嚥下障害患者のリハビリテーション場面でのポジショニング

『写真でわかる看護技術 日常ケア場面でのポジショニング』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は嚥下リハビリテーション場面のポジショニングについて解説します。

 

栁井幸恵
綜合病院山口赤十字病院/皮膚・排泄ケア認定看護師

 

 

嚥下リハビリテーションの課題要因・目標・介入

 

ポジショニングのポイント

  • 嚥下リハビリテーションの際は、背上げ角度は30~60度が好ましいとされる。
  • 誤嚥を起こさない頭頸部の角度調整(頸部軽度屈曲位)が必要となる。
  • 頭頸部の姿勢を保持するためにも、全身の姿勢調整が必要になる。
  • 麻痺がある場合、麻痺側の安定に配慮し、嚥下の際にも誤嚥を防ぐ体位が必要となる。

 

 

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体位の保持(背上げ30~60度)の基本

30~60度の背上げ体位では、物理的に「気道が上、食道が下」になる。

 

そのため、重力で食物が食道に入りやすくなり、誤嚥しにくいこと、舌の動きが悪く食塊の送り込みが困難でも重力を利用して有利になる、背上げによる疲労感が少ないなどの利点がある。


嚥下リハビリ初期は30度から開始し自力摂取に向けて徐々に角度を上げていく。


30度では頸部が伸展位になりやすいので、枕の高さ調整が重要である。


患者の状況(片麻痺の有無や筋力低下など)に応じて、頭部・頸部・腰背部・四肢などを支えるためのピローの準備が必要である。

 

 

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30度背上げの場合

1 健側を下にした側臥位をとる(一側嚥下)

頭側挙上する前にピローを挿入しポジショニングを行う。このほうが、麻痺側への姿勢調整が行いやすく、不良姿勢にならない。


体位は、麻痺側にピローを入れ軽度健側側臥位を向ける。健側を下にすることで、重力を利用し食塊が健側に流れるようにする。


上半身の下に挿入するピローが高いと上肢が内転し胸郭を狭めてしまうため、あまり高くしない(図1)。下肢についても同様に体幹がねじれないように麻痺側を軽度挙上する。

 

図1 30度背上げの場合

30度背上げの場合

 

経管栄養の記事では、消化管の通過を考慮し右側臥位をとるほうが好ましいとしたが、嚥下リハビリの場合は摂取量もそれほど多くないので誤嚥のリスクを避ける体位を優先する。

 

2 背上げを行う

経鼻経管栄養時と同様に、下肢の挙上から開始し、背上げと下肢挙上を交互に少しずつ繰り返しながら30度まで背上げを行う。

これは、下肢と背上げをそれぞれ行うよりずれを少なくできるからである。


背上げ後、ピローと身体の間に手を入れ、上半身から殿部、下肢まで背抜きを行う。

また、下側になっている健側も同様に行う(図2)。

 

図2 背上げ後の圧抜き

ピローと身体の間の圧抜きを行う

ピローと身体の間の圧抜き


自力で食事をとる際には上肢を使うが、上肢の筋力や支える持久力の低下を認める場合は、上肢の下にもピローを入れ体位を支える。この際、肩が上がりすぎないよう自然な高さに調整する。

 

3 頭頸部の角度を調整する

頭頸部の角度は頸部軽度屈曲位で、胸部とオトガイ部(下顎正中)の間が3~4横指程度の間隔がめやすとなる(図3)。

この高さになるように枕を調整するが、自力で頭頸部の支持が可能な場合はあまり高くしない。

 

図3 頭頸部の角度(頸部軽度屈曲位)

頭頸部の角度

 

4 頭部を麻痺側に向ける

嚥下後、咽頭部に残渣物がある場合、頭部を麻痺側に向け頸部回旋を行うことで健側の咽頭部が広くなり、残渣物が流れやすくなる(図4)。

 

図4 咽頭部に残渣物がある場合

残渣物がある場合、頭部を麻痺側に向けて空嚥下をする

咽頭部に残渣物がある場合の対処法


ただし、頭部を麻痺側に向けることで視覚確保が困難になり、嚥下周囲筋を疲労させてしまうこともあるため、基本的には正中位で食塊を嚥下し、残渣物がある場合、頭部を麻痺側に向けて空嚥下をすることで、誤嚥のリスクに対処する方法をとる。

 

 

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60度背上げの場合

60度背上げは、実際に患者がベッド上で経口的に食事をする際に用いられる角度である。


30度に比べると、食事内容を直接見ることができ、嚥下のうえでも生理的角度に近い状態となるため、食事には適した角度と言える。

 

長時間座位姿勢をとると、疲労感や尾骨・坐骨結節・踵部等にかかる圧の上昇など、褥瘡のリスクも考慮する必要がある。


詳しくは、「座位(ベッド上、椅子上)での自力食事摂取」(後日公開)参照。

 

 

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引用・参考文献

1. 三鬼達人 編著:今日からできる摂食・嚥下・口腔ケア.照林社,東京,2013:106-107.

2. 迫田綾子 編:誤嚥を防ぐポジショニングと食事ケア.三輪書店,東京,2013:31-53.

3. 藤島一郎:口から食べる嚥下障害Q&A 第4版.中央法規出版,東京,2011:103-104.


 

本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『写真でわかる看護技術 日常ケア場面でのポジショニング』 編著/田中マキ子/2014年8月刊行/ 照林社

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