姿勢を決定する。
- 姿勢によっては、食事が視界に入らない、腹部や胸部の圧迫感による食欲低下、長時間の食事時間による褥瘡発生リスク、誤嚥のリスクなど、考慮すべき点が多くある。
- ベッド上での食事の際は、ベッド上での患者の位置や、使用しているマットレス・ベッドの構造等にも留意する必要がある。
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マットレス・ピローの選択
食事をする際にはいくらかの背上げを行うため、マットレスの質も考慮する。
マットレスの厚みや柔らかさ、材質によっては、マットレスの沈み込みによる姿勢のくずれや、長時間に及ぶ食事の際は同一体位による圧迫の影響等が考えられる。
自動運動ができない患者に選択される圧切替型マットレス等では、背上げを行う際に底付きを予防するための「背上げモード」を設定しなければならないものもあるため、使用しているマットレスの機能を知る。
厚みをもたせた静止型マットレスでは、背上げの際に殿部にマットレスがたわみ、かえって圧が上がってしまうケースもある(図1)。適切なマットレス選択が必要である。
患者の状況(片麻痺の有無や筋力低下など)に応じて、頭部・頸部・四肢・腰背部などを支えるためのピローの準備が必要である。
ベッドの高さや患者の体格に合ったテーブルの高さ調整などが必要である。
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ベッド上座位のポジショニングの進め方
1 ベッドの背上げ前に、背部を支えるピローを挿入する
背部を支えるピローは、背部全体を支えるものを用いる。
背上げ後にピローを挿入しようとすると、殿部の支えが不十分だったりピローの形状がくずれてしまい(ピロー内のビーズが重力とともに移動する等)、均等な圧分散効果が得られなかったりする。
あらかじめ患者の体型に合ったピローを準備し、背上げ前にピローを挿入し、良肢位を整えた後に背上げを行う。
2 患者の位置を確認し、下肢の挙上と背上げを交互に行う
このとき背上げを一気に行うと、マットレスへのはりつきが強くなり、ずれが大きくなる。
場合によっては胸部への圧迫感が大きくなり、呼吸苦を伴い食欲低下を招くことがある。
下肢挙上から開始し、下肢挙上と背上げを少しずつ交互に繰り返し行う。
3 背抜き・足抜きを行う
ピローと身体の間に手を入れ、背抜き・足抜きを行う。
殿部の圧抜きも必ず行い、尾骨部・坐骨結節部の圧とずれを解除する。
4 ポジショニングが整った状態で、いったん全身の傾きや座位の安定性を確認する
患者の座位姿勢を正面・側面から確認し、頭部の傾き、肩・骨盤のラインが平行かどうかを確認し、修正する(図2)。
頸部の保持は、嚥下障害患者に準じて行う。
ピローを重ねて使う際は、大きなピローの下に小さなピローを入れる。これはピローのくずれを少なくすることと、支持面を広くし、患者の安定性を増すことができるためである。
5 テーブルの高さ調整(図3)
食事を置くテーブルは肘の高さをめやすに調整する。
テーブルの高さが高すぎると、上肢の可動域の低下をきたすとともに、視線が上がり頸部の後屈が起こり誤嚥のリスクも上がる。
6 姿勢の確認
食事にかかる時間によっては、30度頭側挙上よりも姿勢がくずれやすいので適宜確認を行う(図4)。
姿勢がくずれると食欲低下や食事の通過障害、誤嚥のリスクも高くなる。
7 食事終了後
食事終了後は、経鼻経管栄養時と同様に、30~60分をめやすに座位姿勢を続け、その後ベッドを平坦に戻し、側臥位に向けて寝衣のずれ等を直す。
ベッドの頭側挙上機能は最大90度近くまで上げることができる。
しかし、この角度まで上げてしまうとベッド上では長座位の姿勢になるため、腹部に圧迫感が発生し、食欲や摂取量の低下を招く。
患者の体格を考慮し、また訴えを傾聴し、適切な角度を選択し、ピローを用いて角度調整を行う。
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端座位のポジショニングの進め方
自らの体幹を支える力があり、食事時間中それが維持できる患者が行う体位である(図5)。
食事による疲労感から徐々に姿勢がくずれ、背中が丸くなり顎が前に出てくる姿勢になると、頸部後屈による誤嚥のリスクが発生したり、疲労感による食事摂取量の低下を招くため、安楽な姿勢の支持と環境調整が必要である。
1)テーブルの高さの調整
テーブルの高さ調整を行い、セットする(図6)。テーブルの高さは肘に合わせる。高いと上肢の可動域を狭めてしまう。
症例によっては、背面開放型端座位保持具のような背面を支えるものと座面クッションの併用が望ましい。
2)背面開放型端座位保持具を用いた場合
背面開放型端座位保持具とは、テーブルと一体型となった背面を支える背もたれがついたもので、座位保持が困難な患者に用いる。
装置の高さを、上肢が上がりすぎないように調整する(図7)。
装置によっては背面が硬く、身体との接触面が少ないため部分圧がかかったり安定性が得られないものもあるため、ピロー等を用いてより安定感が増すように使用するとよい(図8)。
ピローはウレタンタイプなど、ピロー内のウレタン等が縦方向に使っても移動しないものを使用する。
もしくは、ピロー内のビーズ等がずれてしまう場合、ピローを2つ折りにしてビーズのずれをなくすようにして挿入するとよい。
ビーズやビーズタイプのピローは内部でビーズが移動し、平均的に圧分散できなくなる。
そのため、下記の方法でビーズを固定して使用するとよい(図9‐①、図9‐②、図9‐③)。
セッティング後、全体を見て、身体の傾きや、上肢の可動域等を確認する(図10)。
端座位は、座位姿勢の保持の持続が必要であるが、ベッドから離れられるのであれば、背もたれのある車椅子座位や椅子での食事を検討する。
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車椅子座位のポジショニングの進め方
端座位よりも、背もたれがあることで姿勢保持がしやすい。
一般的に施設内にある車椅子は移動手段目的で作られており、座面サイズや高さなどどのような患者にも合うように大きく作ってある。
背もたれや座面クッションはハンモック状に折りたためる状態であり、座位時にはその安定性が不十分である。
車椅子のサイズや高さ、座面クッションの材質など患者の体格に合ったものを準備するのが難しく、車椅子サイズが合わない場合はピローなどによるポジショニングが必要になる。
1 車椅子の選択
車椅子にはさまざまな種類がある。一般に移動手段としての車椅子は座面が大きく、患者が座ると後ろや左右に余分なスペースができ、体幹や骨盤の傾きに影響する(図11)。
可能な限り患者の体格に合った車椅子の選定を行うことが必要である。
2 座面クッションの評価
背もたれがハンモック状の形状になっている車椅子の場合、背中や座面に座面クッションやピロー等を用いて姿勢を保持する。
座面クッションは、その材質がさまざまで、材質・厚み・硬さ(安定性)等に配慮する必要がある。
なかには、クッションの下に板状のものを入れ、座面クッションのたわみを調整するものや、圧切り替え型のクッションも開発されている(図12)。
クッションは、厚みによってアームレスト・フットレストとの高さが不適合になる場合があるため、厚みの観察も重要である。
ただし、自力で体重の移動が困難な患者の場合は、厚みが5cm以下のクッションでは、底付きを起こすため、選択しない。
3 フットレストの使用
食事の際に、しっかりと床面に足底が着いていることが必要である(図13)。
フットレストに足をのせると、姿勢が背面に傾斜し、前傾姿勢を保てないので嚥下機能にも影響する。
また、下肢の挙上による腹部の圧迫感につながる。食事の際は、フットレストを使わずに足台等の準備もしくは、足底が床面に着くように、車椅子の高さを調整する。
4 背面の調整
背もたれのたわみも患者が後屈する原因となるため、ピローで調整する。
軽度前屈位姿勢の保持には、テーブルを準備し、上半身を一部テーブルに預けるように調整するとよい。
車椅子に深く座り、余分なスペースをピローで調整したら、仙骨座りや左右の傾きがないか正面と側面から姿勢を観察する。
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引用・参考文献
1.迫田綾子 編:誤嚥を防ぐポジショニングと食事ケア―食事のはじめからおわりまで.三和書店,東京,2013.
2.三鬼達人 編著:今日からできる摂食・嚥下・口腔ケア.照林社,東京,2013.
3.聖隷三方原病院嚥下チーム:嚥下障害ポケットマニュアル第2版.医歯薬出版,東京,2005.
本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『写真でわかる看護技術 日常ケア場面でのポジショニング』 編著/田中マキ子/2014年8月刊行/ 照林社